別乃世・望アフター ~別の世を望んだ者の其の末路~

13.第二回戦・天使の咆哮、闇の計略

エピソードの総文字数=4,454文字

・・・改めて。

クラインノウン・ナロウフレイドだ。


よろしく頼む、魔神王。

はじめまして。

別乃世・望と申します。



二回戦ともなれば慣れたもの。

両組共に、滞りなく書斎のセットに入り込む。



(魔神王・・・


改めて見ても何の覇気もオーラも感じられない。


だが忘れるな、こいつはダイヘルム王と対峙し、あまつさえ痛手を負わせている。


何やら特殊な術を操るタイプと見るべきか)

しかし・・・

秘書対決とはまた、何をすればいいのかさっぱりな・・・

これはあくまでも私とそちらのハクマイナーとの勝負だ。


貴様は何も考えず、ただいつもどおりに過ごしているだけでいい。

いつもどおり・・・
そうだ。

いつもどおりに机に付いて、いつもどおりに仕事をしていればいい。

・・・本当に?
むしろ余計な気は回すな。

場を回すのは私の仕事だ。

・・・心得た。



意を決し、書斎に添えられた事務机に座る別乃世。



・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・おい。
ん?
取り敢えず、こう、何だ、その辺りの書類などに目を通すなりしてはどうだ?
そうか?

分かった。



クラインノウンに促されるまま、別乃世は机に置かれていた書類の束をぱらぱらとめくってみる。



・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・おい。
ん?
お前・・・読んでるか?それ。
読めん。
・・・ああ、難しい字があるのか?

どれ、どこが読めない?

一言一句たりとも。
・・・見せてみろ。
どうぞ。
・・・・・・



別乃世から差し出された書類の束をぱらぱらとめくる。

その内容は、特に理解に苦しむ特殊な専門用語もなく、学生程度の知識で十分に読み取れる報告書である。



・・・これが?
まったく読めん。
・・・魔界共通語だぞ?
残念ながらさっぱり。
いや貴様、仮にも魔界の一国の王が、共通語を読めないとか・・・

それは一体どうなんだ?

縁もゆかりも存在さえも知らない土地にいきなり放っぽり出されて、たかだか一ヶ月やそこらでそこの言語が覚えられるか!
む、むぅ・・

いや、しかしだな、国を治める者として、文字の読み書きすらできんなど・・・

言葉は通じているんだ、何の問題もない。
そういうもの・・・か?
そもそも何で会話は成り立っているんだ?

文字はうねうねなのに。

文字と違って言葉は魂で伝達しあっているからな。


いやしかし・・・

これが読めないか、魔神王。

気にするな、何ら不便は感じない。
・・・だが何だ、ならば貴様、書類が読めないのであれぱ、普段は一体どんな仕事をしているんだ?
何も?
・・・何も?
何も。
そのようなことを威風堂々と・・・


正気か貴様。







ふむ、あちらは少々苦戦しているようだな。


・・・大丈夫か?お前のところの王。

ワシですら書類に署名ぐらいはやってるぞ?

お気遣いなく。

別に私の主ではありませんので。

お、おぅ、そうか・・・

まぁ、いつまでも向こうの様子を窺っている訳にもいくまい。

ワシらも始めるぞ。

良いでしょう。



試合開始の合図からしばし別乃世サイドのやり取りに耳を傾けていたダイヘルムが、鎧をがっちゃんがっちゃん言わせながら席に着く。

・・・鎧はそのままで?
ああ、脱ぐと色々と面倒なんだ。

さすがに籠手は外すがな。


(がちゃがちゃ)


―――すまんがそっちの棚にでも置いといてくれ。



ダイヘルムが外した籠手をハクマイナーが受け取る。



―――軽い。

これは・・・ミスリル鋼?

ああ、それを更に特殊加工した特注品だな。

薄く延ばして何重にも重ねて強度を上げている。


軽さがウリのミスリルだが、胴体部分なんかはそれを度外視して重量を増やしたりもしてるがな。

腕周りは軽さ重視だ。

なるほど、良い技術士をお持ちですね。
まぁな。

腕のいいドワーフを抱え込んでる。

残念ながら製法はシークレットだがな。

ご心配なく。

私には必要ありません。

そうか?

まぁいい―――始めるとするか。


まずは決裁書類の確認からだな。

そこのカゴに入ってるやつだ、取ってくれ。

了解しました。

これは・・・支出の伺い書類ですね。

経常的な経費の支払いと・・・大きめの修繕工事が一件。


―――どうぞ。

おう。

(にぎにぎ)

・・・あの?

書類と一緒に掴んだ私の手を放して頂いても?

ん?

おう、スマンスマン。

・・・・・・
どれ・・・

ふむ、修繕はアレだな、新しく入ってくるメイドの部屋のリフォームだな。


新入りメイドの資料、あるか?

はい、こちらに。
準備がいいな。

貸してくれ。

どうぞ。
うむ。

(にぎにぎにぎにぎ)

・・・・・・あの?
ん?

・・・おお、手か。

スマンスマン。

・・・・・・







「こ・・・これは意外な展開になって参りました!

かたや文字が読めない魔神王、そして一方のダイヘルム。

これはまさか・・・セク・ハラか!?」







・・・セクハラ?
セクハラ、性的な嫌がらせだな。

主に男性から女性に対するものが多いが、昨今では女性から男性に向けられるものも多いと聞く。

いや知ってるけど・・・

魔界でも問題になってるの!?

当然だ。

貴様、魔界を何だと思っている?

いや・・・ん?

混沌渦巻く弱肉強食、暴力がすべての世界・・・?

そのような輩がいないとは言わないがな。

そんな無法状態で国家の維持などできるはずがあるまい。


少しは考えて物を言ったらどうだ魔神王。

ぐぬぬぬ・・・







ふむ・・・年は若いな、見た目も幼い。

だが、この写真では顔しか分からん。


肝心の首から下が映っている写真はないのか?

若しくはスリーサイズの情報は?

・・・・・・







「・・・!

女性部下に対するこの要望!

まさにセク・ハラ発言だ!


しかし、どういうつもりだダイヘルム!

秘書対決でセク・ハラ行動は得点に繋がらないことは明白!

これは一体・・・いや?

そうか・・・これはまさか・・・!」







どうした、資料はないのか?

なら仕方がない、顔写真から推測するしかあるまい。


この顔は・・・

肉付きは良さげだな。

それにこの首筋のラインからして・・・

90台は堅いと見た!


ハクマイナー、お前はどう見る?

・・・・・・(いらっ)







「さらに畳み掛ける怒濤のセクハラ!

これはやはり・・・

クロス・チェンジを利用した外法!

セクハラによりハクマイナーの動きを封じる作戦か!


しかし・・・!」

「おいなんだ、卑怯じゃねぇか?」


「どうしたダイヘルム!」


「一戦取られて焦ったか?」

「観客席から溢れる不満の声!


そう!

最終的に観客からの投票で勝敗の決まるこのシステム!

確かに相手の動きは封じられるがヘイトを集めては意味がない!


それに気付かぬはずはないが・・・

何か考えがあるのかダイヘルム!」






・・・そんなもの、あるはずもありませんわ。

初戦と同じく、側室にできない相手を試合に託つけて楽しんでいるだけでしょう。


あの色呆け馬鹿王・・・!

ま、まぁまぁ落ち着いてください女王さま。







ふむ、資料も意見もなしか・・・

まぁやむを得まい。


ならばお前にも答えられる質問にしよう。

お前のスリー―――

・・・・・・に・・・
ん?
いい加減にしなさい!!!



びーーーーーーー(じゅっ)




うぉあっつぅ!?



不意にダイヘルムに向けられた人差し指から放たれた光線。

額に命中したそれは肉の焼ける音と共に焦げ跡を作った。



こ、光線!?


おい、いいのか!?

そんな術を使ったら―――

ご心配なく。

これはただの「精霊魔法」ですから。



びーーーーー

びーーーーー

びーーーーー

(じゅっじゅっじゅっ)



ぐぉぉぉぉぉ!?



更に他の指からも光線を放つ。

最終的には両の手の指をフルに使った10本の光線が逃げ回るダイヘルムを追い回す。


が、狭いセットの中では思うように避けられない。

結局のところ、ダイヘルムは亀のようにガードを固めるしかなくなった。




無駄な足掻きを・・・!



右手から発する光線を止め、別の術を発動する。

すると、ダイヘルムの周りの空間を囲うように、いくつもの小さな楕円形の歪みが現れる。


そして、その歪みに接した光線は、くんっと折れ曲がり、ガードを固めるダイヘルムの死角を突いてその身を焼き焦がす。



あつっ!あつっ!

何だこれは!?

光線が曲がる・・・水のレンズか!?



そう。

空間に現れた歪みは空気中の水分を凝縮して作り出したレンズ。

それを利用して光線を幾重にも屈折させ、ダイヘルムの守りをすり抜けその身を焼き焦がす。



ぬぉぉぉぉぉ!







「何ということか!

繰り出される光線によりあの妖精王ダイヘルムが一方的に焼かれております!

ハクマイナー当人は精霊術と断言しておりましたが・・・


恥ずかしながら私、このような術は見たことがありません!


女王さま、解説を!」

ああ、はいはい。


「光の精霊を使った光線術。

光の要素の薄い魔界でそれを利用しようという発想に行きつくのがまずは中々素晴らしい。


それに加えて水の精霊を同時に操るあの手腕。

魔界で使うからこそあの程度の威力で済んでいますが、相応の場所で戦えばかなりの脅威となり得ることでしょう。


私の気も少しは晴れました」

「か、解説ありがとうございました!」







なんか・・・向こうは向こうでエラいことになってるな。
・・・そうだ、こちらも呆けている場合ではない。

字が読めぬなら読めぬなりにも役目は全うしてもらうぞ魔神王。

え?
私が書類を読むから、貴様はそれに対する回答を出せ。

署名だけなら貴様でもできよう。

署名以外の筆記が必要ならば私が代筆してやる。

いや、そこまでやらんでも向こうの様子からして勝ちは確定じゃあ・・・
貴様はとにかく働け。
はい。







「―――終了!

そこまでです!」







ストップ!

終わりだ、終了!

終いだ終い!

ちっ・・・
終わったか・・・
御苦労だった、魔神王。





「それでは皆様、採点の方をお願いします!


・・・っと、これは接戦!

意見が別れましたが・・・結果は妖精王サイド!

クラインノウンの勝利だ!」







勝った・・・のか?
おめでとう、クラインノウン。







「ダイヘルムのセク・ハラによるヘイトが響いたか、思うように得点は伸びませんでしたが、それ以上に仕事をこなさずにダイヘルムを焼き続けたハクマイナーの得点が伸び悩んだ結果でしょう!」







これで一対一のイーブンか。

よくやった、クライン。

勿体無き御言葉。

王の力添えあればこそです―――と言いたい所ではありますが。


セクハラについては如何なものかと存じます。

それは苦渋の選択よ、やむを得まい。
さすがは妖精の王を名乗る者、魔法抵抗力は大したものです。

光の精霊力が弱い魔界とはいえ、あの時間を耐えきるとは・・・


次は必ず消し炭にして差し上げます。

しかしなんだ、友好を結ぼうとしている相手国の王を焼くとか、普通に考えたら非常にヤバいよな。

戦争再開待ったなしでは?

その辺りに関しては問題あるまい。

妖精という種族は基本的に面白ければ何でもありだ。

実際に焼き殺していれば別だろうがな。

面白いというか、溜飲を下げたというか・・・

ウケてるのか、コレ?







「これのどこが秘書対決だ!」


「結局黙々と仕事こなしてたのと、国王焼いてただけじゃねぇか!」


「仕方なく採点はしてやったが・・・期待してたのと全然違うぞ!」







・・・・・・
・・・・・・
まぁ、な。







「・・・!

観客席からのお声はごもっとも!


しかしそこは娯楽の殿堂・妖精王国!

次で何とかしてくれるはず、そう私も信じたい!


それではいよいよ最終戦、開始の準備をお願いします!」

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