蛇足O 「弁証法」は論理学か?

文字数 1,777文字

●蛇足O 「弁証法」は論理学か?

 ちょっと目先を変えて、チャットGPTに「弁証法」について質問してみました。僕の今回の小説で、どんでん返しや逆転の発想法として使っていた論理トリックのテクニックです。


弁証法とは論理学の一種ですか。


弁証法は、単なる論理学の一種ではありません。弁証法は、哲学の一分野であり、相反する要素が互いに作用し合い、矛盾が解消される過程を分析するための方法論です。弁証法は、ドイツの哲学者ヘーゲルが提唱したものが有名ですが、それ以前から中国やインドなど様々な文化圏で独自の弁証法が発展してきました。
論理学は、論理的な思考や論理学的な法則について研究する学問であり、主に数学や哲学などで扱われます。弁証法は、論理学的な方法論を用いつつも、より包括的な哲学的な問題に取り組みます。弁証法は、相反する要素が互いに作用し合うことで、新しい洞察や知識を生み出すことができるという、哲学的な理念に基づいています。

 非常に望ましい答えを返してくれました。弁証法は「論理学でなく、哲学や方法論である」というのが正しい見解であるべきです。

 ところがウィキペディアで「弁証法」を見てみると、「弁証法的論理学」という項目が立っています。これは〝恐るべき迷妄〟というしかありません。英語版の「Dialectic」には記載されていませんから、哲学後進地である日本の文系哲学者が、この恥ずべきトンデモ項目を書き加えたのでしょう。

 肯定と否定の両方が成り立つと、論理はたちまち崩壊します。自動推論系の場合、実は「どんな結論でも導ける」ことになるという大崩壊です。ほとんどの専門書ではその注意を明示的に書いていませんから、知らない専門家が多いのだと思います。

 しかしチャットGPTの回答は、僕をうならせるに十分です。開発者は天才にちがいないと思うのですが、きちんとこの問題に対処しうるシステムを構築しつつあるようです。今回の質問が、チャットGPTの根源的で最も重要な潜在能力をテストするつもりのものでしたが、見事に合格してくれました。

 だから僕はチャットGPTの開発者を信頼します。この人工知能システムが今後いろいろな問題を起こしたとしても、開発者はそれを一つずつ克服していく能力と注意力を十二分に有していると期待できるからです。

 もし弁証法まで自在に操れる人工知能が登場したなら、それは人類史における一大画期だとまで想像しています。機械が「独創」を行えるようになるからです。ついに人間を超えてしまうかもしれません。

 僕の別名義の『21世紀の経済学』では、その時期を2030年頃と大胆に書いています。実は1990年代初めからそのように想定して、いっさい変えずに来た〝予言〟です。世間ではその時期である「シンギュラリティ」として、2040年説が引用されることがありますが、それより十年早いです。

 池上彰さんが僕の説を気に入ってくださっているらしく、たまにテレビで「2030年」を口にされることがあります。しかもチャットGPTの能力があまりにもすごいため、この頃は2030年がシンギュラリティとマスコミでも書いていることがあります。

 弁証法はそんな人工知能問題にも密接にかかわっているのですが、文系哲学者には数理脳がありません。論理学の基本さえわかっていないにちがいなく、数学基礎論の古典的成果である論証などチンプンカンプン、人工知能の自動推論系はまったくの別世界でしょう。まずデジタル数学から勉強し始めないといけませんから。

 しかも先ほどのウィキペディアの記述にはきわめて重大な欠陥があります。弁証法に関しては、戦後の京大で、科学史における特筆すべき一大成果というべき、非常に大きな貢献が行われました。それが欠落しているのです。

 数理脳もなく、科学脳もなくては、実践的な弁証法は理解しきれません。あまりにも古色蒼然とした記述に、僕は呆然としてしまいました。国内がこの状況ですから、英語版にこの項目がないのも仕方ありませんが。

 東大系で科学史・科学哲学の第一人者格の方とは、数十年のお付き合いがありましたが、弁証法に関する議論をしたことがありませんでした。あまり問題意識を持っておられなかったのかと推測します。弁証法に関しては国内では京大系が圧倒的トップだと思います。
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