18.最終局面・古き王屠る新しき王
文字数 3,505文字
ごぉぉぉぉん!
今一度、今度はじっくりと巨人の様子を窺う。
雷によるダメージは深いのか、まだ完全に癒えてはいないが徐々に塞がりつつある。
・・・トリィが見ているのはその順番である。
コイツが「核」を中心として形成されているのならば、当然それを中心に修復が広がっていくはず。
修復が始まっている「元」、それを突き止めれば・・・
全体を眺めれば、確かにある一点を中心として回復が広がっているように見てとれる。
その場所は・・・
無意識に意識の外に追いやっていたのかも知れない。
注意を凝らしてよく見れば、確かに「核」の気配が微かに感じ取れる。
詳しく言えば、両足の付け根のやや上部に位置するものと思われた。
それでも何かの間違いかもしれない。
近くで良く確かめようと、トリィがソコに向かい近付いたところ・・・
ずるん、と太くて長いものが股間から零れ落ちてきた。
重力に負け、垂れ下がっていた「ソレ」が頭をもたげるように隆起する。
それがヒワイなモノではなくソードマスターだったと気付いたのは、彼と目と目が合ってからだった。
油断しきっていたトリィであったが、しかし剣は空を斬り、その衝撃波は観客席にまで至り、その結界に阻まれ消失した。
続けざまに、しかし明確な狙いもなく。
ただ闇雲に剣を振るうソードマスターと、それを躱し続けるトリィ。
暫しのその攻防の後・・・
不意にぴたりとソードマスターの動きが止まった。
新たな攻撃の予兆かと、ぷるぷる小刻みに震えるソードマスターを注視するトリィであったが・・・
ソードマスターが絶ち斬ったのは、巨人に連なる己の胴体であった。
巨人との繋がりを失い虚空に消え行くソードマスターが、微かに笑みを浮かべたようにトリィは感じた。
・・・心底どうでも良いことだったが。
そう呟きながら、トリィは「核」が眠る巨人の「股間」の辺りに魔力で印を描いた。
予め打ち合わせていた合図がきた。
トリィが巨人に刻んだ魔印が光を放つ。
同時に先程トリィにより刻まれた、別乃世の胸の魔印にも光が灯される。
元々攻撃用の術じゃないからな。
直接的な破壊力はない。
ただ、鎧を着込んだワシを高速で吹っ飛ばすレベルの暴風術だから、かなりの勢いで飛んでいくことになるだろうが・・・
なぁに、結界で衝撃を緩和すれば問題ない。
先程トリィが伝えていった作戦がこれだ。
トリィが核の位置を突き止め、魔力による印を施す。
それを目印に、アーマの防御結界で包み込んだ別乃世をダイヘルムの暴風移動術で射出する。
爆風によりもの凄い勢いですっ飛ばされた別乃世は、寸分の狂いもなくトリィが仕掛けた魔印・・・巨人の股間へと突撃していった。
拳を振り上げ別乃世に殴り掛かる「核」。
・・・が。
別乃世が掴んだ手に意識をやる。
すると、エネルギーとして感じ取れていた「核」の存在が別乃世に流れ込み、徐々に薄れていく。
・・・こうして。
魔王と成り得た卑しき王は、魔神王・別乃世の内へと解けて消え去った。