11.第一回戦・女神の慈愛、兎の奉仕

文字数 3,828文字

さぁ、いくぞアーマ。
あ、いえ、そのですね?

いきなりのことで、何がなんだかさっぱり・・・


やっぱり、やるんですか?





王・・・

これは一体どういうことで?

ふ・・・

ここじゃあ詳しく話せんが・・・


国家の威信と誇りをかけての勝負であることに偽りはない。


お前が忠誠を誓った、ワシを信じろ。

全力で勝ちに来い。

はぁ、そういうことでありましたら・・・





さすがにここまで来たら引っ込みがつかん。


ちなみに、こういうのは中途半端にやるのが一番恥ずかしくなるぞ。

吹っ切れて変なハイテンションで突き抜けた方がいい。

で、でも私、こんな大勢の前に出たことも・・・

そ、その上、いちゃらぶ・・・?

おい、魔神王!
・・・む、ダイヘルム!




ダイヘルムの声にそちらを振り向けば、向こうの二人は既にセットの中に入っており、今まさにがっちゃがっちゃと音を立てながらダイヘルムがベッドに潜り込もうとするところであった。



・・・って、鎧のまんま!?
特注の重鋼鎧だからな。

脱ぐのも着るのも小一時間掛かる。

仕方ねぇだろ。

むぅ、それは・・・仕方ない、か?
下らん話をしてる場合じゃねぇぞ。

この勝負、どちらかが準備完了した時点でスタートだ。


即ち・・・ワシがこのフトンを被った時から始まると思え。



すぅ・・・





その言葉と共にダイヘルムの姿が掛け布団に覆い隠され・・・



「さぁ、始まりました!

先手はやはり、ダイヘルム!」



うおおおおおおおおおおおおお!!!



・・・いかん、考えがまとまる間もなく始まった!
と、とにかく私たちも部屋に入りましょうか?
いやまて、ここからなら向こうの部屋の中も見える。

相手の出方を窺ってからでも遅くはないんじゃないか?

え、でも・・・

良いんでしょうか、それ?

「おおっと魔神王、まずは様子見か?


初参加とは思えぬ冷静ぶり。

さては夜トギの愛好家か!?」





・・・「夜トギ」?
あ、はい。

愛好家の間では夜の闘技場、略して夜トギと呼ばれています。

・・・もう好きにして下さいな。





どうやら立派な戦略として定着しているようだ。

さて、ダイヘルムは・・・?





ZZZ・・・
・・・・・・
「対するダイヘルム側はオーソドックス・スタイルできた!


頭から布団を被って寝息をたてるダイヘルム、そしてお玉を手にベッドに近づくリトルキャーロット!


・・・おっと?

だがリトルキャーロット、お鍋を忘れているぞ!?


これではカンカンやって起こせない!」

カンカン?
空のお鍋をお玉でカンカンやって「ご飯ですよ~起きなさーい」というやつでは?
魔界にもあんのそれ!?





(む・・・しくじりおったか?

平静を装ってはいても初の夜トギ、緊張するのも無理はない。


だがワシの方から助け船は出せぬ。

これはあくまでもアーマ・シュクレイムとコニー、貴様の戦いだからな。


自ら活路を見出だすのだコニー!)

・・・・・・
がばっ
(む・・・?)
「おっと、何をする気だリトルキャーロット!

おもむろにダイヘルムの布団をまくり上げたぞ!?」

・・・・・・(ぶんっ)
がんっ!
(うぉっ!?)
「こっ!これは・・・!?」
(ぶんっ!ぶんっ!ぶんっ!)
がんっ!がんっ!がんっ!
「殴っている!

ダイヘルムの鎧を直接お玉で殴っているぞ、リトルキャーロット!」

(なるほど、やつめ・・・!)
「これは・・・ツン・デレだ!


ツンにより溜め込んだフラストレーションをデレにより解放するカタルシス!


デレのタイミングを誤れば逆効果と成りうる諸刃の剣!」

えっ、それも魔界にある概念なの!?
(果たしてコニーに使いこなせるか?

だが面白い・・・


やってみるがいい!)

(ぶんっ!ぶんっ!ぶんっ!)
がいん!がいん!がいん!
「と、これは・・・気のせいか?」
(む・・・お?)
ふんっ!ふんっ!ふんっ!
がっきーん!

がっきーん!

がっきーん!

「フ、フルスイング!?


やはり気のせいではありません!

徐々に、そして大胆に!


お玉を振るう力を強めております、リトルキャーロット!

これは一体!?」

(さ・・・さすがに強すぎやせんか!?

一言声を掛けられてからと思っていたが、そろそろ起きるべきか・・・?)

ぎぃん!
ちっ!
「あぁ!?


あまりの強撃にお玉の方が耐えきれなかったか!

先端部分が折れてしまった!」

(・・・やむを得まい!)


ふ、ふぁ~あ、何だ?騒々し・・・

ざんっ!
うぉぅ!?
「あ~っと、何と!


リトルキャーロット、折れたお玉の切っ先をダイヘルムの枕元に突き立てた!」

な、何事だ!?
あら、お目覚めですか?

ダイヘルム王。

(にっこり)

「枕元に凶器を突き刺す奇行に満面の笑み!


あれはまさか・・・ヤン・デレか!?」

ヤンデレも!?
バカな!?

「いちゃらぶ」対決でヤン・デレだと!?

「ヤン・デレ」 ?

良くは存じ上げませんが・・・


それよりも此度のこの試合、王のお考えは良く分かっております。

お、おう。

国家の威信を掛けた・・・

・・・その大事な戦いに、何故私なのか。

ええ分かっております。


普段このようなお遊び事にお声を掛けて頂きましてもなしのつぶて。


その折に魔神王との戦が始まり、その一因に私の弟が関係していたことにお気付きになり、これ幸いにと私を試合に組み入れたのでしょう。

お、おいちょっとまて。

冷静にだな・・・

ああご心配なく。

国家の威信が掛かっていることに偽りないことは重々承知しております。

試合を投げ出すことなどありません。


ただ・・・


私の可愛い弟バーニィをダシに使ったこと。


・・・それについてはお覚悟なさいませ?

うおおおおおお!?
「これは・・・


どうやら試合の人選にダイヘルム王の私的な事情が混じっていた様子。


私欲に対する私刑が始まろうとしております!

試合は一体どうなってしまうのか!?


対する魔神王はまだ部屋にすら入っていないっ!」

そうだ、忘れてた!
と、とにかく中に入りましょう!





・・・さて、中に入ってみたはいいがどうしたものか。
全く参考になりませんでしたね、ダイヘルム王。
だがこれはチャンスとも見てとれる。

向こうは何だがエラい有り様だ、普通にやってれば勝てるんじゃないか?

普通に、ですか?
うむ、いつもどおりに起こしてもらって、いつもどおりにご飯を食べる。


あとはなんやかんやでタイム・アップまでやり過ごす・・・どうだ?

それなら何とか・・・

やってみます!

ではベッドに潜るぞ!

(ごそごそ)


ぐ、ぐー、ぐー。

(よ、よし、)

別乃世さん、起きてください、朝ですよー

む、もう朝か。

おはようアーマ。

おはようございます。

今日も良い天気ですよ。

雷雲渦巻く良い天気だがな。
「こ・・・れは・・・

何とも筆舌しがたい戦いになってきました!


ダイヘルム側の有り様を見た魔神王、どうやら消極策に出るようだ!


無難に過ごして勝つつもりだぞ!?」

「バカ野郎!何だこの試合は!?」


「やる気あんのか!」


「金返せ!」

あ、あわわわわ・・・
「観客席からの一斉のブーイング!

だがそれもやむ無し!


さぁ第一回戦、どうなってしまうのか!?」

落ち着けアーマ!

周りの声は気にするな。

無理しなくていい、いつもどおりでいいんだ!

は、はい!


(いつもどおり・・・いつもどおり・・・)


こ、別乃世さん!

それでは今朝の「汗」をどうぞ!

首筋の方からお舐め下さい!

なっ!
な・・・!
「「「なにぃぃぃぃぃっ!?」」」
あ、あれ?

そうだ、朝ごはんが先でした・・・?

いや、そこじゃないぞアーマ。
「これは・・・何だ!?


平凡と見せかけてのクリティカル・ブロウ!



私を含め、油断しきっていた観客に突き刺さるキラーワードが飛び出した!


とんだ変態プレイだ魔神王!!!」

バカな、汗舐め・・・?

そんな高等プレイを貴様ら・・・


しかも、「いつもどおり」でその流れ・・・


貴様、何者だ!?

ご、誤解ですダイヘルム王!

汗を舐めていただくのには訳が・・・

「わけ?」


「いや、そんなことはどうでもいい」


「ああ、ということはだ?」

貴様ら、毎朝「汗舐めプレイ」をしとるのかぁぁぁ!?
ぷ、ぷれいでは・・・

って、あれ?私何を・・・

・・・・・・
「「「うおおおおおおおお」」」


「「「すげぇぇぇぇ!」」」


「「「ヘンタイ王だ!!!」」」

・・・・・・!







「・・・終了ーーーー!


それでは皆様、採点に入ります!

お手元のスイッチをどうぞ!」

・・・ 


・・・・・・


・・・・・・・・・

「結果は・・・


やはり圧勝!!!

勝者、アーマ・シュクレイム!


汗舐めプレイ誤爆発言からのリアル羞恥プレイ!


終始顔を赤らめながらの一時間が、観客の心を鷲掴み!」

・・・・・・
いや、ナイスファイト。

よく頑張った、アーマ。

「対するダイヘルム陣営はヒドい有り様!


あのあとも『マズいご飯を食べさせる』、『掃除のふりして殴り付ける』など、病んだ行動に終始しておりましたが、リトルキャーロットがデレることはついにありませんでした!」

あら大変。
ぐぬぅぅ・・・
あの・・・私、もう帰っても?

いえ、控え室にではなくお家の方に・・・


もう、ここにはいられません・・・

まぁ落ち着けアーマ。

何もそこまで恥ずかしがることはない。

恥ずかしがることです!!!
お、おう。
まぁまて。

全ての試合が終わるまで退場はできんぞ。


忘れるな、お前たちはまだ「敵」なんだからな。

ううぅ・・・
しかし、こんな調子であと二試合、本当にやるつもりか?
おうよ、当たり前だ。

ワシを誰だと思ってる?


妖精王ダイヘルムだぞ!


一度始めた祭りを途中で放っぽり出すわけがあるまい!

―――おいリーン、次いくぞ、次!

「かしこまりました、ダイヘルム王!」
いや、うちの残りの二人が参加するかなぁ・・・?
それも計算しての進行だ、心配すんな。
「それでは引き続きまして第二回戦!

入場です!」

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登場人物紹介

【魔神】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


 世を憂い、異世界への転生を強く望んだ男。

 女神・悪魔・天使の力をその身に受け「魔神」と化す。

 その後は魔界の一角に領土を与えられ、一国一城の主となる。

【女神】

 アーマ・シュクレイム


 時空神アナザを主神とする女神。

 「魔神」別乃世・望を生み出すきっかけとなった責を問われて神界から魔界へ。

 別乃世・望の監視兼補佐役として送り込まれるが、実質追放処分である。


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【悪魔】

 トリカラ・マイウー


 強欲を司る地獄の第六団に所属する悪魔。

 死霊を操る邪法を司り、結果として「魔神」誕生のきっかけを創ることとなった。

 別乃世・望を監視する任を受け外交員として送り込まれるが、実質左遷である。

 

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【天使】

 メンタイ・ハクマイナー


 唯一神に仕えていた元天使。

 別乃世に力を奪われ魔界に身を堕としたが、神への信仰は失われてはいない。

 力を取り戻し、天界へ還る日を夢見る。


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【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・玲子


別乃世に噛まれることによりゾンビと化した残虐少女。

他人の生命を屁とも思わぬ性根から、自らも多くのゾンビを生み出した。

天使との戦いで魔界に堕ち、別乃世の屋敷で使用人として無理矢理働いている。

【悪魔祓い】

 シスター・カッドロゥ


天使メンタイ・ハクマイナーに仕える使徒。

秀でた身体能力に神霊術を組み合わせ、幾多の悪魔を葬り去ってきた。

阿波津・玲子に食われ、魔界に堕ちた今も従順に神への忠誠を誓っている。

【妖精王】

 ヘラクレイス・ダイヘルム


平和主義の妖精王国フェアリア・フォーレストの王。

重い甲冑を身に纏いながらも暴風魔法を駆使した飛翔方法で高速移動を可能とする。

拳で殴る派。酒と女をこよなく愛する道楽王。

【妖精女王】

 モルフォリア・インセクリーフ


妖精王国フェアリア・フォーレストの女王。

彼女が国を回していると言っても過言ではない。

沈着冷静・常識派。

【小妖精】

 エフェメロ・プテラ


専ら伝令に使われる手のひら大の小妖精。

色々と雑い。

【実況解説妖精】

    リーン・クリケット


フェアリア・フォーレスト闘技場の専業実況解説。

風鈴のように透き通った、非常に良い声の持ち主。

【兎型メイド】

 コニー・リトルキャーロット


フェアリア城で働く獣人メイド。

基本は人型で生活するが、激しい運動の際には兎娘と化す。

弟大好きっ子。

【お使い兎】

 バーニィ・リトルキャーロット


コニーの弟。

人間年齢に換算すると10歳前後。

真面目に仕事に取り組むが、何かしらの失敗はするタイプ。

【闇の精霊】

 クラインノウン・ナロゥフレイド


魔界のさらに深部に潜む闇の精霊・シェイドの末裔。

縁あってダイヘルムに忠誠を誓い、フェアリアの守護衛兵長を勤める。

騎士道精神に溢れる騎士の鑑のような淑女。

【ソードマスター】

 フィラデルフィア・ウォルザンパー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

並ぶ者無き剣の達人と称され、その斬撃は空をも斬り裂く。

【ウィザード】

 サンディエゴ・ノウルーウィー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

あらゆる魔術の祖と言われ、近代に残る数々の魔術の基礎を作った男。

【ナックルカイザー】

 ダラス・ガイナーズ


妖精王国建国初期の英雄の一人。

剣と魔法の入り乱れる戦乱の世を拳一つで渡り抜いた無手の拳王。

【古の卑しき魔王】

 コクオブラァ


妖精王国の王家にのみ伝えられし伝説の魔王。

英雄と並び称された4人の戦士達によりフェアリア・フォーレストの地に封印されていた。


その身は幾度滅ぼされようと蘇る、つまりは不死身である。

(フェアリア・フォーレスト女王、モルフォリア・インセクリーフ述)

【妖精国騎士団長】

  ヘイヤリッパー・ホワイトライン


  クラインノウンと双璧を成す、妖精王国攻めの要。

二刀を操る剣の達人。

忠義に厚く、すこぶる真面目。

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