第26話  ☆悪魔を滅する、ただひとつの方法  その三

文字数 1,768文字

 〜私にできること〜


 私にできることは、これしかない。

 間宮が悪魔であることを知っているのは、私だけだ。
 だから、私が間宮を止めなければならない。

 だが、これまでの私は、無意識に自分が傷つくことをさけていた。
 自分が傷つかず、安直に間宮を消滅させようとしたから、うまくいかなかったのだ。

 私はタイムマシンの燃料をたしかめた。
 さっきのフライトの往復で、きれいに半分、なくなっている。半分まで減っていた燃料が、さらに半分に。つまり、残りは四分の一。あと二回、飛べる。
 メカニカル担当の間宮なら、何度でも新しいマシンを造ることができるが、私には、この二回を最大限に利用することしかできない。

 私はもう一度、十年前のあの日へ飛んだ。

 人目につくところで間宮を殺すわけにはいかない。

 学校が終わるより、かなり前に来て、私は待っていた。

 なるほど。注意していると、あとから、一人めの私と二人めの私が来た。だが、話している時間はなかった。
 授業終了のチャイムが鳴り、児童たちが校舎から出てきている。

 一人めの私は、やや離れたところから、うかがっている。二人めの私は間宮を見つけると、すぐさま、かけよってきた。

 私も走りだし、間宮と二人めの私のあいだに立ちはだかった。
 子どもの心臓をねらったからだろう。刃は脇腹に刺さった。

 二人めの私が、ギョッとしている。

 私は一人めの私にも聞こえるように、大きな声で叫んだ。
「私は三人めだ。この方法では失敗する!」

 それだけで、一人めと二人めの私は察したようだ。それぞれタイムマシンに乗り去っていった。

 よかった。とりあえず、今、この場で間宮が殺されることは、これでもうない。

 きゃあきゃあと、まわりの子どもたちが悲鳴をあげる。とはいえ、何が起こったのか、誰も気づいていない。

 私は傷口から血が流れないよう両手で押さえ、タイムマシンに乗りこんだ。
 傷は深い。立っているだけでツライ。
 だが、まだ、ここで死ぬわけにはいかない。

 私は現代へ帰った。
 ただし、タイムマシンが完成した記念すべき日ではない。

 何もかもがうまくいき、幸福の絶頂だった、あの日。
 もう、あのときには戻れない。

 私がむかったのは、実験飛行をする前日だ。
 真夜中までマシンの点検や整備調整を間宮と二人でしていた。
 夜の十一時。本来の私は仮眠をとるために仮眠室へ行った。三十分だけ休むために。

 だが、三十分もあれば充分だ。
 マシンは、すでに完成している。整備もほぼ終わっていた。このあとの最後の微調整でも問題はなかった。
 三十分あれば、この世から悪魔を消し去ることができる。

 私はなにげないふりをして、研究室へ入った。

 間宮が気づいて微笑をなげてくる。
「いよいよ完成ですね。教授。この実験さえ成功すれば、どんな願いだって叶えることができるようになりますよ」

 こんなときだが、やはり、その笑顔には魅了される。

 こいつは生まれながらに悪魔だったんだろうか?
 それとも、時間を超えるという神のような力を得たために、こいつのなかの悪魔が目覚めたのだろうか?

 だとしたら、やはり、私のせいなのだろう。

 私は責任をとらなければならない。
 恐ろしい悪魔をこの世に解き放つ、きっかけを作ってしまったことを。
 たとえ、私自身の命をかけてでも。

 私は痛みをこらえ、タイムマシンのなかへ入った。
 そして、さりげなく間宮に声をかける。

「間宮くん。ちょっと、ここを見てくれないか。機器の調子が変だ」
「え? どこですか? さっき、入念に点検したはずなんですが」

 疑いもせずに入ってくる間宮の頭を、スパナでなぐった。間宮が倒れ、失神する。
 そのすきに、私はタイムマシンのハッチをロックした。
 機器を操作し、目的地を設定する。

「間宮くん。記念すべき初フライトだ。君を四十六億年前の地球に招待するよ。まだ誰も人間がふんだことのない大地をふめるんだ。ただし、その大地があればだがね」

 生まれたばかりの地球。
 まだ煮えたぎるマグマしか存在しない世界。
 到着と同時にマシンは溶解する。

 さよなら。愛花。
 今度こそ、幸せになってくれ。

 もうろうとする意識のなかで、私はエンジンを起動した。

 時の流れに、マシンは光の矢のように放たれる——



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