9.開戦

文字数 3,206文字

翌日。


別乃世たちに割り当てられた、殺風景な個室。


普段は兵士の休憩場所として使われているそこで、一堂は声が掛かるのを待っていた。




落ち着かんな・・・
一体どうするおつもりなのでしょうか・・・



昨日あの後・・・



おう。

お前ら三人、戦ってもらうぞ。

えっ?
何だと・・・?
何故私がそのような・・・
俺は?
王が自ら戦うもんじゃねぇ。

第一お前、ワシとやりあって何とかなるか?

瞬殺されます。
だろうが。

今回のコレについては勝ち負けはどうでもいい。

とにかく盛り上げたら成功だと思え。

でも私、戦いなんてとても・・・
ああ、そこは心配いらん。

いい勝負になるように、ルールと対戦相手はこっちで吟味する。

いや、それ以前にアタシが戦う理由があるか?


戦争するなら望むところだ。

コイツの国が滅ぼうが、アタシには一切関係ない。

自分は勝手に戦うだけってんだろ?

だがそれじゃあ兵隊相手の消耗戦になるだけだ。


―――ウチの最高級戦力とサシでやり合いたくはねぇか?

ほう・・・

出してくるのか?

お前が望むのならな。
いいだろう、乗ってやる。


雑魚を潰して炙り出してやるつもりだったが、雑魚狩りする趣味はないからな。


手間が省けるのならば文句はない。

良し、じゃあ後はお前だな。
無駄です。

此度の一件、私が進んで戦う理由などありません。

この勝負、一勝一敗一分けが理想だが、仮にそうならなくてもこれで手打ちだ。


当然その後は互いの健闘を称えあっての晩餐会だが・・・

戦いに参加しないやつは出られねえよな。


―――菓子が食えねぇぞ?

・・・そのような、些末なことで私の心が動くとでも?
ダメか?

何にせよ、場を盛り上げるには二人じゃダメだ。


お前さんの協力がどうしても欲しいんだが・・・

・・・種は違えど一国の王。

例え魔族であろうともその権威の価値は理解できます。


貴方がそこまでおっしゃるのであれば、協力致しましょう。

よし、決まりだな。
さっさとやって、さっさと済ませましょう。
・・・いくらなんでも欲に負けすぎだろう、貴様・・・
義理を立てたまでです。
見事にするりと決まったな。
よし、そうと決まれば会場造りだ。

大工方を呼べ!


ワシは進行の詳細を練る。

近隣国への連絡はモルフォリア、頼んだぞ。

お任せ下さいな。

開始時刻は?

まぁ、昼の14時ぐらいだな。
ではそのように。
あー、俺たちは何を?
あ?いらんいらん。

部屋を用意させるから、そこに泊まれ。


仮にも敵国のVIPだからな。

街中の観光とはいかんだろうから、今日のところは部屋で大人しくしとけ。

了解した。







 そして一夜明けた今日。

案内されたのは町外れに設置された大規模なコロシアム。


そこに用意された控え室で、別乃世たちは呼び出しが掛かるまで待機を命じられている。



しかし、今さら何だが本当にいいのかアーマ?

他の二人は別として。

バカめ、戦ってやるんだから感謝しておけ。
お前らは私欲で戦うだけじゃん!
私欲ではありません、一国の王への礼節です。
・・・それは貴様、本気で言ってるのか?
それが何か?
いや、お前らはどうでもいい。

何とやり合おうが死ぬ気もせんわ!


それよりアーマだ。

戦いなんてまったくだろうが。


・・・今からでも遅くない、代わりに俺が―――

貴様が出ても塵ほどの役にも立たんだろうが一理はある。


・・・お前が無理して危険を冒す必要はないんだぞ、アーマ?

・・・いえ、私がやります。


ダイヘルム様もその辺りは吟味して下さるとおっしゃってましたから、そう無茶ではないはずです。

いやしかし・・・
大丈夫、任せて下さい!

私も結構やれるんだっていうところを見ていてください。

さぁ、入場の時間だよ魔神王!

他のみんなは出番が来るまでここでまっててね!

あ・・・

アーマ、無理はするなよ!

はい、お任せください。










コロシアム会場に続く長い通路。

遠くから聞こえるざわめき。


その道を怯えも不安も感じさせず、ただ淡々と歩みを進める別乃世。




・・・なんか、ずいぶんと落ち着いてるみたいね~


色んな人たちを案内してるけど、こんなに落ち着いてる人は見たことないな。


こういうの、慣れてるの魔神王?

・・・いや、別に命を取られるわけでもないしな。

天使やら何やらに殺されかけてたのと比べればまぁ、何てことはない。

そういうのと大勢の前に出るのはまた別だと思うけどな~


元からどっかおかしいとかじゃない?

それはそれで否定できない。
まぁいいや。

思ったよりも面白い人だったから、またお話したいな。


王さまのご希望に叶ってまた来てね!



通路の出口・・・

光の指すそこに一歩踏み出すと同時に、割れんばかりの歓声が別乃世に浴びせられた。



おお・・・

「あいつが魔神王か!」


「随分と弱そうなヤツだな」


「ナメた真似しやがって、やっちまえ!」



いや、歓声ではなく怒声、罵詈雑言のようだ。



おぅ、来たか。


怖じ気付いた様子もないな。

20かそこらのガキにしちゃあ大したもんだ。

声のした方を見やると、そこには悠然と佇むダイヘルムの姿が。


別乃世の出てきた通路は闘技場の二階に広がる観覧席の中でも特等席、本来は王と王妃が座るであろう二つの玉座が設置された場所であった。



・・・静まれぃ!



ダイヘルムの一声により、うってかわって会場が静寂に包まれる。



まずは讃えよ!


魔界に堕ち、僅か一月足らずで我がフェアリア・フォーレストに楯突いたその度胸を!

「・・・ああ、確かにな」


「面と向かって歯向かってこれるヤツなんていないわな」


「おう、オレもそう思ってた」

そして畏怖せよ!


少数で敵国に乗り込む大胆なその戦略を!

「うむ、たった数人でこの国に攻め込む度胸は並じゃない」


「ああ、普通やろうとも出来るとも思わん、これは盲点だったな」


「おう、オレもそう思ってた」

見るがいい!


我が軍を巧みにかわし、コイツは見事に我が前に立ち、圧倒的な兵力差を無と化して互角の勝負に持ち込んだ!


実に見事だ!

「互角・・・?」


「闘技場に招き入れたんだ、そりゃそうだろう」


「あれだあれ、あれをやるんだよ」

ワシはこいつらを相応の敵と認める!

そして同時に比肩すべき王であると認めた!



うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!





大歓声。

先程のものとは違う、侮蔑も怒りもない純粋な称賛の叫びが闘技場を埋め尽くす。



・・・とはいえ今は敵国だ。

宣戦布告も済んじまってる。


ここで「はいお仕舞い」ってんじゃあ、隣国も納得すまい。


こっちとしても嘗められたくはねぇ。


―――ならばどうする?


やはりケジメは着けんとな!

「きたぞ」


「きた!」


「おう、当然だ」

決闘だ!


双方三名ずつ出し、戦いを行う!


時間制限は一試合一時間、優劣を決めるのはお前たちだ。


手元に魔杖は行き渡ってるな?


試合が終わったあとに「勝った」と思った方の名前を念じろ!

集約された数が後ろのパネルに表示される!



言われて別乃世が後ろを見上げると、そこには巨大な掲示板がそびえ立っていた。



で、電光掲示板・・・?
あー、魔法だ魔法。

機械とか電気とか、そんなんじゃねぇ。


あれは唯一神由来の技術だからな。

魔界では概ねタブー扱いだ。

ああ、そうなんだ・・・
「決闘だ!」


「しかもガチの決闘だ!」


「国同士の決闘なんか、何百年ぶりだ?」

まぁなんだ、これで舞台は整った。

あとはお前たちの健闘次第だな。


無様を晒すようなら・・・

分かっている。

だが、俺にはどうしようもないからな。


あとは無理せず怪我なく終わってくれればそれでいい。

仮にも領土を与えられて、自分の望み通りの国を創れる立場になれたヤツのセリフじゃねぇな。
すまない。

王とか国とか、話がでかすぎて実感が湧かないというか手に余るというか。


率直に言えば、おウチに帰ってのんびり過ごしたい。

いや、新入りらしくていいんじゃねえか。

欲の皮突っ張って粋がっても周りから潰されるだけだからな。


・・・そういうところも見込んでの後押しなんだろうな。


後押し?
ああ、気にすんな。

さて、じゃそろそろ始めるぞ。

ああ・・・
野郎ども、祭りだ!
おおおおおお!!!



こうして。

魔神王と妖精王の戦いの火蓋は斬って落とされた。



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登場人物紹介

【魔神】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


 世を憂い、異世界への転生を強く望んだ男。

 女神・悪魔・天使の力をその身に受け「魔神」と化す。

 その後は魔界の一角に領土を与えられ、一国一城の主となる。

【女神】

 アーマ・シュクレイム


 時空神アナザを主神とする女神。

 「魔神」別乃世・望を生み出すきっかけとなった責を問われて神界から魔界へ。

 別乃世・望の監視兼補佐役として送り込まれるが、実質追放処分である。


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【悪魔】

 トリカラ・マイウー


 強欲を司る地獄の第六団に所属する悪魔。

 死霊を操る邪法を司り、結果として「魔神」誕生のきっかけを創ることとなった。

 別乃世・望を監視する任を受け外交員として送り込まれるが、実質左遷である。

 

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【天使】

 メンタイ・ハクマイナー


 唯一神に仕えていた元天使。

 別乃世に力を奪われ魔界に身を堕としたが、神への信仰は失われてはいない。

 力を取り戻し、天界へ還る日を夢見る。


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【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・玲子


別乃世に噛まれることによりゾンビと化した残虐少女。

他人の生命を屁とも思わぬ性根から、自らも多くのゾンビを生み出した。

天使との戦いで魔界に堕ち、別乃世の屋敷で使用人として無理矢理働いている。

【悪魔祓い】

 シスター・カッドロゥ


天使メンタイ・ハクマイナーに仕える使徒。

秀でた身体能力に神霊術を組み合わせ、幾多の悪魔を葬り去ってきた。

阿波津・玲子に食われ、魔界に堕ちた今も従順に神への忠誠を誓っている。

【妖精王】

 ヘラクレイス・ダイヘルム


平和主義の妖精王国フェアリア・フォーレストの王。

重い甲冑を身に纏いながらも暴風魔法を駆使した飛翔方法で高速移動を可能とする。

拳で殴る派。酒と女をこよなく愛する道楽王。

【妖精女王】

 モルフォリア・インセクリーフ


妖精王国フェアリア・フォーレストの女王。

彼女が国を回していると言っても過言ではない。

沈着冷静・常識派。

【小妖精】

 エフェメロ・プテラ


専ら伝令に使われる手のひら大の小妖精。

色々と雑い。

【実況解説妖精】

    リーン・クリケット


フェアリア・フォーレスト闘技場の専業実況解説。

風鈴のように透き通った、非常に良い声の持ち主。

【兎型メイド】

 コニー・リトルキャーロット


フェアリア城で働く獣人メイド。

基本は人型で生活するが、激しい運動の際には兎娘と化す。

弟大好きっ子。

【お使い兎】

 バーニィ・リトルキャーロット


コニーの弟。

人間年齢に換算すると10歳前後。

真面目に仕事に取り組むが、何かしらの失敗はするタイプ。

【闇の精霊】

 クラインノウン・ナロゥフレイド


魔界のさらに深部に潜む闇の精霊・シェイドの末裔。

縁あってダイヘルムに忠誠を誓い、フェアリアの守護衛兵長を勤める。

騎士道精神に溢れる騎士の鑑のような淑女。

【ソードマスター】

 フィラデルフィア・ウォルザンパー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

並ぶ者無き剣の達人と称され、その斬撃は空をも斬り裂く。

【ウィザード】

 サンディエゴ・ノウルーウィー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

あらゆる魔術の祖と言われ、近代に残る数々の魔術の基礎を作った男。

【ナックルカイザー】

 ダラス・ガイナーズ


妖精王国建国初期の英雄の一人。

剣と魔法の入り乱れる戦乱の世を拳一つで渡り抜いた無手の拳王。

【古の卑しき魔王】

 コクオブラァ


妖精王国の王家にのみ伝えられし伝説の魔王。

英雄と並び称された4人の戦士達によりフェアリア・フォーレストの地に封印されていた。


その身は幾度滅ぼされようと蘇る、つまりは不死身である。

(フェアリア・フォーレスト女王、モルフォリア・インセクリーフ述)

【妖精国騎士団長】

  ヘイヤリッパー・ホワイトライン


  クラインノウンと双璧を成す、妖精王国攻めの要。

二刀を操る剣の達人。

忠義に厚く、すこぶる真面目。

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