18.最終局面・古き王屠る新しき王

文字数 3,505文字

あんな化け物相手に俺に何をしろと!?
核の破壊はアタシがやるつもりだったがな。


英雄共があと二体いる以上、誰かがその相手をせねばならん。

私が「ウィザード」の相手をし、貴女は「ソードマスター」の相手をすると?
で、ですが、別乃世さんではあの巨人に近づくことすらできないのでは?
しかも「核」の破壊とか、やったことどころか原理も分からん仕事を振られても困る!
そこはアーマ、お前に協力してもらう。

それにダイヘルム、貴様にもだ。

む?

それは構わんが、肝心の核の破壊はどうするつもりだ?

ああ、そこの阿呆に吸収させる。
吸収!?
あ・・・まさか?
そうだ。

コイツのエネルギーを吸収する特性を利用して「核」そのものを取り込ませるんだ。

で、ですが、そのようなことをしても大丈夫なのでしょうか?
あんなモン取り込んじまったら、神魔界の主神や地獄の魔王共が黙っとらんぞ?
心配するな。


あの巨人の核だ、強大なエネルギーを想像しているのだろうが、実際はただの煩悩だ。

いわば同じ性質の魂同士を引き寄せる磁石に過ぎん。


アレを取り込んだところで何の力も得られまい。

う・・・うん?

本当に大丈夫か?

さて、モタモタしてるとヤツが回復する。

そろそろ行くぞ。


核の場所を見つけたら合図を送るから、貴様はすぐにそこに来い。

待て、肝心の行き方は!?

空も飛べんぞ俺は!

なぁに、飛べるさ。

いいか・・・







さてモルフォリア、手はず通り頼んだぞ。
それはお任せ下さいな。


ですが・・・本当にあのような滅茶苦茶な方法でよろしいので?

問題ない。

それに・・・楽しそうだろう?

まぁ、あなた方がそれで良いのでしたら・・・


私は私の仕事を全うするだけです。







・・・・・・
それでは程々に。

お相手頂けますでしょうか?

ごぉぉぉぉん!







始めたか、モルフォリア。 

さて・・・



今一度、今度はじっくりと巨人の様子を窺う。

雷によるダメージは深いのか、まだ完全に癒えてはいないが徐々に塞がりつつある。


・・・トリィが見ているのはその順番である。



雷によるダメージは一瞬にして全身に迸り、ほぼ同時に全ての体表を焼き焦がしている。


コイツが「核」を中心として形成されているのならば、当然それを中心に修復が広がっていくはず。


修復が始まっている「元」、それを突き止めれば・・・



全体を眺めれば、確かにある一点を中心として回復が広がっているように見てとれる。

その場所は・・・



・・・ソコ、か?



無意識に意識の外に追いやっていたのかも知れない。

注意を凝らしてよく見れば、確かに「核」の気配が微かに感じ取れる。


―――それは巨人の「股間」。

詳しく言えば、両足の付け根のやや上部に位置するものと思われた。



・・・確かに煩悩の居所としては不自然ではないんだろうが・・・


さすがに・・・ソレは、なぁ?



それでも何かの間違いかもしれない。

近くで良く確かめようと、トリィがソコに向かい近付いたところ・・・


ずるん、と太くて長いものが股間から零れ落ちてきた。



っ!?
ぐぐぐ・・・
う、ぉ・・・!



重力に負け、垂れ下がっていた「ソレ」が頭をもたげるように隆起する。



おい・・・まて、正気か?
ぐいぃぃぃいん!
・・・・・・
・・・・・・



それがヒワイなモノではなくソードマスターだったと気付いたのは、彼と目と目が合ってからだった。



これはまた、何と言うか・・・


最悪だな。

う、お、お、お、お、お!!!
ずぱぁぁぁん!
怒りとも悲しみともつかない叫びと共にソードマスターが剣を一閃する。
う、お・・・!



油断しきっていたトリィであったが、しかし剣は空を斬り、その衝撃波は観客席にまで至り、その結界に阻まれ消失した。



ちっ・・・!

思っていたより厄介な・・・!

お、お、お、お、お、お!!!



続けざまに、しかし明確な狙いもなく。

ただ闇雲に剣を振るうソードマスターと、それを躱し続けるトリィ。


暫しのその攻防の後・・・

不意にぴたりとソードマスターの動きが止まった。



む・・・?
う、う、う・・・



新たな攻撃の予兆かと、ぷるぷる小刻みに震えるソードマスターを注視するトリィであったが・・・



うあああああ!
ずぱぁぁぁん!



ソードマスターが絶ち斬ったのは、巨人に連なる己の胴体であった。



・・・・・・!
怨霊にそんなものがあるとも思えんが・・・

コカンに生やされたことが余程の苦痛だったのだろうな。


あまりの仕打ちに理性が耐えきれず、自刃し果てたか。

・・・・・・(ふっ)



巨人との繋がりを失い虚空に消え行くソードマスターが、微かに笑みを浮かべたようにトリィは感じた。


・・・心底どうでも良いことだったが。



・・・さて、あとはこの奥にある「核」を破壊するだけだが・・・


ヤツにやらせることにしておいて良かったな。

こんなところに潜り込むなど御免被る。



そう呟きながら、トリィは「核」が眠る巨人の「股間」の辺りに魔力で印を描いた。



・・・本当に、心底サイアクだな。







・・・来たぞ!



予め打ち合わせていた合図がきた。

トリィが巨人に刻んだ魔印が光を放つ。


同時に先程トリィにより刻まれた、別乃世の胸の魔印にも光が灯される。



・・・なるほどアソコか。
アソコだな。

まぁ、煩悩の居所としては妥当だな。

アソコ?ですね、光っているのは。


妥当とは・・・

何か他の意味が?

タマだタマ、タマ、タマ。
たま・・・たま?
睾丸だ。
こ・・・
更に何故妥当なのかを説明するとだな。


そもそも睾丸とは煩悩の基となるモノを造りす機能を備えていてだな、具体的に言うとせ・・・

今からソコに突っ込むんだから具体的な話はヤメテ!
ん?

だが知識は重要だぞ。

得られるときに得るべきだ。

い、いえ、もう結構です!
ああ、さすがに知っとるか。
・・・・・・!
それよりほら、集中してやってくれアーマ。
おお、そうだな。

お前の結界が緩んでると、コイツが粉々になるぞ。

あ、はい!
粉々・・・?
ああ、粉々は言い過ぎだ、心配するな。


元々攻撃用の術じゃないからな。

直接的な破壊力はない。


ただ、鎧を着込んだワシを高速で吹っ飛ばすレベルの暴風術だから、かなりの勢いで飛んでいくことになるだろうが・・・


なぁに、結界で衝撃を緩和すれば問題ない。



先程トリィが伝えていった作戦がこれだ。


トリィが核の位置を突き止め、魔力による印を施す。

それを目印に、アーマの防御結界で包み込んだ別乃世をダイヘルムの暴風移動術で射出する。



いやしかし、本当に当たるのかアレ?
そのための魔印だ。


お前に刻まれた魔印が、タマの魔印に引かれて軌道修正するはずだ。

心配せんでも、間違いなくタマに当たる。

タマタマ言うな!
け、結界準備できました!
お、できたか。

大丈夫です別乃世さん。

私にできる防御結界を多重に掛けています。


必ず無事に別乃世さんをた・・・アソコにお届けします!

ぬぅ・・・
よし、やってこい魔神王!
・・・ええい、仕方ない!

やったる・・・

どぉん!
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!!?
ダ、ダイヘルム王、別乃世さんにも心の準備というものが、その・・・?
あぁ?

そんなもん要らん要らん。


これは作戦じゃあない、成功して当然のただの作業だ。


アイツは間違いなく「核」に辿り着くし、何の障害もなくその「核」を取り除くだろう。


気張る必要なんぞ何処にもない。

はぁ・・・そういうもの、ですか?
そういうもんだ、まぁ見てろ。







・・・ぁぁぁぁぁ!!!
どっごぉぉぉん!
おっ、狙い通りだな。



ダイヘルムの、そしてトリィの読みどおり。


爆風によりもの凄い勢いですっ飛ばされた別乃世は、寸分の狂いもなくトリィが仕掛けた魔印・・・巨人の股間へと突撃していった。



・・・死ぬかと思ったわぁ!
・・・誰だ!?
うぉっ、ダイヘルム!?
オトコがワシのネグラに何の用じゃあ!?

オンナだ、オンナを寄越せぇ!

いや、これが「核」か。

弁解の余地なくまんまダイヘルムだな。

さっさと出てゆけぃ!


・・・成敗!

うぉ!?



拳を振り上げ別乃世に殴り掛かる「核」。

・・・が。



ぽこん
・・・?
出てゆけ!

出てゆけ!

出てゆけぇぇぇい!

ぽこん、ぽこん、ぽこん
・・・全然痛くない。

確かに何の力もないようだな。

ぬぅぅぅぅ!
はいはい。

(がしっ)

ぬぅ!

離せ、気色の悪い!


手を握るな男色めがっ!

俺とてゴツいオッサンの手など握りとうないわ!



別乃世が掴んだ手に意識をやる。

すると、エネルギーとして感じ取れていた「核」の存在が別乃世に流れ込み、徐々に薄れていく。



う、お、お・・・


これ、は・・・消えるのか?


ワシは・・・ワシはまだ・・・!







う・・・ぁ?
巨人の身体・・・

怨霊達の繋がりが解かれて行く・・・


どうやら成功したようですわね。







ワシはまだ、ナニも成し遂げてはおらん!


このまま消えるなど・・・!

いいから消えとけ。



・・・こうして。

魔王と成り得た卑しき王は、魔神王・別乃世の内へと解けて消え去った。



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登場人物紹介

【魔神】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


 世を憂い、異世界への転生を強く望んだ男。

 女神・悪魔・天使の力をその身に受け「魔神」と化す。

 その後は魔界の一角に領土を与えられ、一国一城の主となる。

【女神】

 アーマ・シュクレイム


 時空神アナザを主神とする女神。

 「魔神」別乃世・望を生み出すきっかけとなった責を問われて神界から魔界へ。

 別乃世・望の監視兼補佐役として送り込まれるが、実質追放処分である。


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【悪魔】

 トリカラ・マイウー


 強欲を司る地獄の第六団に所属する悪魔。

 死霊を操る邪法を司り、結果として「魔神」誕生のきっかけを創ることとなった。

 別乃世・望を監視する任を受け外交員として送り込まれるが、実質左遷である。

 

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【天使】

 メンタイ・ハクマイナー


 唯一神に仕えていた元天使。

 別乃世に力を奪われ魔界に身を堕としたが、神への信仰は失われてはいない。

 力を取り戻し、天界へ還る日を夢見る。


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【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・玲子


別乃世に噛まれることによりゾンビと化した残虐少女。

他人の生命を屁とも思わぬ性根から、自らも多くのゾンビを生み出した。

天使との戦いで魔界に堕ち、別乃世の屋敷で使用人として無理矢理働いている。

【悪魔祓い】

 シスター・カッドロゥ


天使メンタイ・ハクマイナーに仕える使徒。

秀でた身体能力に神霊術を組み合わせ、幾多の悪魔を葬り去ってきた。

阿波津・玲子に食われ、魔界に堕ちた今も従順に神への忠誠を誓っている。

【妖精王】

 ヘラクレイス・ダイヘルム


平和主義の妖精王国フェアリア・フォーレストの王。

重い甲冑を身に纏いながらも暴風魔法を駆使した飛翔方法で高速移動を可能とする。

拳で殴る派。酒と女をこよなく愛する道楽王。

【妖精女王】

 モルフォリア・インセクリーフ


妖精王国フェアリア・フォーレストの女王。

彼女が国を回していると言っても過言ではない。

沈着冷静・常識派。

【小妖精】

 エフェメロ・プテラ


専ら伝令に使われる手のひら大の小妖精。

色々と雑い。

【実況解説妖精】

    リーン・クリケット


フェアリア・フォーレスト闘技場の専業実況解説。

風鈴のように透き通った、非常に良い声の持ち主。

【兎型メイド】

 コニー・リトルキャーロット


フェアリア城で働く獣人メイド。

基本は人型で生活するが、激しい運動の際には兎娘と化す。

弟大好きっ子。

【お使い兎】

 バーニィ・リトルキャーロット


コニーの弟。

人間年齢に換算すると10歳前後。

真面目に仕事に取り組むが、何かしらの失敗はするタイプ。

【闇の精霊】

 クラインノウン・ナロゥフレイド


魔界のさらに深部に潜む闇の精霊・シェイドの末裔。

縁あってダイヘルムに忠誠を誓い、フェアリアの守護衛兵長を勤める。

騎士道精神に溢れる騎士の鑑のような淑女。

【ソードマスター】

 フィラデルフィア・ウォルザンパー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

並ぶ者無き剣の達人と称され、その斬撃は空をも斬り裂く。

【ウィザード】

 サンディエゴ・ノウルーウィー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

あらゆる魔術の祖と言われ、近代に残る数々の魔術の基礎を作った男。

【ナックルカイザー】

 ダラス・ガイナーズ


妖精王国建国初期の英雄の一人。

剣と魔法の入り乱れる戦乱の世を拳一つで渡り抜いた無手の拳王。

【古の卑しき魔王】

 コクオブラァ


妖精王国の王家にのみ伝えられし伝説の魔王。

英雄と並び称された4人の戦士達によりフェアリア・フォーレストの地に封印されていた。


その身は幾度滅ぼされようと蘇る、つまりは不死身である。

(フェアリア・フォーレスト女王、モルフォリア・インセクリーフ述)

【妖精国騎士団長】

  ヘイヤリッパー・ホワイトライン


  クラインノウンと双璧を成す、妖精王国攻めの要。

二刀を操る剣の達人。

忠義に厚く、すこぶる真面目。

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