女子もいろいろいるわけで。

文字数 1,724文字

 入学して一週間。クラスメイトたちを観察していてわかったことがある。
 女子たちにも派閥というかタイプがあって、うちのクラスは大きく4つに分かれる。

 「典型的なお嬢様グループ」は、世間から見た英宣学園のイメージそのものの生徒だ。
 どこかの社長令嬢で、幼稚舎から英宣、中等部から男子のいない生活をしている、筋金入りのお嬢様。話しかけると「ごきげんよう」と返ってきそうで、彼女たちとは話したことがない。

 次の「男子拒絶グループ」はお嬢様グループの取り巻きでもあり、男女共学化に反対し続けてきたグループ。
 この子たちは僕らを異物としてしか見ていなくて、常に喧嘩腰っぽいから関わり合いを持たないようにしている。男子を追い出そうとする動きもあるらしい。
 僕と家須の席が一番前なのも「後ろの席で変なコトをされたらイヤなので」という彼女たちの主張のせいだ。
 ……っていうか、変なコトってなに?

 拒絶グループとは反対に、僕らと積極的に関わろうとする「興味津々グループ」。このグループは更に2つに分かれる。
 「男という生物に興味がある子たち」の筆頭が、例の財前千穂だ。
 男子部の集まりで、彼女が6人全員のアソコをギュッとしたことがわかり、その強心臓っぷりが話題になった。
 彼女の意図はなんなのか、と男子部そっちのけで盛り上がってしまった。
 最近、千穂が生物部とわかり、本当に生物学的に興味があるのだ、という仮の結論が出たところだ。

 千穂以外にも、おっとりしたカワイイ感じの子が「ねぇ、灰島くん。男の子って〇〇〇〇が〇〇〇〇って本当?」と突然、伏字なしのモロの単語を口にしたりするから、女性不信になりそう。
 家須は特にこのグループが大の苦手で、リストをつくって関わらないようにしているらしい。

 「興味津々グループ」のもう一つが、「彼氏対象になるかどうかの目で僕らを見てくる子たち」。
 この子たちは、教室の場所や行事に戸惑う僕らに、親切にアドバイスをくれたりするから助かっているが、A組のチャラ男・多田秀人が「SNSで繋がってくれへん」と愚痴るように、意外と慎重。
 見極めて見極めて……ガブッといきそうな肉食獣の姿が、彼女たちの笑顔の向こうに見え隠れしている。

 そして、最後は「無関心グループ」。
 この子たちは勉強や部活、趣味などに熱中していたり、男兄弟がいて、僕らを異物と捉えない。
 僕らに積極的に関わることもなく、でも、授業のグループ学習なんかでは真面目に話してくれるから、一番気楽だ。

 ところで、英宣のお昼休みはクラス全員で食前のお祈りをした後、持参のお弁当やパンを自席で食べることになっていて、その後は何をしても、どこに行っても自由。

 家須に放課後、残るように言われた日。
 昼休みになると増すアウェイ感に、堪らず図書館にでも避難しようと立ち上がりかけたときだった。

 男子に無関心グループの一人、安達留佳(あだちるか)が僕の席にやってきた。
「灰島くん。ちょっと話があるんやけど、来てくれる?」
「へ?」
 キャアキャア、ザワザワうるさかった教室内が、シンと静まり返る。
 僕は突然接触を図ってきた、オカッパ頭の女子を見上げた。髪の毛と同じ、ダークブラウンの瞳が僕を見つめてきて、ちょっと……いや、かなりドキドキした。

 クラスメイトの新手の遊びかもしれないぞ、と自分に警告を発する。
「こっち」と廊下に出ようとする留佳についていくべきかどうか迷っていたら、留佳が戻ってきた。
 バン! と机を掌で叩き、「来て?」と微笑む。
 怖い。なんか絶対良くないことが起きる。

「いや、あの、話ならここで」
 そう言った僕に、留佳がぐっと僕に顔を寄せた。キスされる?! と反射的にぎゅっと目を閉じてしまった。
 数人の女子の、おっさんみたいな「ヒュ~ウ」なんてからかいの声が聞こえてきたけど、僕の耳には届かなかった。

 僕の耳に届いたのは――。
真白(ましろ)三実(みみ)のこと、バラされたくなかったらついてきなさい」
 なんで、その名前のこと!
 目を見開く僕に、留佳はニッコリと微笑んだのだった。
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