19.決着、そして精算
文字数 3,801文字
別乃世が巨人の股間に吸い込まれるように突撃して暫く。
あれほどの巨体を持ったあの巨人が音もなく崩れ、欠片も残さず虚空に消え去っていった。
「消えました!一時はどうなることかと思われましたが、怨念の巨人・古の魔王コクオブラァが消え去りました!
止めを刺したのは魔神王!
まさに一瞬!
あの巨人を瞬く間に葬り去りました!」
ウソはついてないんだ、構わんだろう。
貴様の力で滅ぼしたのは事実だ。
少しは箔を付けておけ魔神王。
そうですね。
さて、巨人の始末は終わりましたが、あとは如何いたしましょうか?
・・・止めておきましょう。
盛り上がりに水を指す訳にも参りませんし。
意外と素直に引き下がるな。
最もらしく虚勢を張るものかと思ったぞ。
ふふ、余計な無様は晒しませんよ。
魔力の尽きた私と貴女とでは勝負にもなりませんでしょうとも。
「さて、事態は落ち着きましたが、これは最終戦です!
このまま続行か、それとも・・・
ダイヘルム王、判定願います!」
「うむ。
モルフォリアの魔法を前に終始防戦一方であったトリカラ・マイウー。
だが致命的なダメージは負ってはおらず、更には続く巨大怨霊の召喚。
制御不能とはなったが、モルフォリア単体で攻略できたとは言い難い。
両者の力は拮抗していたと考えられよう」
「続きを行おうにも、巨人との戦いで両者共に精根尽き果てていよう。
無論、投票により勝敗を決するのが筋やも知れぬが、それは無粋というもの。
よって、この勝負は引き分けとしたい。
・・・如何か?」
「異議なし!」
「ああ、なかなかいいものを見せてもらった」
「正に圧巻、あの巨人を生み出したトリカラ・マイウーの死霊術、大したものだ」
「いや、それを言うなら前半の女王の魔法技術、魔界一の肩書きは伊達じゃない」
「そして何より最後の魔神王だな」
「ああ、あの見た目だ、ただの貧弱な若造かと思っていたが・・・」
「さすがに神魔の主神や魔王連中が一目置くだけのことはある」
「会場も文句なし、満場一致のようです!それではこの勝負・・・」
「うむ、我がフェアリア・フォーレストと魔神王国との今宵の勝負、引き分けとする!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
「大したもんだ!」
「フェアリア相手に一勝一敗一分けの、文句なしの引き分けだ!」
「そして彼らを対等なる者と認めよう!
今宵より、我等は同盟国となる!」
そうでもないぞ。
貴様じゃなければヤツは倒せなかったかもしれんからな。
好き好んであんなトコロに突っ込むヤツなんぞ、他におらんだろう。
ああ、シナリオどおりでもあるまいに。
ダイヘルムの野郎、キレイにまとめやがったな。
初戦が始まった時にはどうなることやら、気が気でありませんでしたがね。
何をやらかすかと思えばメイドバトル、更に極めつけはアレだからな。
あの時のお前のあの顔・・・!
あんな顔、初めて見たぜ。
笑い事ではありません。
・・・一度きちんと様子を見に行かなくてはいけませんね。
はっはっ!
やめとけやめとけ。
ガキじゃねぇんだ、好きにやらせときゃあいいんだよ。
むぅ・・・
いや、それは抜きにしても彼とは一度話をしてみたい。
魔神王、か。
アイツもまた、随分と面白いヤツを引っ張り込んで来たもんだ。
おや?
意外に気に入っているようだ。
貴方、ああいったタイプは嫌いじゃあありませんでしたか?
ああ?
・・・ふん、そうだな大っ嫌いだ。
こっちに来た頃の、昔のお前にそっくりだ。
まぁ、実際ただの積もりに積もった煩悩のカタマリだからな。
吸収しても何の足しにもならんはずだ。
「よぉし、あとは祭りだ!皆、街に出ろ!
ワシの奢りだ・・・と言いたいところだが、今日は来賓席のヤツラの奢りだ!
存分に飲んで食って唄って踊れぃ!」
・・・こうして。
魔神王と妖精王との長い一日は幕を下ろしていく。
所変わって玉座の間。
用意された宴用の大きなテーブルと、そこに並べられた料理に酒、色とりどりの菓子の数々。
ダイヘルムとモルフォリア、そして別乃世達だけの祝賀会である。
引き分けという結果は気に食わんが・・・
まぁいいだろう。
実力では手も足も出ず、下らぬ怨霊などに頼った者の言葉とは思えませんね。
確かに試合には敗北しましたが、妖精の王を終始圧倒していたのは私の方です。
精霊の力を借りた術を使ってか?
死霊使いが怨霊を使うのと何が違うのか言ってみろ。
まぁまぁ、終わったことは置いておいて。
どんどん食べて下さいな。
そうだそうだ、ガンガン食ってしこたま飲め!
歩けなくなったら寝室まで運んでやるぞ!
しかしなんだ、これで決着したと思うとひと安心だな。
まぁあれだ、曲がりなりにも王となった以上はその自覚を持たんといかんな。
実態はどうあれ、存在しているというだけで回りに多大なる影響を及ぼすことになる。
それについては身をもって思い知りました。
だが、王としての自覚といってもなぁ・・・
現実問題、何もすることないし?
そうですね・・・
では交易など考えてみては如何でしょう?
幸い我が国との同盟は結ばれましたので、何かありましたら取引を融通させて頂きますが?
まだ領内を詳しく見ていませんが、何かはきっとあるのでは?
・・・まぁ、大したものがあるとは思わんことだ。
貴様の領土は元々誰も領有を主張してない空白地だ。
めぼしい資源があれば、誰かがとっくに自分の縄張りにしているはずだからな。
まぁこっちもそんなに期待はしとらん。
まずは人並みにできる仕事を見つけろ。
むぅ、魔界に来て王にまでなったのにニートのような言われよう・・・
と言うかそもそも貴様、目覚めてからのこの1ヶ月、金はどうしてるんだ?
そりゃあお前、何をするにも金はいるだろうが。
タダで飯が食えるわけがなかろう。
野草やケモノを食ってたってんなら話は別だが。
いや、パンとかサラダとか、綺麗に調理されたお肉とか・・・?
大したものだ。
魔界に転生してニートがヒモに進化したぞ。
あ、いえ!
私も別乃世さんのところに派遣されることになって、色々とお手当てが増えたんです!
だから、これはそれを回して賄っているだけでして・・・
まぁ何か事業を始める目処が付いたら、お気軽に御相談くださいな。
初期投資に掛かる費用などはお貸し致しますわ。
騎士団長がお見えです。
何やら御報告があるとのこと。
お寛ぎの中、申し訳ありません。
騎士団長ヘイヤリッパー・ホワイトライン、御報告に上がりました。
はっ!
街の様子を見たところ、既に御耳に入っている御様子ではありますが・・・
これも形式故、御報告させて頂きます。
・・・失礼、そちらの方々は?
ああ、今日新しく同盟を組んだ国の王と、その連れだ。
構わん、報告を続けろ。
左様でしたか、これは失礼を。
では御報告致します。
先日より国境で警戒線を張っていた魔神王国ですが、本日開戦の期限を迎えたため進軍を開始。
程なく王の居所と思われる館を制圧。
中には数体のゾンビが居るのみであり、特に抵抗もなく無力化に成功。
件の魔神王は見当たらず、現在捜索中ですが・・・
拠点は抑えておりますので我が軍の勝利は揺るがぬものかと思い、御報告に上がりました。
・・・モルフォリア。
そう言えば、国境に派遣していた軍に撤退命令は出したんだっけか?
王?
何やら話が見えませんが・・・
この騒ぎ、我が軍の勝利を祝うものでは?
・・・つかぬことを伺いますが、その勝利した相手というのは・・・
?無論、魔神王・・・ですが・・・
・・・そう言えば貴方、見覚えがありませんが近隣国の王ではありませんよね?
失礼とは存じますが、どちらの方で・・・?
・・・かくして。
妖精王国と同盟を結んだ魔神王国は、その日のうちに妖精王国により責め落とされた。
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