ようこそ、演劇部へ?
文字数 1,224文字
クラスメイトたちの注目を浴びつつ、僕は留佳についてノロノロと教室を出た。
切りそろえられたオカッパの先が揺れるのを、斜め後ろから見つめながら歩く。
特徴的なダークブラウンの瞳は別にして、安達留佳は割と地味な顔立ちだ。
キャアキャア騒ぐタイプではなく、普段は物静かに本を読んでいる彼女が、今まで接点のなかった僕をどこへ連れて行こうというのか。
そして、真白三実 のことをどうやって知ったのか。一度も振り返らない彼女からは「聞くな」オーラが出ている。
僕が連れていかれたのは意外にも部室棟だった。
男子部をつくるという話があったから、入学式後の校内ガイダンスで案内されて以来、部活動の拠点である部室棟に足を踏み入れるのは二度目だ。
留佳はスタスタ歩いて、一階の一番奥へ行った。突き当りには「演劇部」の部室がある。
英宣の演劇部は2つだ。1つはESSで、英語劇を専門にやっている。
留佳はESSではない、普通の演劇部のほうのドアを開け、さっさと入っていってしまった。
英語「も」苦手な僕はESSじゃないことにホッとしたけど。
けど。
これは……もしかして、今まで女子が男役をしていたけど、これからは男子に男役をお願いしたいってこと?
6人いる男子の中で、どうして僕に白羽の矢が立ったのかわかんないけど、案外、舞台映えしそうとか?
次やる舞台の相手役と背のバランスがいいとか?
相手役からのご指名とか?
僕を選んでくれたのは嬉しいけど、正直、演技の経験なんてないから、舞台に立つ自信なんてない。厳しい稽古に耐える自信もない。
回れ右しようと思ったら、「灰島くん! 何やってんの。早く入って」と肘をつかまれ、中に引きずり込まれた。
そこには留佳の他に、女子がもう一人いた。
「げ」
思わず声が出たのは、待っていた女子が2年の丸子佳純 だったからだ。
1年の僕でも知ってる。「男子拒絶グループ」の中心的人物だ。
背が高く、髪の毛をショートにした彼女はファンが多い。もちろん女子の。
「お嬢様グループ」の藤堂奈緒美 と一緒にいることが多く、遠目で見ると、美男美女カップル、お姫様と騎士。
今日は赤い縁の眼鏡をかけていて、ちょっとイメージが違う。
なんだろう、マイルド? いつもの騎士っぽい感じに見えないのは、隣に藤堂奈緒美がいないからかな?
なんていろいろ考えていたら、マイルドなはずの丸子先輩は僕をジロリと睨んだ。眼光鋭い……。
「灰島くん。げって、どういうこと?」
「い、いえ。げ、元気? って聞こうかな、と」
苦しい言い訳をした僕を無視して、「説明してあげて」と留佳に振ると、そのまま窓の外に顔を向けた。
う、僕の顔は見たくないってことか。なんかちょっと悔しい。
「あのね、灰島くん」
留佳に呼びかけられ、僕は丸子先輩から留佳に顔を戻した。
切りそろえられたオカッパの先が揺れるのを、斜め後ろから見つめながら歩く。
特徴的なダークブラウンの瞳は別にして、安達留佳は割と地味な顔立ちだ。
キャアキャア騒ぐタイプではなく、普段は物静かに本を読んでいる彼女が、今まで接点のなかった僕をどこへ連れて行こうというのか。
そして、
僕が連れていかれたのは意外にも部室棟だった。
男子部をつくるという話があったから、入学式後の校内ガイダンスで案内されて以来、部活動の拠点である部室棟に足を踏み入れるのは二度目だ。
留佳はスタスタ歩いて、一階の一番奥へ行った。突き当りには「演劇部」の部室がある。
英宣の演劇部は2つだ。1つはESSで、英語劇を専門にやっている。
留佳はESSではない、普通の演劇部のほうのドアを開け、さっさと入っていってしまった。
英語「も」苦手な僕はESSじゃないことにホッとしたけど。
けど。
これは……もしかして、今まで女子が男役をしていたけど、これからは男子に男役をお願いしたいってこと?
6人いる男子の中で、どうして僕に白羽の矢が立ったのかわかんないけど、案外、舞台映えしそうとか?
次やる舞台の相手役と背のバランスがいいとか?
相手役からのご指名とか?
僕を選んでくれたのは嬉しいけど、正直、演技の経験なんてないから、舞台に立つ自信なんてない。厳しい稽古に耐える自信もない。
回れ右しようと思ったら、「灰島くん! 何やってんの。早く入って」と肘をつかまれ、中に引きずり込まれた。
そこには留佳の他に、女子がもう一人いた。
「げ」
思わず声が出たのは、待っていた女子が2年の
1年の僕でも知ってる。「男子拒絶グループ」の中心的人物だ。
背が高く、髪の毛をショートにした彼女はファンが多い。もちろん女子の。
「お嬢様グループ」の
今日は赤い縁の眼鏡をかけていて、ちょっとイメージが違う。
なんだろう、マイルド? いつもの騎士っぽい感じに見えないのは、隣に藤堂奈緒美がいないからかな?
なんていろいろ考えていたら、マイルドなはずの丸子先輩は僕をジロリと睨んだ。眼光鋭い……。
「灰島くん。げって、どういうこと?」
「い、いえ。げ、元気? って聞こうかな、と」
苦しい言い訳をした僕を無視して、「説明してあげて」と留佳に振ると、そのまま窓の外に顔を向けた。
う、僕の顔は見たくないってことか。なんかちょっと悔しい。
「あのね、灰島くん」
留佳に呼びかけられ、僕は丸子先輩から留佳に顔を戻した。