20.scenario result

文字数 3,341文字

何やっとんじゃあぁぁぁ!
え?
はい、落ち着きなさいな。
ばりばりばり
ぎゃあ!
お、王!
命令通りに働いた、彼に責はありません。

悪いのは貴方と私ですわ。

女王、一体何が・・・

そもそも何故、魔神王がここに?

それよりも、まずは状況を詳しく知りたい。
ああ、アタシも確認したいところがある。

ゾンビ数体を確保と言ったが・・・

具体的には?

具体的にと言っても、ゾンビはゾンビだ。
数は?
そこまでは・・・

詳しく報告は受けていないな。

そこ重要か、トリィ?
捕らえたのが「ゾンビ」だけだと言うならば、シスターと阿波津・玲子が入っていない。
シスター・・・ああ、唯一神教徒の格好をした女か。


そいつなら館ではなく少し離れた建物で捕まえたという報告はあったな。


何やら唯一神教会らしきものの中で十字架を拝んでいたとか。

格好からしてただのアタマのおかしな不法滞在者かと思っていたんだが・・・まさか関係者か?

教会・・・
当然必要ですから。

私が造らせておきました。

勝手にそんなもん造ってたのか、お前ら。
それで?

彼女は無事なのですか?


捕らえられたとはいえ相応の抵抗はしたのかと思いますが・・・

ん?

ああ、抵抗はあった、というか、何か術を使っての抵抗を試みたが何も起きず、あたふたしてるところを押さえ込んだら大人しく捕まったとか。

そんな馬鹿な!
術が使えなかった?

・・・まさかアイツ、神霊術を使おうとしたんじゃないだろうな?

ああ、部下の報告によると、どうやらそのようだ。
なんだ?

何かおかしいのか?

唯一神の力を用いた術が、それが届かぬ魔界で使えるわけはありませんからね。
ああ、なるほど。
え?
「え」?
・・・おいまて。

そっちの阿保はともかく、お前も気付いてなかったのか?

使えない?

いえまさか、そんなはずは・・・


あれ?

使えないだろう?
そんなことはありません!


ですが、こう、明らかにその力が弱々しく・・・

ん?

・・・ああ、それは「シスターの信仰」がある分だな。

つまり信仰心一人分、それがこの魔界で使える神霊術の上限だ。

まぁ、魔界で唯一神を信仰するお馬鹿はおりませんでしょうね。
そんな・・・

我が主の威光が届かぬなどと・・・

いや逆に、魔族から信仰されて嬉しいか?
・・・あの、察するに、何やら聴くべきではない話が混ざっているようなのですが・・・

よろしいので?

ああ、当然他言無用だ。

具体的に「何が」とは言わんがな。

はっ・・・畏まりました。
ともあれ、あとは阿波津・玲子だな。
あれはゾンビなんじゃ?
ゾンビというか、高位のアンデッドだな。

アレをゾンビに数えることは、まずあるまい。

よく分からんが・・・

そいつがおらんと何かマズいのか?

別にマズくはないがな。

目を離すと何をしでかすかは分からんヤツだ。


事を起こすにしても、アタシの預かり知らぬ所でやって欲しくはない。

それは、放っておくとまずい部類なのでは・・・?
ちなみに今回の事件の発端がソイツです。
ああ、書簡を放置していた使用人ですか・・・
近隣の捜索は魔神王が見つかるまで続けるよう言ってある。

どこかに潜んでいたとしても、見つかるのは時間の問題だろう。

「何事もなく」見つかればいいがな。
どうかなぁ、何かやらかしかねんなぁ・・・
まぁそれも含めてだ。

お前ら、取り敢えず一旦帰れ。

ヘイヤリッパーに送らせる。


何よりも同盟国の本拠地を占拠しているこの状況が何よりもマズい。

畏まりました、では早急に!







やー・・・

あぶないあぶない♪

いや全くだね。
ひゃあ!?
おっと、大声はまずいよ。

気を付けたまえ。

え、あれ?

オジサン?なんで?

やぁ、ドブロウおじさんだよ玲子ちゃん。
ついさっきまで、他のみんなと一緒に「よちよち」「うーあー」やってたのに・・・
何故しゃべれるのかって?

それはゾンビのフリをしていたからだよ玲子ちゃん。


私は君の次に良いものを食べていたからね。

「より良い餌」を頂けた分、他の者達よりも力を付けるのが早かったというわけだ。

へー、さすがドブロウおじさん、ズルいよねぇ。
キミほどじゃあないさ。
でも、じゃあなんでおバカのフリしてたの?
その方が都合が良いと判断したからだよ。


キミも同じだろ?

愚かな振りをしてこの状況を生み出した。

えー、どうかなぁ?
その恐ろしさは人間の頃と変わらないなぁ玲子ちゃん。


・・・さて、先程責攻めてきた鎧の軍勢。

大人しく捕まらなかった理由は・・・私と同じかね?

おじさんの狙いとかは分かんないけど・・・

わたしはただ、おいしいものが食べたいなぁって。

うむそうだろう。

では二人で協力しようじゃないか。


その方が確実、そうだろう?

・・・そうねぇ、ドブロウおじさんとならいいかな♪
良し、では私が程よい餌を見繕おう。

ああ、勿論一番美味しい所は君が食べていいよ。


私は残りの美味しい所を頂くからね。

おじさんのそういうところ、だぁい好き♪







・・・ったく、久々の戦争だってのに、町すらねぇじゃねぇか!


しかもどこにいるとも分からん魔神王を探し出せとか・・・

こんなもん、見つける訳ねぇだろうが、やってられっかよ!

やぁ、こんにちは。
う、ぉ、男!?

てめぇ、まさか魔神王かっ!?

あー、いやいや。

そんな大層な者じゃあないんだよ。


まぁ、見れば分かると思うかがね。

ただの使用人さ。

使用人・・・魔神王のか?

丁度いい、ちょっと連いてこい!

連行する?

いやいや、私は魔神王の居場所なんか知らないよ?


何も知らない使用人一人を連れて行ったところで手柄にもならないだろう。


だったらどうだ、それよりも私と取引しないかね?

・・・取引?
そう、取引だ。


何、私の要求は簡単なものだ。

この国から出たいんだ。

安全に出られるルートを教えて見逃してくれ。

はぁ!?


本気でそんな話が通ると思ってんのか?

お前が魔神王じゃないって言う保証もねぇだろうが!

私は魔神王などでは断じてない。


断じてないが・・・

仮にそうであったとして、それを逃して君に何か不利益があるのかね?

・・・あぁ?
私と出会った事実は君しか知らないんだ。

誰がその責を咎められる?

・・それはオレにも旨味があって言ってんだろうな?

勿論だとも。


だが先に言っておくと、残念ながら私に手持ちの金はない。


私の手持ちが、というよりこの国に目ぼしい金はないと言った方が正しいか。


・・・だが、女は融通できる。

女?

さきほど君は「久々の戦争だってのに」と言っていたね?


・・・略奪したかったんだろう?

金を、女を。

・・・!

てめぇ、何を・・・!

いや、君を咎めるつもりは一切ないよ。

戦争なんてものはそういうものさ。


私と一緒に逃げてきたメイドがいる。

あちらの茂みで身を隠すよう言っているのだが・・・見えるかね?



そう言ってドブロウが指示した方向を見やると、数メートル先の茂みの中に、女がひとり潜んでいるのが見て取れた。


言うまでもない、阿波津・玲子であるが。



ほぅ・・・いいじゃねぇか。
器量は良いだろう?

アレを君に差し上げよう、好きにしたまえ。

・・・いいのかよ、お前?
なに、同僚とは言え取り得のない女だ。

一緒に逃げては来たが、足手まといになられては面倒だからな。

何でわざわざそんなやつを連れて逃げてんだ?
だってほら、今まさに「役に」立ってるじゃあないか。
・・・悪党だな、てめぇ。
生き延びるための手段に善も悪もないさ。

誰でもそうするし、無論私もそうするだけだ。


さぁ、取引は成立したと思ってよいのかな?

知らねぇな。


・・・だが、あっちの方にはまだ兵隊は行ってねぇはずだ。

まっすぐ行けば海に出る。

海岸沿いに東に行けば、でかい街が見えてくるんじゃねぇかな。

ありがとう、あとは好きにしてくれたまえ。

あの茂み、遠目からなら目立たんはずだ。


君も私に言われるまで彼女の存在に気付かなかっただろう?


声さえ立てなければ誰にも見つからないはずだ。

さっさと失せな。
ああ、そうするよ。

声さえ立たせなければ良いんだ。


・・・声さえ、ね。









―――翌朝。


別乃世達が到着し、館の制圧は解かれた。

その後も阿波津・玲子の探索は続けられたが見つからず、数日後にはそれも打ち切られた。


探索の際、数人の兵士が行方不明となっているが、現場と思われる場所に残された大量の血痕から獣に襲われた可能性が高いものと判断。

作戦行動中の事故死として処理された。



真相は、魔神王と妖精王、そしてその側近のみの知る処―――

  第一章【妖精王】END
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登場人物紹介

【魔神】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


 世を憂い、異世界への転生を強く望んだ男。

 女神・悪魔・天使の力をその身に受け「魔神」と化す。

 その後は魔界の一角に領土を与えられ、一国一城の主となる。

【女神】

 アーマ・シュクレイム


 時空神アナザを主神とする女神。

 「魔神」別乃世・望を生み出すきっかけとなった責を問われて神界から魔界へ。

 別乃世・望の監視兼補佐役として送り込まれるが、実質追放処分である。


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【悪魔】

 トリカラ・マイウー


 強欲を司る地獄の第六団に所属する悪魔。

 死霊を操る邪法を司り、結果として「魔神」誕生のきっかけを創ることとなった。

 別乃世・望を監視する任を受け外交員として送り込まれるが、実質左遷である。

 

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【天使】

 メンタイ・ハクマイナー


 唯一神に仕えていた元天使。

 別乃世に力を奪われ魔界に身を堕としたが、神への信仰は失われてはいない。

 力を取り戻し、天界へ還る日を夢見る。


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【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・玲子


別乃世に噛まれることによりゾンビと化した残虐少女。

他人の生命を屁とも思わぬ性根から、自らも多くのゾンビを生み出した。

天使との戦いで魔界に堕ち、別乃世の屋敷で使用人として無理矢理働いている。

【悪魔祓い】

 シスター・カッドロゥ


天使メンタイ・ハクマイナーに仕える使徒。

秀でた身体能力に神霊術を組み合わせ、幾多の悪魔を葬り去ってきた。

阿波津・玲子に食われ、魔界に堕ちた今も従順に神への忠誠を誓っている。

【妖精王】

 ヘラクレイス・ダイヘルム


平和主義の妖精王国フェアリア・フォーレストの王。

重い甲冑を身に纏いながらも暴風魔法を駆使した飛翔方法で高速移動を可能とする。

拳で殴る派。酒と女をこよなく愛する道楽王。

【妖精女王】

 モルフォリア・インセクリーフ


妖精王国フェアリア・フォーレストの女王。

彼女が国を回していると言っても過言ではない。

沈着冷静・常識派。

【小妖精】

 エフェメロ・プテラ


専ら伝令に使われる手のひら大の小妖精。

色々と雑い。

【実況解説妖精】

    リーン・クリケット


フェアリア・フォーレスト闘技場の専業実況解説。

風鈴のように透き通った、非常に良い声の持ち主。

【兎型メイド】

 コニー・リトルキャーロット


フェアリア城で働く獣人メイド。

基本は人型で生活するが、激しい運動の際には兎娘と化す。

弟大好きっ子。

【お使い兎】

 バーニィ・リトルキャーロット


コニーの弟。

人間年齢に換算すると10歳前後。

真面目に仕事に取り組むが、何かしらの失敗はするタイプ。

【闇の精霊】

 クラインノウン・ナロゥフレイド


魔界のさらに深部に潜む闇の精霊・シェイドの末裔。

縁あってダイヘルムに忠誠を誓い、フェアリアの守護衛兵長を勤める。

騎士道精神に溢れる騎士の鑑のような淑女。

【ソードマスター】

 フィラデルフィア・ウォルザンパー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

並ぶ者無き剣の達人と称され、その斬撃は空をも斬り裂く。

【ウィザード】

 サンディエゴ・ノウルーウィー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

あらゆる魔術の祖と言われ、近代に残る数々の魔術の基礎を作った男。

【ナックルカイザー】

 ダラス・ガイナーズ


妖精王国建国初期の英雄の一人。

剣と魔法の入り乱れる戦乱の世を拳一つで渡り抜いた無手の拳王。

【古の卑しき魔王】

 コクオブラァ


妖精王国の王家にのみ伝えられし伝説の魔王。

英雄と並び称された4人の戦士達によりフェアリア・フォーレストの地に封印されていた。


その身は幾度滅ぼされようと蘇る、つまりは不死身である。

(フェアリア・フォーレスト女王、モルフォリア・インセクリーフ述)

【妖精国騎士団長】

  ヘイヤリッパー・ホワイトライン


  クラインノウンと双璧を成す、妖精王国攻めの要。

二刀を操る剣の達人。

忠義に厚く、すこぶる真面目。

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