第25話

文字数 856文字

 全校集会のあと、美術教師の奇行はピタリと止む。そして生徒たちは、また噂をする。美術教師のストーカー行為は、生徒を守るためだったのではないかと。高校教諭の不祥事記事、開かれた全校集会、太斉の退職、美術教師の素行良好、突如として行われた「わいせつ行為に関するアンケート」により、それは決定打となった。

 己を顧みず生徒のために骨を折り、そして実際に骨を折った美術教師を生徒たちは「骨折り先生」と、名誉か不名誉なのかよくわからないあだ名をつけ、在校生全員が彼女へ絶大な信頼と尊敬の念を抱くこととなった。もちろん、和田少年もその一人である。

 その後、学校では二度も逮捕者を出したことで、教育委員会による調査が行われれた。生徒へのアンケートはもちろん、教師への聞き取りにより、校長が美術教師による陳情を放置したこと、太斉が逮捕されてもなお、起訴されるまでは生徒に知らせないよう教師陣に口止めしたことが明るみに出る。他にも多数問題が発覚し、校長は校長としての資質を問われた結果――自身が一番恐れていた「責任」を取らされることとなった。



 午前中の診察の合間に、院長から例の教師が逮捕されたことを知らされた。どうやら、今回の紹介者は院長だったらしい。院長は優しげな笑顔で「カイちゃんに伝えておいてください」と前置きをし、依頼人のおばあ様が若宮さんの報告書に大変喜んでいたと教えてくれた。ボクは「わかりました」と答え、仕事に戻る。

 おばあ様の不安が取り除けたことは、とても喜ばしいことだ。教師も逮捕されたのだから、懲戒解雇は免れないだろう。そして若宮さんが関わっているなら不起訴や執行猶予で済むわけがなく、最低でも懲役がつくよう仕向けているはずだ。

 ボクはため息をつく。教師は児童ポルノ禁止法で捕まった。つまり、逮捕にいたる証拠が見つかったということだ。証拠を手に入れるため、若宮さんが教師の自宅へ不法侵入をした可能性もある。不法侵入の罪はいったいどの程度なのだろうかと考えながら、ボクは懐かしくもない友人の声が聞きたくなった。
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登場人物紹介

若宮カイ(41)

目明し堂を営む張本人

人嫌いで、大のめんどくさがり屋/なまめかしい雰囲気を漂わせている/いつも寝癖がついている/受けた依頼は、世羅くんを振り回してきっちり解決する、やればできる人

世羅宏(30)

若宮の助手兼、運転手、本業は医師

善良な人間(若宮談)/料理を含む、家事全般が得意/彼女が途切れない/いつも若宮に振り回されてる、ちょっとかわいそうな人

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