第17話
文字数 1,246文字
「どういう意味ですか?」
ボクは即座に若宮さんに聞く。「……気にするほどのことじゃないよ」と若宮さんは、ボクでないと気づかない程度に、気まずそうな顔をして答えた。何か……なんとなくだが、言葉には言い表すのが難しいが……物騒な物言いに聞こえたのは気のせいではないだろう。
「美術室から……」
高校生はうつむき、泣きながら絞り出すような声で話し出す。
「美術室から、サッカー部の練習が見えるんです。だから僕は……美術の先生に頼みこんで、美術室で絵を描く許可を……」
涙で言葉につまった高校生へ、若宮さんが声ををかけようとした――その時。ボクはそっと……しかし、しっかりと若宮さんの膝の上に置かれていた手を、包み込むように握りしめた。若宮さんがボクを見る。ボクも力強い目で見つめ返す。しばらく見つめ合ったあと、若宮さんは開きかけた口を閉じ、諦めたような顔でテーブルの上に置かれたカップに視線を移した。
ダメです。絶対にダメです、若宮さん。高校生の話を最後まで聞いてあげてください。話が長くなりそうだからって……面倒くさいからって、話を切り上げて終わらせようとしないでください。今は話を聞くべきです。大人として、人として話を聞くべき時間です。ボクは高校生の話が終わるまで……若宮さんが話をしても問題ないタイミングまで、手を握り続けることにした。
この人は人の気持ちを掌握するのは得意なはずなのに、どうしても面倒くさがりの性格が勝ってしまうのが困る。ボクが若宮さんに注意を払っている間に、少し落ち着きを取り戻した高校生が続きを話し始めた。
「あの日……朝、いつものように美術室から外を見ていました。外はすごく天気が良くて……とても明るくて、遠くても……そこからでも、少しは綺麗に撮れるかなと思って……写真を撮ったんです……一枚だけ」
高校生は涙が止まらないのか、ボクの渡したハンカチで何度も目元を拭っている。
「離れていたから、本当に小さく写っていただけなんです。それなのに……見られてたんです、あいつに」
相変わらず若宮さんは興味なさそうに、ぼんやりとカップを見つめていた。おそらく、高校生の身に起こった不幸を、すべて承知しているのだろう。高校生の話に何の反応も示しはしない。
「美術室からは理科室が見えていた。だから、向こうからも見えて……僕はいつも校庭ばかり見ていたので気づかなかったっ……」
高校生の目から、また涙があふれる。
「あいつは僕が美術室にいることを知って……。それで……あの日、僕が写真を撮った日……あいつは美術室に来たんです。美術の先生には、鍵だけ開けてもらっていたから……いつも僕は一人だったんです。なのに……振り向いたら、あいつがっ……」
泣きながら話しているせいか、高校生の話はとぎれとぎれになっていて、ボクは話の全体像がつかめなかった。
「僕はごまかしたんです。そしたらあいつが……好きなのかって……変なことじゃないって言ってきて……僕はそれを信じてしまって……」
「『グルーミング』だ」
ボクは即座に若宮さんに聞く。「……気にするほどのことじゃないよ」と若宮さんは、ボクでないと気づかない程度に、気まずそうな顔をして答えた。何か……なんとなくだが、言葉には言い表すのが難しいが……物騒な物言いに聞こえたのは気のせいではないだろう。
「美術室から……」
高校生はうつむき、泣きながら絞り出すような声で話し出す。
「美術室から、サッカー部の練習が見えるんです。だから僕は……美術の先生に頼みこんで、美術室で絵を描く許可を……」
涙で言葉につまった高校生へ、若宮さんが声ををかけようとした――その時。ボクはそっと……しかし、しっかりと若宮さんの膝の上に置かれていた手を、包み込むように握りしめた。若宮さんがボクを見る。ボクも力強い目で見つめ返す。しばらく見つめ合ったあと、若宮さんは開きかけた口を閉じ、諦めたような顔でテーブルの上に置かれたカップに視線を移した。
ダメです。絶対にダメです、若宮さん。高校生の話を最後まで聞いてあげてください。話が長くなりそうだからって……面倒くさいからって、話を切り上げて終わらせようとしないでください。今は話を聞くべきです。大人として、人として話を聞くべき時間です。ボクは高校生の話が終わるまで……若宮さんが話をしても問題ないタイミングまで、手を握り続けることにした。
この人は人の気持ちを掌握するのは得意なはずなのに、どうしても面倒くさがりの性格が勝ってしまうのが困る。ボクが若宮さんに注意を払っている間に、少し落ち着きを取り戻した高校生が続きを話し始めた。
「あの日……朝、いつものように美術室から外を見ていました。外はすごく天気が良くて……とても明るくて、遠くても……そこからでも、少しは綺麗に撮れるかなと思って……写真を撮ったんです……一枚だけ」
高校生は涙が止まらないのか、ボクの渡したハンカチで何度も目元を拭っている。
「離れていたから、本当に小さく写っていただけなんです。それなのに……見られてたんです、あいつに」
相変わらず若宮さんは興味なさそうに、ぼんやりとカップを見つめていた。おそらく、高校生の身に起こった不幸を、すべて承知しているのだろう。高校生の話に何の反応も示しはしない。
「美術室からは理科室が見えていた。だから、向こうからも見えて……僕はいつも校庭ばかり見ていたので気づかなかったっ……」
高校生の目から、また涙があふれる。
「あいつは僕が美術室にいることを知って……。それで……あの日、僕が写真を撮った日……あいつは美術室に来たんです。美術の先生には、鍵だけ開けてもらっていたから……いつも僕は一人だったんです。なのに……振り向いたら、あいつがっ……」
泣きながら話しているせいか、高校生の話はとぎれとぎれになっていて、ボクは話の全体像がつかめなかった。
「僕はごまかしたんです。そしたらあいつが……好きなのかって……変なことじゃないって言ってきて……僕はそれを信じてしまって……」
「『グルーミング』だ」
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