男子部。
文字数 1,423文字
「灰島。寝すぎだよ」
教室に戻る途中、隣に並んだ家須 浩司が言う。
「今日なんて、頭グラングラン揺れてるんだもんな。絶対、檀上の牧師先生にバレてるぞ」
家須は父親の母校である、大学までストレートのお坊ちゃま学校に初等科から入っていたのに、親の命令で英宣に入ることになってしまったとかで、入学式初日はひどく不機嫌だった。
ただ、元々通っていた学校がキリスト教系ということもあり、僕と比べて礼拝生活に完璧に馴染んでいるように思える。
聖書も讃美歌も、僕のと違って、使い込んでいい感じだし。
「それはそうと、灰島。なんかいいアイデア浮かんだ?」
家須が言っているのは、僕ら男子が作ろうとしている新しい部活のことだ。
高等部の学生は、どこかの部活に所属することになっている。当然、既存の部活は女子まみれ。
「英宣ってお嬢様が多いから、高校生活は花嫁候補をリストアップする期間と割り切るよ」
女子の選ぶ権利を無視した発言も、家須ならサマになる。
花嫁候補を選ぶべく、クラスメイトたちと連絡先を交換したりしていたのに、入学三日目、肉食獣の財前千穂に「アソコをギュッ!」とされてから態度が一変した。
「ここの生徒はヤバイ。男同士、自衛すべきだ!」と、3クラスに散っている男子を集めて熱く語った。
「だから、男子部を作ろう!」と。
部員5名と顧問1名がいれば、新しい部として申請できる。最初の一年は同好会扱いで、実績に応じて部に昇格できるらしい。
今年入った男子は6名。数少ない男性教諭である化学のおじいちゃん先生が「顧問を引き受けてもいい」と言ってくれているので、申請は大丈夫だ。
問題は、何の部にするか、ということだ。
「男子部って名前では通らへんよ、きっと」
僕の言葉に、家須は鼻を鳴らした。
「だからさ、男子バレーボール部でいいじゃん!」
僕は運動が、いや、運動「も」苦手だ。
「それは勘弁してってば……」
男子6人のうち、体育会系の部活にしたいのは、家須ともう1人だけ。
その1人だって、個人競技の弓道がいいと言うし、他の4人もしたいことがてんでバラバラ。
部を申請する以前の問題で、仮入部を済ませなければならない入学後2週間というタイムリミットが近づいてきているのだ。
「じゃあ、どうすんだよ。このままだと、女子まみれの部に入ることになるんだぜ。それでもいいのか? 灰島は、女なら誰でもOKのチャラ男とは違うと思ったのにな」
花嫁候補を物色しようとしていた自分を棚に上げ、家須は僕をなじる。
チャラ男というのは、A組の多田秀人のことだ。上に姉2人、下に妹2人がいるという多田は、入学初日には見事にクラスに馴染んでいた。
実は、多田は「せっかく元女子高に来たのに、なんで男子で固まらんとあかんの?」と男子部結成に反対派だ。
「とにかく、今日の放課後に男子部の話し合いするから。帰るなよ」
教室に入る前に、家須はそう釘を刺して、窓際の列の一番前の席へと歩いていった。
僕たちのやりとりが聞こえていたらしい。「男子部……」とあちこちの女子が囁いている。
これだけの人数が囁くと、もう普通の声以上に大きいんだけど、この声が好意的なものなのか、批判的なものなのか、さっぱりわからない。
1クラス38人。うち、女子36人。女子もいろいろなんだ、ということも、英宣に入って知ったことだった。
教室に戻る途中、隣に並んだ
「今日なんて、頭グラングラン揺れてるんだもんな。絶対、檀上の牧師先生にバレてるぞ」
家須は父親の母校である、大学までストレートのお坊ちゃま学校に初等科から入っていたのに、親の命令で英宣に入ることになってしまったとかで、入学式初日はひどく不機嫌だった。
ただ、元々通っていた学校がキリスト教系ということもあり、僕と比べて礼拝生活に完璧に馴染んでいるように思える。
聖書も讃美歌も、僕のと違って、使い込んでいい感じだし。
「それはそうと、灰島。なんかいいアイデア浮かんだ?」
家須が言っているのは、僕ら男子が作ろうとしている新しい部活のことだ。
高等部の学生は、どこかの部活に所属することになっている。当然、既存の部活は女子まみれ。
「英宣ってお嬢様が多いから、高校生活は花嫁候補をリストアップする期間と割り切るよ」
女子の選ぶ権利を無視した発言も、家須ならサマになる。
花嫁候補を選ぶべく、クラスメイトたちと連絡先を交換したりしていたのに、入学三日目、肉食獣の財前千穂に「アソコをギュッ!」とされてから態度が一変した。
「ここの生徒はヤバイ。男同士、自衛すべきだ!」と、3クラスに散っている男子を集めて熱く語った。
「だから、男子部を作ろう!」と。
部員5名と顧問1名がいれば、新しい部として申請できる。最初の一年は同好会扱いで、実績に応じて部に昇格できるらしい。
今年入った男子は6名。数少ない男性教諭である化学のおじいちゃん先生が「顧問を引き受けてもいい」と言ってくれているので、申請は大丈夫だ。
問題は、何の部にするか、ということだ。
「男子部って名前では通らへんよ、きっと」
僕の言葉に、家須は鼻を鳴らした。
「だからさ、男子バレーボール部でいいじゃん!」
僕は運動が、いや、運動「も」苦手だ。
「それは勘弁してってば……」
男子6人のうち、体育会系の部活にしたいのは、家須ともう1人だけ。
その1人だって、個人競技の弓道がいいと言うし、他の4人もしたいことがてんでバラバラ。
部を申請する以前の問題で、仮入部を済ませなければならない入学後2週間というタイムリミットが近づいてきているのだ。
「じゃあ、どうすんだよ。このままだと、女子まみれの部に入ることになるんだぜ。それでもいいのか? 灰島は、女なら誰でもOKのチャラ男とは違うと思ったのにな」
花嫁候補を物色しようとしていた自分を棚に上げ、家須は僕をなじる。
チャラ男というのは、A組の多田秀人のことだ。上に姉2人、下に妹2人がいるという多田は、入学初日には見事にクラスに馴染んでいた。
実は、多田は「せっかく元女子高に来たのに、なんで男子で固まらんとあかんの?」と男子部結成に反対派だ。
「とにかく、今日の放課後に男子部の話し合いするから。帰るなよ」
教室に入る前に、家須はそう釘を刺して、窓際の列の一番前の席へと歩いていった。
僕たちのやりとりが聞こえていたらしい。「男子部……」とあちこちの女子が囁いている。
これだけの人数が囁くと、もう普通の声以上に大きいんだけど、この声が好意的なものなのか、批判的なものなのか、さっぱりわからない。
1クラス38人。うち、女子36人。女子もいろいろなんだ、ということも、英宣に入って知ったことだった。