第23話
文字数 1,627文字
その後、ふてくされた若宮さんから聞いた話はとんでもなかった。とてもじゃないが、他人に話せるような内容じゃない。
若宮さんは加害者による過去の被害者家族を訪ね歩き、その中から協力者を募って例の教師を襲ったというのだ。もちろん、暴力で。少しでも間違えば確実に警察沙汰で、間違えなくても警察沙汰だ。
「三度、加害者に会いに行ったんだけど」
「三度もですかっ!?」
ボクは驚きそう言うと、若宮さんはおかしそうに笑いながら話を続ける。ちなみに、この場合の「会う」という表現は被害者家族による「集団暴行」を示している。
「必要だったからね。被害者だけが恐怖に脅えるなんて不公平じゃないか」
不公平も何も、誰かを恐怖に陥れるという行為は肯定できない。
「一度目と二度目は間を開けず、連日会いに行ったんだ。そして一日休みを挟んで、翌日また会いに行った」
「休みを挟む?」
意図がわからず、そのまま聞き返す。
「うん。連日続く恐怖より、恐怖が終わったと安堵したところへ、終わりの見えない恐怖を供給する方が面白いかと思ってね。三度だけだから、効果はそこまで期待できないけど」
まったく悪びれるそぶりを見せない若宮さんに呆れつつ、ボクは本題に入ることにした。
「痣と写真は何だったんですか?」
被害者や加害者のことも気になるが、若宮さんにつけられた痣と弁護士が必要になるかもしれない写真の方がボクには重要だ。
「痣は……ほら。殴る蹴るという行為は、素人がやると加減が難しいだろ? 知らず知らずのうちに力加減を誤って重傷もしくは重体、最悪死に至らしめてしまう。だから練習をしたんだよ、僕の体で」
「は?」
この人は今、何を言った? 自分の体で何をしたって?
「まぁ、鳩尾への練習はちょっと大変だったな」
「なっ何してるんですかっ!? 若宮さんっっ!!」
「大丈夫、主に手足だけだから大したことないよ。内臓や骨は痛めてない」
あまりにも的外れな発言をする若宮さんに言葉も出ない。ボクが言いたいのはそこじゃない。いくら依頼のためだとはいえ、傷ついた若宮さんなんて見たくない。もちろんボクの目の届かないところで傷つくなんて論外だ。
「写真はネットで合法的に入手した」
ボクが黙っているのをいいことに、若宮さんはのんびりと続きを話し始める。
「アレを加害者に見せて、こちらが被害者関係者だということを匂わせたんだ。通報を躊躇わせるためにね。ただ、被害者本人からどんな格好で写真や動画を撮られたかを聞き出すのが大変だったな」
若宮さんは苦笑しているが、ボクはそれどころじゃない。
「被害者と被害者家族が精神的外傷を負わないよう細心の注意を払って計画したし、警察に捕まる可能性はゼロではないことにも承諾を得たよ」
だからボクが心配してるのは、そこじゃない。
「防犯カメラがないところで実行して、もちろん顔も隠した。日替わりで人を替えたし、声も出さないよう指示をした。僕は少し離れたところから見守っていただけで、実行には加わっていない」
ダメだ、この人。何も問題はないよう得意気に言うが、すべてが問題だ。黙っている場合はないので、厳しく注意をすることにする。
「実行に加わっていなくても実行犯より罪の重い主犯ですし、そもそも若宮さんがケガを――」
「いざという時の弁護士費用も含まれているからこそ、僕への依頼料は高額なんだ」
ボクの言葉を遮るように、若宮さんが言葉を重ねてきた。もちろん引き下がる訳にはいかないので抗議する。
「暴力はいけません。絶対に、何があってもいけません」
暴力は何も解決しないし、何より若宮さん自身が傷ついたという事実が許せない。
「僕も君の意見に賛成だ。気が合うね」
嫌みでもなく、ふてくされるわけでもなく、ごく普通にボクの意見を肯定してくる。
「ダメですよ、若宮さん。ごまかしてもダメです」
「いや、僕も本当に暴力は反対だよ」
ボクがさらに何か言おうとすると、若宮さんは突然、お姉さまとの昔話を語り出した。
若宮さんは加害者による過去の被害者家族を訪ね歩き、その中から協力者を募って例の教師を襲ったというのだ。もちろん、暴力で。少しでも間違えば確実に警察沙汰で、間違えなくても警察沙汰だ。
「三度、加害者に会いに行ったんだけど」
「三度もですかっ!?」
ボクは驚きそう言うと、若宮さんはおかしそうに笑いながら話を続ける。ちなみに、この場合の「会う」という表現は被害者家族による「集団暴行」を示している。
「必要だったからね。被害者だけが恐怖に脅えるなんて不公平じゃないか」
不公平も何も、誰かを恐怖に陥れるという行為は肯定できない。
「一度目と二度目は間を開けず、連日会いに行ったんだ。そして一日休みを挟んで、翌日また会いに行った」
「休みを挟む?」
意図がわからず、そのまま聞き返す。
「うん。連日続く恐怖より、恐怖が終わったと安堵したところへ、終わりの見えない恐怖を供給する方が面白いかと思ってね。三度だけだから、効果はそこまで期待できないけど」
まったく悪びれるそぶりを見せない若宮さんに呆れつつ、ボクは本題に入ることにした。
「痣と写真は何だったんですか?」
被害者や加害者のことも気になるが、若宮さんにつけられた痣と弁護士が必要になるかもしれない写真の方がボクには重要だ。
「痣は……ほら。殴る蹴るという行為は、素人がやると加減が難しいだろ? 知らず知らずのうちに力加減を誤って重傷もしくは重体、最悪死に至らしめてしまう。だから練習をしたんだよ、僕の体で」
「は?」
この人は今、何を言った? 自分の体で何をしたって?
「まぁ、鳩尾への練習はちょっと大変だったな」
「なっ何してるんですかっ!? 若宮さんっっ!!」
「大丈夫、主に手足だけだから大したことないよ。内臓や骨は痛めてない」
あまりにも的外れな発言をする若宮さんに言葉も出ない。ボクが言いたいのはそこじゃない。いくら依頼のためだとはいえ、傷ついた若宮さんなんて見たくない。もちろんボクの目の届かないところで傷つくなんて論外だ。
「写真はネットで合法的に入手した」
ボクが黙っているのをいいことに、若宮さんはのんびりと続きを話し始める。
「アレを加害者に見せて、こちらが被害者関係者だということを匂わせたんだ。通報を躊躇わせるためにね。ただ、被害者本人からどんな格好で写真や動画を撮られたかを聞き出すのが大変だったな」
若宮さんは苦笑しているが、ボクはそれどころじゃない。
「被害者と被害者家族が精神的外傷を負わないよう細心の注意を払って計画したし、警察に捕まる可能性はゼロではないことにも承諾を得たよ」
だからボクが心配してるのは、そこじゃない。
「防犯カメラがないところで実行して、もちろん顔も隠した。日替わりで人を替えたし、声も出さないよう指示をした。僕は少し離れたところから見守っていただけで、実行には加わっていない」
ダメだ、この人。何も問題はないよう得意気に言うが、すべてが問題だ。黙っている場合はないので、厳しく注意をすることにする。
「実行に加わっていなくても実行犯より罪の重い主犯ですし、そもそも若宮さんがケガを――」
「いざという時の弁護士費用も含まれているからこそ、僕への依頼料は高額なんだ」
ボクの言葉を遮るように、若宮さんが言葉を重ねてきた。もちろん引き下がる訳にはいかないので抗議する。
「暴力はいけません。絶対に、何があってもいけません」
暴力は何も解決しないし、何より若宮さん自身が傷ついたという事実が許せない。
「僕も君の意見に賛成だ。気が合うね」
嫌みでもなく、ふてくされるわけでもなく、ごく普通にボクの意見を肯定してくる。
「ダメですよ、若宮さん。ごまかしてもダメです」
「いや、僕も本当に暴力は反対だよ」
ボクがさらに何か言おうとすると、若宮さんは突然、お姉さまとの昔話を語り出した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)