すっぽんぽん。
文字数 1,565文字
入ってきたのは、C組の矢萩上総 だった。
「やりましょうよ、アダムとイブの劇!」
矢萩はボサボサの髪を無理やり後ろでくくっている。それほど長くはないから、ポニーテールではなく、インコみたいなシッポがピコピコ揺れている。
僕ら3人は突然の闖入者 をポカンと見つめた。
「あなた、誰……? ここは部外者立ち入り禁止よ」
丸子先輩が睨みつける。
「あ、すんません」
ニヘッと笑いながら頭を下げた矢萩の背中を後ろからどついたのは、同じ1組の余部美羽 だった。
「矢萩くん! 先に入らんといてって言うたでしょ!」
プリプリ怒っている。
ちょっとぽっちゃり気味で大柄で、笑い声が大きい。おばちゃんぽいけど、逆になんというか、おっかさんみたいで安心感がある。
「美羽が大道具担当」
留佳がこそっと教えてくれた。
この子はよくうちのクラスにきて留佳と話をしているから、名前と顔は知っていた。
そっか、この子も演劇部だったのか……。
「あ、美羽ちんも頼んでや。アダムとイブやろうって」
美羽がチラリと丸子先輩を見る。
「部外者が何言うてんの! だいたい、立ち聞きなんて下品でしょ! 美羽、さっさと追い出して!」
「いやぁ、そう言わんと。入部しに来たら、話が聞こえてしもただけなんですから」
丸子先輩の冷たい睨みに全くひるむことなく、矢萩は言う。
「入部希望……?」
丸子先輩の眉間のしわが深くなる。
「はい、矢萩上総です! よろしくお願いします!」
「あなた……演技経験とか、裏方の経験あるの?」
「いいえぇ」
矢萩は大きく手を振った。
「灰島っちが勧誘されたって聞いて、なんかオモロそうって思て」
眉間に皺を寄せたまま、丸子先輩が僕を見た。
僕が勧誘したと思われて、丸子先輩にこれ以上、嫌われたら困る。
「いや、僕は何も言うてませんよ! な、矢萩?」
必死で言うと、矢萩は大きく頷いた。
「そうです。なんちゅうか、俺の勘です、勘。絶対オモロイぞっていう」
「アダムとイブのどの辺がオモロイの?」
口を挟んだのは、留佳だ。
矢萩が喜々として答える。
「アダムとイブっちゅうより、それをやる演劇部がオモロそうやない?」
「……なにそれ、失礼やない?」
丸子先輩のこめかみがピクピクしているのも、矢萩はお構いなしだ。
「アダムとイブって、リンゴ食べるまでは恥ずかしいって感覚がなかったんやろ?」
「うん、そう」
「つまりぃ……スッポンポン! やったわけや」
「すっぽんぽん……」
丸子先輩は顔をほのかに赤らめてうつむいた。
ちょっと! どんな感じを想像したんですか!
「リアリティを追求して、舞台では生身の人間が全裸でやるべきです。ほら、ちょうど、男子部員も入ったことですし」
矢萩が言った途端、丸子先輩、留佳、美羽が一斉に僕を見た。
え? 僕……?
いやいやムリムリムリ! 僕の貧相な体を人に、しかもお嬢様を含む女子に見せるなんて……!
「でも、灰島くんは脚本担当やから」
「チチチ」
留佳の言葉に、矢萩は顔の前で立てた人差し指をワイパーのように振った。
「そこで、俺、ですよ。俺はウケを取るためなら、全裸も厭いません! ベージュの全身タイツや前張りなんてもってのほか! 男なら堂々と、裸で勝負っしょ!」
言いながら、矢萩は真っ白の制服を脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンをプチプチと外し始めた。
美羽は苦笑気味に、留佳は興味をひかれたように身を乗り出し、丸子先輩は矢萩がボタンを2つ外したところで……。
「ぎゃー!! この変態!!!」
丸子先輩の悲鳴というか、雄たけびが響きわたり、小道具のバケツが矢萩めがけて飛んで行った――。
「やりましょうよ、アダムとイブの劇!」
矢萩はボサボサの髪を無理やり後ろでくくっている。それほど長くはないから、ポニーテールではなく、インコみたいなシッポがピコピコ揺れている。
僕ら3人は突然の
「あなた、誰……? ここは部外者立ち入り禁止よ」
丸子先輩が睨みつける。
「あ、すんません」
ニヘッと笑いながら頭を下げた矢萩の背中を後ろからどついたのは、同じ1組の
「矢萩くん! 先に入らんといてって言うたでしょ!」
プリプリ怒っている。
ちょっとぽっちゃり気味で大柄で、笑い声が大きい。おばちゃんぽいけど、逆になんというか、おっかさんみたいで安心感がある。
「美羽が大道具担当」
留佳がこそっと教えてくれた。
この子はよくうちのクラスにきて留佳と話をしているから、名前と顔は知っていた。
そっか、この子も演劇部だったのか……。
「あ、美羽ちんも頼んでや。アダムとイブやろうって」
美羽がチラリと丸子先輩を見る。
「部外者が何言うてんの! だいたい、立ち聞きなんて下品でしょ! 美羽、さっさと追い出して!」
「いやぁ、そう言わんと。入部しに来たら、話が聞こえてしもただけなんですから」
丸子先輩の冷たい睨みに全くひるむことなく、矢萩は言う。
「入部希望……?」
丸子先輩の眉間のしわが深くなる。
「はい、矢萩上総です! よろしくお願いします!」
「あなた……演技経験とか、裏方の経験あるの?」
「いいえぇ」
矢萩は大きく手を振った。
「灰島っちが勧誘されたって聞いて、なんかオモロそうって思て」
眉間に皺を寄せたまま、丸子先輩が僕を見た。
僕が勧誘したと思われて、丸子先輩にこれ以上、嫌われたら困る。
「いや、僕は何も言うてませんよ! な、矢萩?」
必死で言うと、矢萩は大きく頷いた。
「そうです。なんちゅうか、俺の勘です、勘。絶対オモロイぞっていう」
「アダムとイブのどの辺がオモロイの?」
口を挟んだのは、留佳だ。
矢萩が喜々として答える。
「アダムとイブっちゅうより、それをやる演劇部がオモロそうやない?」
「……なにそれ、失礼やない?」
丸子先輩のこめかみがピクピクしているのも、矢萩はお構いなしだ。
「アダムとイブって、リンゴ食べるまでは恥ずかしいって感覚がなかったんやろ?」
「うん、そう」
「つまりぃ……スッポンポン! やったわけや」
「すっぽんぽん……」
丸子先輩は顔をほのかに赤らめてうつむいた。
ちょっと! どんな感じを想像したんですか!
「リアリティを追求して、舞台では生身の人間が全裸でやるべきです。ほら、ちょうど、男子部員も入ったことですし」
矢萩が言った途端、丸子先輩、留佳、美羽が一斉に僕を見た。
え? 僕……?
いやいやムリムリムリ! 僕の貧相な体を人に、しかもお嬢様を含む女子に見せるなんて……!
「でも、灰島くんは脚本担当やから」
「チチチ」
留佳の言葉に、矢萩は顔の前で立てた人差し指をワイパーのように振った。
「そこで、俺、ですよ。俺はウケを取るためなら、全裸も厭いません! ベージュの全身タイツや前張りなんてもってのほか! 男なら堂々と、裸で勝負っしょ!」
言いながら、矢萩は真っ白の制服を脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンをプチプチと外し始めた。
美羽は苦笑気味に、留佳は興味をひかれたように身を乗り出し、丸子先輩は矢萩がボタンを2つ外したところで……。
「ぎゃー!! この変態!!!」
丸子先輩の悲鳴というか、雄たけびが響きわたり、小道具のバケツが矢萩めがけて飛んで行った――。