神さまとヘビ。
文字数 1,464文字
「あとは、スタートラインと言えば、アダムとイブかな……」
あれ?スタートラインは天地創造じゃなかったっけ、と思って、聖書の先頭を開いてみた。
旧約聖書の創世記第一章第一節。
『はじめに神は天と地とを創造された。』
これはうーん……明らかに大道具さんが大変そう……。
「灰島くんはどう思う?」
相変わらず目を合わせないまま、丸子先輩が訊いてきた。
「アダムとイブって、有名なヘビの話ですよね。ヘビにそそのかされて、リンゴを食べるやつ」
「そうよ」
「気になることがあるんですけど」
「なに?」
「ヘビってどういう気持ちで、イブにリンゴを食べさせたんかなって……?」
「「はあ?!」」
素直な疑問を口に出しただけなのに、二人から大声が返ってきた。
「いや、だってヘビにしたらなんの得があるんですか、イブ……あ、エバって書いてる。えーっと、これは……?」
「表記がエバなだけで、イブでええのよ。ねぇ、得って、どういうこと?」
「だから、アダムとイブは神さまに食べちゃいけないって言われてたリンゴを食べて、エデンを追い出されたんですよね?」
「そうよ」
「で、そそのかしたヘビは激怒した神さまに、一生地面を這って、チリを食べて暮らして、更に人に頭を踏まれる設定にされた」
「設定……まぁ、そうね」
「単に意地悪ってキャラ設定なのかもしれないけど、神さまを怒らせたらどうなるか、なんてヘビにはわかってたはず。結果だけ見ると、ヘビはなんの得にもならないことをしたってことになりません?」
不承不承ながらも丸子先輩が頷いてくれたのを見て、僕は勢いづいた。
「ヘビの動機が不明なんですよ! なぜ、そんな行動をとったのかっていうトリガーが」
「トリガー……きっかけってこと?」
奇跡的に丸子先輩と目が合い、僕のテンションは上がっていく。
「そうです! 今閃いたんですけど、ヘビは、アダムとイブを神さまから離したかっただけやないかな?」
「……は?」
「神さまの気持ちがアダムとイブに向いたから、嫉妬したんですよ、ヘビは! うん、そう考えたら、納得がいくかも」
「えーっと……?」
丸子先輩が困ったような顔で留佳を見た。
あれ? 変なコト言ったかな、僕。
丸子先輩に頷き返した留佳が、僕に椅子ごと向き直った。
「つまり……神さまとヘビができてた説やね!」
ガッターン!
丸子先輩が椅子からずり落ちた。その勢いで椅子が横倒しになる。
「丸子先輩!」
慌てて立ち上がったら、倒れた先輩の、スカートの裾がちょっと乱れているのが見えた。白いふくらはぎが眩しくて、慌てて座る。
なんとなく、見ちゃダメだ、と思ったのだ。
それにきっと僕が助けに行っても、丸子先輩は嬉しくないだろう。
僕が立ったり座ったりしている間に留佳が駆け寄り、先輩を助け起こした。
「ありがとう……あのね、留佳。そういうことを言ってほしかったんじゃなくてね」
「はあ、すみません」
丸子先輩が座り直し、乱れた髪の毛を手で押さえた。
勘違いされたままでは困るので、僕は慌てて言う。
「あのぅ、僕は神さまとヘビができてた、とまでは思ってなくてですね」
「うん、もう、わかった。アダムとイブはやめときましょう」
「「え?」」
僕と留佳の声が揃った。
「なんか、とてつもなく長い劇になりそうだから……」
疲れ切った感じの丸子先輩に、「わかりました」と僕と留佳が頷いたときだった。
「ちょっと待ったー!」
叫び声とともに、部室の戸が開いた。
あれ?スタートラインは天地創造じゃなかったっけ、と思って、聖書の先頭を開いてみた。
旧約聖書の創世記第一章第一節。
『はじめに神は天と地とを創造された。』
これはうーん……明らかに大道具さんが大変そう……。
「灰島くんはどう思う?」
相変わらず目を合わせないまま、丸子先輩が訊いてきた。
「アダムとイブって、有名なヘビの話ですよね。ヘビにそそのかされて、リンゴを食べるやつ」
「そうよ」
「気になることがあるんですけど」
「なに?」
「ヘビってどういう気持ちで、イブにリンゴを食べさせたんかなって……?」
「「はあ?!」」
素直な疑問を口に出しただけなのに、二人から大声が返ってきた。
「いや、だってヘビにしたらなんの得があるんですか、イブ……あ、エバって書いてる。えーっと、これは……?」
「表記がエバなだけで、イブでええのよ。ねぇ、得って、どういうこと?」
「だから、アダムとイブは神さまに食べちゃいけないって言われてたリンゴを食べて、エデンを追い出されたんですよね?」
「そうよ」
「で、そそのかしたヘビは激怒した神さまに、一生地面を這って、チリを食べて暮らして、更に人に頭を踏まれる設定にされた」
「設定……まぁ、そうね」
「単に意地悪ってキャラ設定なのかもしれないけど、神さまを怒らせたらどうなるか、なんてヘビにはわかってたはず。結果だけ見ると、ヘビはなんの得にもならないことをしたってことになりません?」
不承不承ながらも丸子先輩が頷いてくれたのを見て、僕は勢いづいた。
「ヘビの動機が不明なんですよ! なぜ、そんな行動をとったのかっていうトリガーが」
「トリガー……きっかけってこと?」
奇跡的に丸子先輩と目が合い、僕のテンションは上がっていく。
「そうです! 今閃いたんですけど、ヘビは、アダムとイブを神さまから離したかっただけやないかな?」
「……は?」
「神さまの気持ちがアダムとイブに向いたから、嫉妬したんですよ、ヘビは! うん、そう考えたら、納得がいくかも」
「えーっと……?」
丸子先輩が困ったような顔で留佳を見た。
あれ? 変なコト言ったかな、僕。
丸子先輩に頷き返した留佳が、僕に椅子ごと向き直った。
「つまり……神さまとヘビができてた説やね!」
ガッターン!
丸子先輩が椅子からずり落ちた。その勢いで椅子が横倒しになる。
「丸子先輩!」
慌てて立ち上がったら、倒れた先輩の、スカートの裾がちょっと乱れているのが見えた。白いふくらはぎが眩しくて、慌てて座る。
なんとなく、見ちゃダメだ、と思ったのだ。
それにきっと僕が助けに行っても、丸子先輩は嬉しくないだろう。
僕が立ったり座ったりしている間に留佳が駆け寄り、先輩を助け起こした。
「ありがとう……あのね、留佳。そういうことを言ってほしかったんじゃなくてね」
「はあ、すみません」
丸子先輩が座り直し、乱れた髪の毛を手で押さえた。
勘違いされたままでは困るので、僕は慌てて言う。
「あのぅ、僕は神さまとヘビができてた、とまでは思ってなくてですね」
「うん、もう、わかった。アダムとイブはやめときましょう」
「「え?」」
僕と留佳の声が揃った。
「なんか、とてつもなく長い劇になりそうだから……」
疲れ切った感じの丸子先輩に、「わかりました」と僕と留佳が頷いたときだった。
「ちょっと待ったー!」
叫び声とともに、部室の戸が開いた。