珍獣

文字数 949文字

 ターミナル駅で一樹たちと別の路線に乗った僕は、またもや溜まったSNSの返信作業に追われた。どいつもこいつも、英宣学園に関することばかりだ。
 僕のSNSには今や、会ったことのない5年上の先輩までいる。そういう先輩たちにビクビクと気を遣っていたのも最初だけ。ひたすら、『しばらくお待ちください』スタンプを押していく。慣れって怖い。

 5駅目が英宣学園の最寄り駅で、この時間帯の車内は白い制服を着た英宣の生徒だらけだ。
 男子の上下真っ白学ラン同様、女子も真っ白の制服。白のワンピースっぽい制服には、こげ茶色のラインが入り、それが逆に清楚だと評判らしい。
 上着(クラスメイトにはボレロというのだと笑われた)も真っ白で、こげ茶色の縁取りがある。革靴はブラウン。
 かわいいし、上品そうに見えるしで、制服に憧れて難関の高等部編入試験に挑む者がいる、というのもわかる。

 電車に詰まった女子たちは、「お嬢様学校」というイメージを壊さないよう、上品そうに囁き合っている。
 初日、この光景を見たときには、すごいなぁ、さすが英宣の生徒、と思った。
 だって、中学の女子なんて、3人集まっただけでもメチャクチャうるさかったんだから。やっぱりお嬢様は違うなぁ、なんて思っていた。

 でも。

 おしとやかでお上品なのは、駅から徒歩15分の正門をくぐり、校舎に入るまで。校舎に入ると、うるさいのなんの……。動物園に迷い込んだのかと思う騒がしさだ。
 昨日のテレビドラマのこと、ネットで仕入れた情報のこと、ゲームのこと、マンガのこと、芸能のこと、ファッションのこと、ダイエットのこと、宿題のこと、部活のこと――。
 どうして、同時に違う話ができるのか。
 どうして、結論も出さないまま、話が進められるのか。
 女子っていろいろすごい。

 今日も僕は動物園の如き喧騒を抜け、新校舎の1年B組に入った。キャアキャアと喋っていた声がピタリと止まる。
 この瞬間が一番辛い。よそ者が紛れ込んだ、気まずさ。男子である僕は異分子であり、珍獣だ。
 僕の席は、廊下側の列の一番前。つまり、ドアを開けてすぐの席だ。
 僕は女子たちと目を合わさないようにしながら、机の中から聖書と讃美歌を取り出すと、足早にチャペルへ向かった。
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