17.最終局面・共闘

文字数 3,219文字

キさマラ、ワしノジャまヲ・・・

ジャま?

ジャま・・・


・・・ヲいキさマ、チちハナいガヒキシまッタ・・・

それはさっきやったぞ、阿呆が。







「さぁ、これは大変なことになってまいりました!

どうやらトリカラ・マイウーの呼び出した怨霊が暴走!

それを二人で協力して止める模様!


果たしてうまく成功するのか!?

保証はありません!


観客席の皆さま方、逃げるのならば今のうちです!」







どうやら知能というか、記憶力はないようで。

観客に被害が出ることは、一先ず止められましたわね。

まぁ怨念・・・というか、残留堆積した煩悩の成れの果てだからな。

知性のカケラもあるまいな。

それでは、私が奴の胸部を破壊します。

・・・貴女の除霊術とはどのように?

ああ、これだ。
ぎゅいん



そうしてトリィの手に現れたのは光の槍。



怨霊の「核」にこいつを突き立てる。
・・・なんともはや、貴女らしい強引な術ですわね。

術と呼んで良いものやら。

誉め言葉と受け取っておこう。
それは貴方のご自由に。


では参りましょう。

確実に核を射貫けるよう・・・

ああ、確実にヤツの核を抉り出せるよう・・・
奴の左脇腹付近に潜り込みます。

合図と共に爆破しますので・・・

ヤツの正面で気を引いておく。

あの程度の爆発で怯みはしないから安心しろ。

よろしく。
いくぞ!







・・・おい、化け物!
んン・・・?

ソウか、ヨメニ来るカ・・・

阿呆か!
・・・今です、参ります!
ンぉ?
どどどどん!



トリィが正面から巨人に話し掛け、気を引いている間に死角から懐に潜り込んだモルフォリアが炸裂魔弾を巨人の胸部に叩き込む。



ぐぶらぁ!?
よし!



その爆炎冷めやらぬうちにその内に飛び込むトリィだったが・・・



・・・核の気配が、ない?



そこにあるはずの「核」の気配がまるで感じられない。

バカな・・・頭部の方か?


いや、二度も破壊したんだ、見落としはない。

だが、ここでもないとすれば一体どこに・・・

おぉぉぉぉ・・・



周囲の「壁」が低く呻き声を上げている。

否、壁ではない。

巨人の身体を成すのは無数の怨霊の集合体である。

モルフォリアが開けたこの空洞も、程なく何事もなかったかのように新たな怨霊により埋められるのだろう。



・・・ちっ、時間切れだ。



このままここに止まれば、自らも巨人に取り込まれる。

その前に脱出しようと外に飛び出すトリィだったが、巨人の体内を出たところで何者かに足首を掴まれた。



なっ!?
・・・・・・



トリィを捕らえたのは、巨人の胸部から「生えた」ひとりの怨霊。

英雄と呼ばれた拳王、ナックルカイザー。



コイツは・・・うぉ!?



掴んだ足首を力任せに振り回す。

思わぬ力にトリィの身体は宙で踊り、そのままの勢いで巨人の胸部に叩きつけられる。



くっ・・・!
おぁぁぁぁう!



それを合図に巨人から沸き出る無数の怨霊。

トリィの身体にまとわりつき、巨人の内部へと引きずり込もうとする。



ふん、散れ!



トリィの怒号と共に四散する怨霊の群れ。



統合された状態ならばいざ知らず、群れから外れた怨霊がアタシに敵う筈もあるまい。
・・・・・・
だがコイツは厄介だな。



捕まれていた足首は叩きつけられた際に離されてはいるが、このまま大人しくトリィが飛び立つのを見過ごすものとも思えない。

トリィとて近接戦闘の自信はあるが、相手はナックルカイザーとまで呼ばれる英雄の一人。

果たしてどこまで通じるものか。



・・・まぁ、やらずに臆するアタシでもなかったな。

まずはお手並み拝見といこうか、ナックルカイザー!



まずは小手調べと、手にした光の槍をナックルカイザー目掛けて突き出す。

体を捌いてそれを掻い潜り、右のカウンターを繰り出す・・・


つもりであったがそこは怨念、両足が巨人の胸部と一体化していることを計算に入れる知能はないのだろう。

いわば垂直の壁から身体を生やして身体を起こしている状態のナックルカイザー。


固定された足首が思うように動かずヘンに捻ってバランスを崩し、そのままブランと巨人の胸部から垂れ下がる形となった。



ぬ・・・む、ぉ・・・?
・・・・・・
ぶすっ



じたばたもがくナックルカイザーの、無防備に晒された背中を突くトリィ。



ご、あ、ぁ、ぁ、ぁ・・・



苦痛の呻きと共に、空に溶け行くナックルカイザー。



どうなりましたの?

トリカラ・マイウー!

ん?あ、あぁ、核は見当たらなかった。

が、三匹居た英雄とかいうヤツのうち、一匹は今浄化したところだ。

遠目に見えましたが、今のはナックルカイザーですわね。


近接格闘の王・・・

まともにやり合えばかなりの脅威となったはず。

どのようなやり取りがあったかは見えませんでしたが、出会い頭に倒せたのは僥倖でしたわね。

あー・・・まぁ、そうだな?
さて、とは言え核が見当たらないとなりますと・・・

やはり頭部に?

いや、それは絶対にない。

となると、考えにくいことだが身体の他の部分に隠されていると見るしかないな。

他の部分・・・

探す手段は何か?

何かしらの手掛かりがあればいいが・・・

現状では手当たり次第に爆破するしかあるまいな。

それは不味いですわね。
まずい?

何がだ。

先程から用いています炸裂魔弾・・・

複数の術を組み合わせた複合魔法でして、威力は高いのですが魔力の消費量もかなりのものでして。


使えてあと三発程です。

ぬぅぅうん!
む、何だ!?
!奴の額を!
・・・・・・
・・・ウィザード!



巨人の大気を震わす唸り声と共に、英雄の一人「ウィザード」がその額から生えてきた。



ぁ・・・ぁぁ・・・



ウィザードが何事かを呟くと、巨人の頭上を中心にどす黒い暗雲が広がり始める。



あれは・・・!


直ぐに避難を!

観覧席、結界の内に戻ります!

急いで!

!それほどのやつか!



いち早く判断を下したモルフォリアに従い、二人は別乃世達のいる観覧席へと身を引いた。

間一髪、トリィ達が観覧席に入るとほぼ同時に、闘技場を覆い尽くした暗雲から稲光がちらつく。



あれは・・・?
どっごぉぉぉん!



稲妻が一斉に迸る。

それは逃げ場もない程に闘技場を埋め尽くした。



・・・・・・!
極雷・・・

見てのとおりの無差別広範囲雷撃魔法ですわ。


術士を中心として一面に稲妻を放つ対軍魔法。

敵への殲滅力もさることながら、味方に対する被害も甚大となる可能性があることから外法・禁術として扱われている魔法です。

バリバリバリバリ
ぐおぉぉぉぉ!?
・・・・・・
・・・効いてるな。
・・・あぁ、術者はあくまでも額のアイツで、他の部分は怨霊の群体だからな。

当然ああなる、か?

お・・・ぉ、ぁ・・・
何か、勝手にボロボロになっとるぞ。

・・・もうほっとけばいいんじゃないか?

いえ、結果はともあれ、あれだけの禁術を使うというのはそれだけでも大いなる脅威。

今止めを刺しておかねば・・・


トリカラ・マイウー、今しがたの雷撃で奴の体表はズタズタです。

あれならば核の位置を探るのも容易なのでは?

ああ、アタシも何と言うか、相手をするのもバカらしくなってきてたところだが・・・

まぁ付き合ってやるか。



呆れて弛緩しきった気持ちを入れ換えて、改めて巨人に目をやるトリィ。



・・・モルフォリア、炸裂魔弾はあと三発と言っていたな?
ええ、それが限界と思って下さい。
よし、ならば核を探す作業はもういい。

お前は額の魔術師の相手をしてくれ。

気を引く程度で構わん、広範囲魔術を使われると厄介だ。

分かりました。

ですが、そちらはそれで大丈夫ですの?

近付いてみないと断言はできないが、核の感知については勝算はある。

むしろ問題は、もう一匹の英雄とやらの存在だな。

ソードマスター・・・
他の二匹同様のマヌケならば問題ないが、それもそうとは限らんしな。
ならば、ヤツの相手はワシがやろう。

お前達二人で対処できるならと静観していたが、今を逃すと取り返しがつかん恐れもあるからな。

いや、貴様は来るな、ダイヘルム。


元が貴様の煩悩だ。

本体の貴様が近づけば、活性化する恐れがある。

ワシの?

いや、何を言っているのやらさっぱり・・・

小芝居はいらんから引っ込んでろ。

代わりに貴様だ。

・・・ん?
貴様だ貴様、魔神王。


貴様が来い。

え、俺!?
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登場人物紹介

【魔神】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


 世を憂い、異世界への転生を強く望んだ男。

 女神・悪魔・天使の力をその身に受け「魔神」と化す。

 その後は魔界の一角に領土を与えられ、一国一城の主となる。

【女神】

 アーマ・シュクレイム


 時空神アナザを主神とする女神。

 「魔神」別乃世・望を生み出すきっかけとなった責を問われて神界から魔界へ。

 別乃世・望の監視兼補佐役として送り込まれるが、実質追放処分である。


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【悪魔】

 トリカラ・マイウー


 強欲を司る地獄の第六団に所属する悪魔。

 死霊を操る邪法を司り、結果として「魔神」誕生のきっかけを創ることとなった。

 別乃世・望を監視する任を受け外交員として送り込まれるが、実質左遷である。

 

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【天使】

 メンタイ・ハクマイナー


 唯一神に仕えていた元天使。

 別乃世に力を奪われ魔界に身を堕としたが、神への信仰は失われてはいない。

 力を取り戻し、天界へ還る日を夢見る。


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【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・玲子


別乃世に噛まれることによりゾンビと化した残虐少女。

他人の生命を屁とも思わぬ性根から、自らも多くのゾンビを生み出した。

天使との戦いで魔界に堕ち、別乃世の屋敷で使用人として無理矢理働いている。

【悪魔祓い】

 シスター・カッドロゥ


天使メンタイ・ハクマイナーに仕える使徒。

秀でた身体能力に神霊術を組み合わせ、幾多の悪魔を葬り去ってきた。

阿波津・玲子に食われ、魔界に堕ちた今も従順に神への忠誠を誓っている。

【妖精王】

 ヘラクレイス・ダイヘルム


平和主義の妖精王国フェアリア・フォーレストの王。

重い甲冑を身に纏いながらも暴風魔法を駆使した飛翔方法で高速移動を可能とする。

拳で殴る派。酒と女をこよなく愛する道楽王。

【妖精女王】

 モルフォリア・インセクリーフ


妖精王国フェアリア・フォーレストの女王。

彼女が国を回していると言っても過言ではない。

沈着冷静・常識派。

【小妖精】

 エフェメロ・プテラ


専ら伝令に使われる手のひら大の小妖精。

色々と雑い。

【実況解説妖精】

    リーン・クリケット


フェアリア・フォーレスト闘技場の専業実況解説。

風鈴のように透き通った、非常に良い声の持ち主。

【兎型メイド】

 コニー・リトルキャーロット


フェアリア城で働く獣人メイド。

基本は人型で生活するが、激しい運動の際には兎娘と化す。

弟大好きっ子。

【お使い兎】

 バーニィ・リトルキャーロット


コニーの弟。

人間年齢に換算すると10歳前後。

真面目に仕事に取り組むが、何かしらの失敗はするタイプ。

【闇の精霊】

 クラインノウン・ナロゥフレイド


魔界のさらに深部に潜む闇の精霊・シェイドの末裔。

縁あってダイヘルムに忠誠を誓い、フェアリアの守護衛兵長を勤める。

騎士道精神に溢れる騎士の鑑のような淑女。

【ソードマスター】

 フィラデルフィア・ウォルザンパー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

並ぶ者無き剣の達人と称され、その斬撃は空をも斬り裂く。

【ウィザード】

 サンディエゴ・ノウルーウィー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

あらゆる魔術の祖と言われ、近代に残る数々の魔術の基礎を作った男。

【ナックルカイザー】

 ダラス・ガイナーズ


妖精王国建国初期の英雄の一人。

剣と魔法の入り乱れる戦乱の世を拳一つで渡り抜いた無手の拳王。

【古の卑しき魔王】

 コクオブラァ


妖精王国の王家にのみ伝えられし伝説の魔王。

英雄と並び称された4人の戦士達によりフェアリア・フォーレストの地に封印されていた。


その身は幾度滅ぼされようと蘇る、つまりは不死身である。

(フェアリア・フォーレスト女王、モルフォリア・インセクリーフ述)

【妖精国騎士団長】

  ヘイヤリッパー・ホワイトライン


  クラインノウンと双璧を成す、妖精王国攻めの要。

二刀を操る剣の達人。

忠義に厚く、すこぶる真面目。

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