1.魔神の黄昏
文字数 2,143文字
―――さん・・・
まどろみの中、聞きなれた声がする。
―――起きてください、朝ですよ―――
―――ん?
そうか、もう朝か。
ならば起きねばならないか―――
そうして、重たい瞼を無理矢理こじ開ける。
目を開けると、そこにはいつものとおりの女神の笑顔。
アーマ・シュクレイム―――別乃世の運命を変えた女神である。
窓の外を見やれば、これまたいつもどおりの暗雲立ち込める淀んだ景色。
アクセントとばかりに、時折唸る稲光。
爽やかな朝を匂わす雰囲気など微塵もない。
―――そう、いつもどおりの良い朝なのである。
ここは魔界なのだから。
そう。
天使との戦いの末、人の身から魔神となり魔界へと堕とされてから、すでに一ヶ月の月日が経っていた。
魔神となった今、彼は一国の主となったわけだが―――
ニートはやはりニートのままだったようである。
この一ヶ月、彼は屋敷の敷地から碌に出ることもなく、だらだらと毎日を過ごしているだけであった。
窓の外では変わらず、ゴロゴロと稲妻が唸りを上げている。
アーマの用意した朝食はパンと玉子とソーセージ、それにサラダを付けた、別乃世にとっても馴染みの深いラインナップ。
―――その素材の原型がどのようなものかは怖くて確認できていないが・・・
別乃世曰く「食えればいい。食欲のなくなりそうなことは考えない」である。
少し躊躇いがちに、しかし幾分慣れてきたところもあるようである。
頬を赤らめながらもアーマは別乃世の隣の席に腰を下ろし、顔をゆっくりと近づけた。
申し訳なくもアーマの肩に手を伸ばす。
びくっと小さくその肩が揺れる。
二人は互いに瞳を見つめ合い、やがて・・・
突如として二人の前に姿を現したのは、悪魔トリカラ・マイウー。
別乃世を魔神として魔界に堕とすきっかけを作った張本人である。
どうせロクな理由などあるはずがない。
別乃世を殴り飛ばすべく、右拳をぶらぶらと脱力させながらトリィが歩みを進める。