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文字数 1,656文字

 きらめき銀行の支店が近隣にないため、他行やコンビニなどのATMで預金を引き出そうと試みた利用者が多数いた。特にゆうちょ銀行のATMを利用した預金者が幾つかの地域で郵便局に殺到した事実が、世の中で誤解の元になった。
 それはインターネットの功罪ともいえた。功の側では、オンライン振込によって他行に預金をさっさと移した預金者たちは、ほぼこの混乱に巻き込まれずに済んだ。ところが他行の口座を持たない預金者は現金で引き出すしかなく、彼らが騒ぎを大きくしたのだ。
 郵便局のATMを利用した預金者が意外に多かった。それを撮影した動画がネット上を席巻することになってしまった。とりわけ「ゆうちょ銀行も危ない!」という無責任な誤情報を付した映像が、インターネット上で急速に拡散したのだ。
 最も胡散臭い情報が、真正の映像付きで発信されると、極めて高い影響力を発揮しうる。それが現在のインターネット社会における、恐ろしくも新しい法則なのかもしれなかった。
 塚本もさすがに、にわかに現れたそんな「ゆうちょ銀行破綻説」を簡単に信じるつもりはなかった。ところが今夜、溢れ始めた情報を検索してチェックしていると、だんだん心配になってきたのだ。
 ゆうちょ銀行の周りには、社会規範や社会常識を逸脱したような話が非常に多かった。近時の目立った話題は「消えた郵便貯金」問題である。民営化前の定額貯金などは、満期から二十年放置したままだと、ゆうちょ銀行に没収されてしまう。四百五十億円以上が消えたなどと騒いでいる。民間銀行ではありえない異常な制度である。
 そんな役所的体質への不満が伏線になっているのか、ゆうちょ銀行に関する書き込みが、今日はきらめき銀行問題を遥かに上回ったのだ。
 いろいろ真剣な指摘がある。ゆうちょ銀行は「プライム市場の上場基準を満たしていない」らしい。プライム市場というのをよく知らないが、旧東証一部が改名されたとでも解釈すればいいようだ。株式時価総額が大きな企業群である。プライムの上場基準があるのだが、ゆうちょ銀行は流通株式の満たすべき比率が基準に達していないそうだ。
 塚本にはよくわからない問題だったため、ユーチューブで日本郵政問題の解説を視聴してみた。日本郵政はゆうちょ銀行で利益の七割を稼ぎ出しているのに、ゆうちょ株の保有比率を五割以下に減らす方針だそうだ。稼ぎ頭を切り離すとは、そんなでたらめな経営方針が不思議だ。ゆうちょ銀行が近く破綻するとでも恐れているのだろうか?
 またかんぽ生命でも保険の不正販売が明るみに出ていた。旧契約と新契約で保険料を二重払いさせた事例は極めて多数。認知症の高齢者に多数の契約を結ばせた例は悪質だ。どうも日本郵政は膿だらけの企業らしい。
 加えて小さな郵便局では、局長や定年退職者に局舎を買い取り保有させて、彼らに高額な家賃を払い続けているそうだ。利権と悪徳が蔓延している。しかも郵便局長会は新自党の有力支援組織であり、局長になるためには、新自党の党員にならざるをえないらしい。
 うんざりする話がいろいろ出てくるが、それらを詳しく知りたくもなかった。塚本としては、以前に比べて郵便がなかなか届かなくなったのが何よりも不満だ。しかもそんな中で、郵便局数を減らそうとする検討まで進めているそうではないか。
 日本郵政はかつての郵政民営化後、乱脈経営が目に余るように思われた。悪名高い無能社長が、オーストラリアの物流会社を無謀にも買収して、なんと四千億円もの損失を出した異常な事件さえあった。まともな企業ではありえない大失敗を繰り返しているのだ。
 塚本はブツブツと独り言を漏らさざるをえなかった。
「もし日本が破綻したら、郵政は大変なことになりかねんなあ……」
 そんな恐るべき事態が、今や目前に迫っているのだろうか? 預金量が銀行界トップで、二百兆円近い。そんな日本郵政の救済策など、俺にはとても立案できっこない。きらめき銀行の百倍規模だ。明日から会議だというのに、前途の多難さに身震いを感じさえした。
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