5月に向けて

文字数 1,234文字

 ゲームもサイト巡りもしないで、寝ずにこれまでの脚本を読み込み、脚本の書き方本も読む。
 おかげでほぼ、徹夜状態。
 当然ながら、礼拝は爆睡。家須だけじゃなく、反対隣の小島先生からも肘うちを食らった。
 どうやらかなり大揺れだったらしい。

 授業も誤魔化す余裕もないほど、最前列で机に伏せての大爆睡。
 担任の後藤先生の数学が4時間目にあったけど、先生に当てられても起きないという有様だった。
 そんな状態だったから、昼休みに後藤先生は僕を職員室に呼び出した。
「何かあったの? 大丈夫?」

 副担任の小島先生と反対に、細くて華奢な後藤先生は60代だけど永遠の少女、という雰囲気だ。
 後藤先生も小島先生も英宣の卒業生だそうで、後藤先生は在学中にお嬢様グループにいたんだろうな、と予想がつく。
 小島先生は……どうだろう。無関心グループかな?
 寝不足の頭でそんなことをぼんやり考えていたら、後藤先生が「本当にしんどかったら、保健室で寝ててもいいのよ?」と言ってくれた。

「あ、大丈夫です、すみません。ちょっと、夜更かしをしてしまっただけなので」
「そう。何か心配事があって眠れないとかじゃないのね?」
 少しホッとしたような顔をした後藤先生は、「何かあったらいつでも言ってね」と優しく微笑みかけた。
 ふわぁ、癒やされる……。

 実は僕は、この担任の先生を勝手に癒やしキャラ認定している。英宣には聖母マリア像はないけど、僕の中では後藤先生を聖母マリアとイメージが重なるのだ。
 後藤先生にあまり心配かけるのも申し訳ないし、午後からの授業は頑張って起きた。それでも時々、意識はなくなったけど。

 放課後、留佳と一緒に演劇部の部室に向かった。
 他の部員たちもいて、紹介されるのかな、と緊張していたけど、またもや丸子先輩だけだった。昨日と同じ赤いフレームの眼鏡をかけている。

「もしかして、演劇部って部員がおらん……?」
 すっかり緊張しないで話せるようになった留佳にこっそり訊ねると、「ええー、ちゃんとおるよぉ。部長さんは生徒会役員やから今の時期は忙しいんよ。他の部員はね、今日は休み。部員全員で話し合いすると、あれがしたい、これがしたいって混乱するから、何をやるかとかは裏方各部門のリーダーだけで決めるんよ」とでかい声で答えてくれた。
 いや、小声で訊いた意味ないし。
 案の定、部室の中央に置かれた大きくて横長い机のお誕生席に座った丸子先輩は、反対側のお誕生席に座らせた僕を睨んだ。怖い……。

「大道具担当の子が来る予定やけど、まだ来てへんわ。ホームルームが長引いてるんかも。――佳純先輩、私、見てきましょうか?」
 いや、キミが行ったら、この部室には僕と丸子先輩だけになるやんか!!
 そう思ったのは、丸子先輩も同じだったらしい。
「いい! いいから! 先に始めましょう!」
 丸子先輩は、立ち上がりかけた留佳を大声で制した。そりゃそうだよね……。
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