僕の黒歴史。2
文字数 1,231文字
5時間目が始まるギリギリに、僕らは教室に戻った。
教室には遊びにきている他のクラスの生徒もいたけど、全員の目が僕らに向く。
注目を浴びるなかで、留佳が僕の入部届をゆっくりと頭上に掲げた。
「灰島双葉くん、演劇部に入部しました」
芝居がかった動作の割には淡々とした口調だったが、教室中がどよめいた。
他のクラスの子たちがものすごい勢いで教室を飛び出していく。
な、なんなの……?
そして、僕のところには家須が飛んできた。
「灰島! 演劇部ってどういうつもりだよ! 男子部はどうすんの!」
僕は持っていた紙袋をドサリと机の上に置いた。中身は演劇部からの借り物だ
「兼部してもええらしいから、男子部ができたら入る……」
それは丸子先輩にアドバイスされた、男子への対応策だった。兼部できるなんて、知らなかった。
「え、そうなのか? それならいいけどさ」
家須はあっさりと怒りをおさめた。
「でも、なんで演劇部に入ったわけ? もしかして、やりたかったの? 中学の時に演劇部だったとか? 気になる子がいたとか?」
僕は力なく首を振った。
「じゃあ、断ればよかったじゃないか」
「まあ……なんというか、流れ?」
まさか、僕の黒歴史の話をするわけにもいかない。
中学時代、文芸部で好きなSFやホラー、ハードボイルドを書き散らしていた僕だったけど、その作品は文芸部が出している季刊誌の中で浮いていた。
「ねぇ、ふぅ。恋愛小説も書いてみたら? ていうか、次は恋愛特集やから!」と言われた僕は、「恋愛ものなんて無理……」と頭を抱えた。
「妄想でええから。それやったら書けるでしょ」
悪戦苦闘したけど、なんとか恋愛小説はできあがった。
文芸部の季刊誌は、全員ペンネームだ。
今まで自分が使っていたペンネームでは作風が違い過ぎる、と判断して作ったのが、自分の名前をもじった『真白三実 』というペンネーム。
作品は意外と評判がよく、調子に乗って書いたのが、さっきの羞恥プレイ――朗読された作品だ。
自分に片思いする女子が出てくる、という、一樹のことを馬鹿にできないナルシストっぷり。
声を大にして言いたいのは、気持ちよく書けるから、相手役に自分の名前を使っただけなんだ。
文芸部に出す時には、名前を変えるつもりだったし、実際にそうしていた。
なのに。
一樹が、名前を変える前の作品を見つけて、僕の知らない間に自作小説を公開するサイトにアップしてしまったのだ。「面白かったから」がアップした理由だったけど、悪魔の所業だ。
最近になって気づいて大慌てで削除したけど、一度ネットにアップしたものは、永遠にネットの海を漂う……。
でも、読んだ人はそんなにいなかったから油断した。
まさか、印刷されていて、しかも、僕が真白三実とバレているなんて。よりにもよって、英宣で脅しのネタに使われるなんて。
僕は大きなため息をついた。
教室には遊びにきている他のクラスの生徒もいたけど、全員の目が僕らに向く。
注目を浴びるなかで、留佳が僕の入部届をゆっくりと頭上に掲げた。
「灰島双葉くん、演劇部に入部しました」
芝居がかった動作の割には淡々とした口調だったが、教室中がどよめいた。
他のクラスの子たちがものすごい勢いで教室を飛び出していく。
な、なんなの……?
そして、僕のところには家須が飛んできた。
「灰島! 演劇部ってどういうつもりだよ! 男子部はどうすんの!」
僕は持っていた紙袋をドサリと机の上に置いた。中身は演劇部からの借り物だ
「兼部してもええらしいから、男子部ができたら入る……」
それは丸子先輩にアドバイスされた、男子への対応策だった。兼部できるなんて、知らなかった。
「え、そうなのか? それならいいけどさ」
家須はあっさりと怒りをおさめた。
「でも、なんで演劇部に入ったわけ? もしかして、やりたかったの? 中学の時に演劇部だったとか? 気になる子がいたとか?」
僕は力なく首を振った。
「じゃあ、断ればよかったじゃないか」
「まあ……なんというか、流れ?」
まさか、僕の黒歴史の話をするわけにもいかない。
中学時代、文芸部で好きなSFやホラー、ハードボイルドを書き散らしていた僕だったけど、その作品は文芸部が出している季刊誌の中で浮いていた。
「ねぇ、ふぅ。恋愛小説も書いてみたら? ていうか、次は恋愛特集やから!」と言われた僕は、「恋愛ものなんて無理……」と頭を抱えた。
「妄想でええから。それやったら書けるでしょ」
悪戦苦闘したけど、なんとか恋愛小説はできあがった。
文芸部の季刊誌は、全員ペンネームだ。
今まで自分が使っていたペンネームでは作風が違い過ぎる、と判断して作ったのが、自分の名前をもじった『
作品は意外と評判がよく、調子に乗って書いたのが、さっきの羞恥プレイ――朗読された作品だ。
自分に片思いする女子が出てくる、という、一樹のことを馬鹿にできないナルシストっぷり。
声を大にして言いたいのは、気持ちよく書けるから、相手役に自分の名前を使っただけなんだ。
文芸部に出す時には、名前を変えるつもりだったし、実際にそうしていた。
なのに。
一樹が、名前を変える前の作品を見つけて、僕の知らない間に自作小説を公開するサイトにアップしてしまったのだ。「面白かったから」がアップした理由だったけど、悪魔の所業だ。
最近になって気づいて大慌てで削除したけど、一度ネットにアップしたものは、永遠にネットの海を漂う……。
でも、読んだ人はそんなにいなかったから油断した。
まさか、印刷されていて、しかも、僕が真白三実とバレているなんて。よりにもよって、英宣で脅しのネタに使われるなんて。
僕は大きなため息をついた。