イエスさまの誕生日
文字数 1,495文字
咳ばらいを一つして、丸子先輩は元のクールな声に戻った。
「今日は、5月末のバザーで披露する劇について話し合います。新入部員紹介もするから、短い劇でいこうと思います」
英宣では5月末に、中学部・高等部主催のバザーが開催される。幼稚舎、初等科、大学生も参加するかなり大規模なものだ。
不用品(ただし、新品に限る)を持ち寄ったり、自分たちで作ったお菓子やアクセサリーを販売し、売り上げは一部を学園に寄付する以外は、各クラス・部で運営費に充てていい。
屋台なんかも出るらしい。
お客さんは在校生自身のほか、卒業生。
在校生と卒業生からチケットを貰った一般の人も入れるけど、女性のみ、だ。
男性は外部の飲食業者以外は、在校生の保護者、卒業生の家族のみと決まっている。しかも、事前申請制。人数制限ありで、顔写真・証明書が必要。厳格すぎる。
バザーの日には物を売り買いするだけじゃなく、毎朝礼拝をしているチャペルでESSと演劇部がそれぞれ劇をし、コーラス部や音楽研究会が演奏をしたりもする。
ミニ文化祭っぽい位置づけだ。
「短いものかぁ。どのエピソードをやりましょうか?」
僕と丸子先輩の中間、『最後の晩餐』の絵でイエス・キリストの位置に座った留佳が丸子先輩に訊く。
部長はプロデューサー、副部長の丸子先輩はディレクターという位置づけ。
留佳が一年生ながら丸子先輩の補佐という大役なのは、中学部時代、演劇部部長だったから、だそうだ。高等部のメンバーとも顔見知りで、たまに助っ人もしていたとか。
まだ来ていない大道具のリーダーも1年生だけど、中学部時代に副部長だった子らしい。
「男子はキリスト教系の学校から来た人は一人だけ(これは家須のことだ)、女子も高校から入学組はキリスト教に馴染みが薄いから……イエス・キリストの生誕をやってもいいかな、とは思う」
そう、丸子先輩が言う通り、僕と同じく、新品の聖書を持った女子が各クラスに数人いるのだ。
ちなみにその子たちは、無関心グループと、彼氏募集中グループのどちらか、だ。
「あの……」
僕は遠慮がちに手を挙げた。
「どうぞ」
丸子先輩はこっちに顔を向けながらも、目を合わせないという神業で僕に促した。
うう、目ぐらい合わせて。すんごい切なくなってきた。
「あの、イエスさまの誕生日って12月ですよね……?」
「聖書には、イエス・キリストが12月生まれなんて文章は聖書にはないそうよ」
「え!」
僕は慌てて持参した聖書をめくった。
二段組で409ページの聖書。
……どこにイエスさまの誕生エピソードがあるかわからない。
「マタイによる福音書。新約聖書の先頭!」
留佳が素早く教えてくれる。いいヤツ……。
僕はまだまだ開きにくい聖書をめくった。マタイによる福音書は、聖書の4分の3ほどのところにあった。つまり、4分の3は旧約聖書というわけだ。
実は旧約聖書と新約聖書のことも、僕はよくわかっていない。頑張って読んでみようと思ったけど、旧約聖書の先頭、創世記の1ページ、しかも途中で挫折した。
「あ、ほんまや。どこで生まれたかは書いてるけど、いつ、は書いてない」
丸子先輩はうなずいた。
「でしょ。だから、12月やないとあかんってわけやないし、今回はショートバージョンにしといて、12月のクリスマス礼拝でロングバージョンみたいな感じでやってもいいしね」
クリスマスにはやっぱり礼拝があるんだ。そして、あの荘厳な雰囲気の礼拝で劇をするんだ!
毎朝寝てるくせに、想像したらテンションがあがる。
「今日は、5月末のバザーで披露する劇について話し合います。新入部員紹介もするから、短い劇でいこうと思います」
英宣では5月末に、中学部・高等部主催のバザーが開催される。幼稚舎、初等科、大学生も参加するかなり大規模なものだ。
不用品(ただし、新品に限る)を持ち寄ったり、自分たちで作ったお菓子やアクセサリーを販売し、売り上げは一部を学園に寄付する以外は、各クラス・部で運営費に充てていい。
屋台なんかも出るらしい。
お客さんは在校生自身のほか、卒業生。
在校生と卒業生からチケットを貰った一般の人も入れるけど、女性のみ、だ。
男性は外部の飲食業者以外は、在校生の保護者、卒業生の家族のみと決まっている。しかも、事前申請制。人数制限ありで、顔写真・証明書が必要。厳格すぎる。
バザーの日には物を売り買いするだけじゃなく、毎朝礼拝をしているチャペルでESSと演劇部がそれぞれ劇をし、コーラス部や音楽研究会が演奏をしたりもする。
ミニ文化祭っぽい位置づけだ。
「短いものかぁ。どのエピソードをやりましょうか?」
僕と丸子先輩の中間、『最後の晩餐』の絵でイエス・キリストの位置に座った留佳が丸子先輩に訊く。
部長はプロデューサー、副部長の丸子先輩はディレクターという位置づけ。
留佳が一年生ながら丸子先輩の補佐という大役なのは、中学部時代、演劇部部長だったから、だそうだ。高等部のメンバーとも顔見知りで、たまに助っ人もしていたとか。
まだ来ていない大道具のリーダーも1年生だけど、中学部時代に副部長だった子らしい。
「男子はキリスト教系の学校から来た人は一人だけ(これは家須のことだ)、女子も高校から入学組はキリスト教に馴染みが薄いから……イエス・キリストの生誕をやってもいいかな、とは思う」
そう、丸子先輩が言う通り、僕と同じく、新品の聖書を持った女子が各クラスに数人いるのだ。
ちなみにその子たちは、無関心グループと、彼氏募集中グループのどちらか、だ。
「あの……」
僕は遠慮がちに手を挙げた。
「どうぞ」
丸子先輩はこっちに顔を向けながらも、目を合わせないという神業で僕に促した。
うう、目ぐらい合わせて。すんごい切なくなってきた。
「あの、イエスさまの誕生日って12月ですよね……?」
「聖書には、イエス・キリストが12月生まれなんて文章は聖書にはないそうよ」
「え!」
僕は慌てて持参した聖書をめくった。
二段組で409ページの聖書。
……どこにイエスさまの誕生エピソードがあるかわからない。
「マタイによる福音書。新約聖書の先頭!」
留佳が素早く教えてくれる。いいヤツ……。
僕はまだまだ開きにくい聖書をめくった。マタイによる福音書は、聖書の4分の3ほどのところにあった。つまり、4分の3は旧約聖書というわけだ。
実は旧約聖書と新約聖書のことも、僕はよくわかっていない。頑張って読んでみようと思ったけど、旧約聖書の先頭、創世記の1ページ、しかも途中で挫折した。
「あ、ほんまや。どこで生まれたかは書いてるけど、いつ、は書いてない」
丸子先輩はうなずいた。
「でしょ。だから、12月やないとあかんってわけやないし、今回はショートバージョンにしといて、12月のクリスマス礼拝でロングバージョンみたいな感じでやってもいいしね」
クリスマスにはやっぱり礼拝があるんだ。そして、あの荘厳な雰囲気の礼拝で劇をするんだ!
毎朝寝てるくせに、想像したらテンションがあがる。