8.女王陛下のティールーム

文字数 2,587文字

・・・終わったか?



幾度かの爆発音の後、城をも揺るがす大轟音が鳴り響き、それからしばしの静寂。



あれだけの衝撃だ。

噂の魔神王もただでは済むまい。



或いは死んだか・・・?




ごごごごご・・・




そう思いを巡らせていたところ、重い音を響かせながら扉がゆっくりと開かれていく。

まず初めに出てきたのは、アーマに肩を借りながらよろよろと歩く別乃世の姿。



すまん、アーマ。

まだ股に力が入らん・・・

お気になさらず、足元に気を付けてくださいね。
大げさな・・・
(なんと・・・

無傷とは言いがたい状態ではあるが、五体無事に残っているとは)



さすがは魔神王と感嘆の意を表すが、影そのものの見た目故にその様子は誰にも分からない。

だが続いて現れたその姿には、さすがに驚きを隠せなかった。



ぬぅ・・・

腰にくるわい・・・



そこには別乃世ほどではないが、同じくよたよたと歩く妖精王の姿が。



い、如何なされた王よ!
まったく情けない・・・


ああ、あなた。

申し訳ありませんが、この無様な姿については内密にお願いします。

は・・・!

しょ、承知致しました!


ですが、これは一体・・・

―――内密です。

それと、今から場所を変えて会合を行います。

私の客室に通しますので、あなたは引き続きそちらの警護をお願いします。


・・・プテラ?

はい、こちらに!
お茶とお菓子を持ってくるよう、給仕に伝えて。
かしこまりました!







―――さて。

有耶無耶になっておりましたので、まずはきちんとご挨拶から致しましょう。



ここは女王の客室。

来客と談笑を行うための、清楚な造りのテーブルと椅子。

用意されたお茶に合うよう、テーブルの上にはクッキーの盛られた皿が並べられていた。



ではまず私から。

フェアリア・フォーレストの女王を務めております、モルフォリア・インセクリーフと申します。


そしてこちらは国王、ヘラクレイス・ダイヘルム。

おぅ、ダイヘルムだ。
ご挨拶が遅れて申し訳ない。

魔神王とか言われてるごく普通の元人間、別乃世・望です。

神界から別乃世さんの国へ派遣されて来ています。


時空神アナザを主神とする女神、アーマ・シュクレイムと申します。

地獄から、そこの阿呆の監視役として派遣されている。

第六団所属のトリカラ・マイウーだ。

・・・メンタイ・ハクマイナーです。
ハクマイナー?

聞かん名だな。

・・・
遠路はるばるようこそ。

では早速ですが、この度の件についての申し開きを伺いましょう。







・・・つまり、使用人が手紙を破棄していたので昨日まで気が付かなかったと。
言い訳すると、そうなります。
そうか。

じゃあしょうがねぇな。

はい、あなたは少しお黙り下さいな。
お、おぅ・・・
お分かりとは思いますが、使用人の失敗は使用者の責任。

事情は分かりましたが、それで治まる話でもありません。

それはまさに、おっしゃるとおり。

面目次第もございません。

さりとて、私達としても無益な争いはしたくありません。

ありませんが・・・


何分既に降伏の期日も過ぎており、明日の開戦を待つのみ・・・

それを止めるとなると、相応の理由が必要です。

正直、国を治めている実感もないし、迷惑を被る国民すらいないからな。

こちらが無条件降伏するというわけにもいかんのだろうか?

無条件降伏となると、また問題が生じます。

降伏勧告を無視し続けた上での戦争開始、そして直前での全面降伏となりますからね。


圧倒的武力により脅しをかけて、戦争せざるを得ない状況に追い込み屈伏させた・・・

侵略戦争と近隣諸国に取られかねません。

ことの成り行きを説明すれば、俺の方が悪いのは明白だろう。

必要とあらば、どこへでも説明しに行かせていただくぞ。

善意で考えるのならば、それで良いかもしれませんが、我が国にも敵対国はあります。


この件を契機に言い掛かりを付け、我が国の国力を落とさんと画策する国もあるやもしれません。

つまり、戦争は避けられないと。

まぁアレだ。

こっちとしてもナメられてた訳じゃないと分かったわけだからな。


何も国ごと潰すつもりはない。

だからあとは・・・

どう戦争をするか、ですね。
「どう」というと?

派手に戦ったふりをして、丸く収める腹積もりか。

ああ、なるほど。
しかし、それをしようにもウチの戦力なんか実際お前だけだぞ、トリィ。
誰が貴様の戦力だ。
まぁ、そこはワシにちょっと考えがある。


・・・ところで、さっきから一心不乱に菓子を食ってる、そこの娘は結局何なんだ?

・・・・・・

いや、まぁ、何だと言われると・・・

何だろうな?

限りなく部外者に近い関係者です。


口出しは致しませんのでお気遣いは無用です。

どうぞ、私にはお構いなく話しを続けて下さい。

菓子を食う口実のためだけにギリギリ関係者に収まったぞコイツ。
この上なく的確に、関係性を表したまでです。
他意がないなら菓子を食うのをやめてみろ。

これは客人に対して出された善意。

お断りします。

まぁ良くは分からんが、関係者には違いないわけだな。

見たところ、トリカラ・マイウーと同程度の力はありそうだが・・・

同程度?格下だ。
身の程を知るとは殊勝な心掛けです。
分かってると思っていたが・・・


格下はお前だぞ。

おや、何をもってそのような戯れ言を。

あっちの世界でケリはつけただろうが。

貴様の負けだ。

その後の展開をお忘れですか?

貴女は為す術もなく滅びるところだったでしょう。

自爆なんぞ、勝ち数に入るか!
ああ、あの、二人とも落ち着いて・・・

あっちの世界・・・というと、人間界から来たのか?


ふむ、悪魔とも神魔ともつかぬ、その気配。

そして、魔界にそぐわぬ潔癖くさいその霊気・・・

堕天使か?

堕ちてなどおりません!
あ。

お前、それは・・・

言ったらマズいんじゃないのか?

・・・あ。
え、何が?
天使が魔界に居ると知れ渡ると、何かとまずいことになりまして・・・

ほう、そうか。

よもやと思ってはおったが、やはり天使か。

あ・・・
・・・ばらしましたね?
いや、お前の言動だけで十分アウトだったぞ。
す、すいません・・・

まぁまて。

ここはあくまでも二国間での会合の場だ。


当然オフレコの話も出てくるわな。

ソレをわざわざ言い触らしたりはせんから安心しろ。

ああ、そうなんですね。

よかった・・・

―――だが、これで決まったぞ。
お、何かいいアイデアが?

うむ。

魔界に天使なんぞ空前絶後、他にはおらんからな。

このチャンスを逃す手はあるまい。


お前は絶対に側室に入れるぞ!

―――真面目にやって下さいな。


ぴしゃあん!


ぐぉう!?
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登場人物紹介

【魔神】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


 世を憂い、異世界への転生を強く望んだ男。

 女神・悪魔・天使の力をその身に受け「魔神」と化す。

 その後は魔界の一角に領土を与えられ、一国一城の主となる。

【女神】

 アーマ・シュクレイム


 時空神アナザを主神とする女神。

 「魔神」別乃世・望を生み出すきっかけとなった責を問われて神界から魔界へ。

 別乃世・望の監視兼補佐役として送り込まれるが、実質追放処分である。


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【悪魔】

 トリカラ・マイウー


 強欲を司る地獄の第六団に所属する悪魔。

 死霊を操る邪法を司り、結果として「魔神」誕生のきっかけを創ることとなった。

 別乃世・望を監視する任を受け外交員として送り込まれるが、実質左遷である。

 

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【天使】

 メンタイ・ハクマイナー


 唯一神に仕えていた元天使。

 別乃世に力を奪われ魔界に身を堕としたが、神への信仰は失われてはいない。

 力を取り戻し、天界へ還る日を夢見る。


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【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・玲子


別乃世に噛まれることによりゾンビと化した残虐少女。

他人の生命を屁とも思わぬ性根から、自らも多くのゾンビを生み出した。

天使との戦いで魔界に堕ち、別乃世の屋敷で使用人として無理矢理働いている。

【悪魔祓い】

 シスター・カッドロゥ


天使メンタイ・ハクマイナーに仕える使徒。

秀でた身体能力に神霊術を組み合わせ、幾多の悪魔を葬り去ってきた。

阿波津・玲子に食われ、魔界に堕ちた今も従順に神への忠誠を誓っている。

【妖精王】

 ヘラクレイス・ダイヘルム


平和主義の妖精王国フェアリア・フォーレストの王。

重い甲冑を身に纏いながらも暴風魔法を駆使した飛翔方法で高速移動を可能とする。

拳で殴る派。酒と女をこよなく愛する道楽王。

【妖精女王】

 モルフォリア・インセクリーフ


妖精王国フェアリア・フォーレストの女王。

彼女が国を回していると言っても過言ではない。

沈着冷静・常識派。

【小妖精】

 エフェメロ・プテラ


専ら伝令に使われる手のひら大の小妖精。

色々と雑い。

【実況解説妖精】

    リーン・クリケット


フェアリア・フォーレスト闘技場の専業実況解説。

風鈴のように透き通った、非常に良い声の持ち主。

【兎型メイド】

 コニー・リトルキャーロット


フェアリア城で働く獣人メイド。

基本は人型で生活するが、激しい運動の際には兎娘と化す。

弟大好きっ子。

【お使い兎】

 バーニィ・リトルキャーロット


コニーの弟。

人間年齢に換算すると10歳前後。

真面目に仕事に取り組むが、何かしらの失敗はするタイプ。

【闇の精霊】

 クラインノウン・ナロゥフレイド


魔界のさらに深部に潜む闇の精霊・シェイドの末裔。

縁あってダイヘルムに忠誠を誓い、フェアリアの守護衛兵長を勤める。

騎士道精神に溢れる騎士の鑑のような淑女。

【ソードマスター】

 フィラデルフィア・ウォルザンパー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

並ぶ者無き剣の達人と称され、その斬撃は空をも斬り裂く。

【ウィザード】

 サンディエゴ・ノウルーウィー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

あらゆる魔術の祖と言われ、近代に残る数々の魔術の基礎を作った男。

【ナックルカイザー】

 ダラス・ガイナーズ


妖精王国建国初期の英雄の一人。

剣と魔法の入り乱れる戦乱の世を拳一つで渡り抜いた無手の拳王。

【古の卑しき魔王】

 コクオブラァ


妖精王国の王家にのみ伝えられし伝説の魔王。

英雄と並び称された4人の戦士達によりフェアリア・フォーレストの地に封印されていた。


その身は幾度滅ぼされようと蘇る、つまりは不死身である。

(フェアリア・フォーレスト女王、モルフォリア・インセクリーフ述)

【妖精国騎士団長】

  ヘイヤリッパー・ホワイトライン


  クラインノウンと双璧を成す、妖精王国攻めの要。

二刀を操る剣の達人。

忠義に厚く、すこぶる真面目。

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