山吹色のお饅頭?
文字数 4,003文字
気持ちの良い朝だ。
早朝に小雨が降ったせいか、ジメジメした湿気が無い。
空気も雨で洗われて、くっきりとした青空だ。
時折聞こえる小鳥の囀(さえず)りが、耳に心地よい。
学校へ向かいながら、僕は平和を噛みしめていた。
いつもの通学路も、今日は新鮮に感じる。
穏やかな時間が、こんなにも貴重だとは今まで思いもしなかった。
昨日の出来事で、疲弊していた神経が癒されていく。
このまま何事も無く一日が終わればいい――が、黒塗りのベンツが僕の横を通り過ぎるのを見て、嫌な予感がした。
後部座席に座っていたのは、佐藤?
佐藤の隣に恰幅の良いお年寄りか座っている。
見事なまでのハゲ頭が、キラッと光った。
極道のドン?
いやいや、それはない。
しかし車の窓越しにも貫禄のある人だった。
遠ざかるベンツを見つつ、また何かが起こるが気がして、げんなりとした。
「おはよー、仁。辛気臭い顔しているわね」
あ、戌亥だ。
今日は普通に通学か。
制服姿もピシッと決まっているし、眼に力がある。
思っていたよりも元気そうだな。
「おはよー。戌亥はいつも通りに見えるけど、大丈夫か?」
何気なく言った一言に、戌亥が犬のように噛みついてきた。
「聞いて、あれから大変だったんだから! 家に帰ったら、頭にたんこぶを作った叔父さんがいて……」
がぁーっと不平不満をぶちまける。
戌亥には悪いんだけど、僕より小柄な戌亥が騒いでいる様は、子犬がじゃれ付いてくるように感じた。
よく動く表情に、身体全体を使った大きな身振り。
頭の両脇でまとめた髪が揺れているのは、犬の耳が動いているみたいだし。
「本当、信じられない! 学校まで来て何やってるのと言ったら、産土神へ崇敬(すうけい)の念を集める活動だって答えて、あぁ、もう理解できない!」
それに聞くに堪えない罵詈雑言が続いて、戌亥は口を閉じた。
はぁはぁと肩で息をしている。
うん、これなら大丈夫。
「幸い、私が水筒をぶつけたことには気づいていないみたいだから、黙っておいたわ。バレると何を言われるか分からないし……」
戌亥は悪の道に入ったようだ。
とはいえ、あの神主に弱味を見せると嵩(かさ)に懸かってくるだろうしな。
ぶっ飛んだ身内を持って充分苦労しているんだから、戌亥を責めるのは酷だろう。
生きていくためには、秘密を持つことも大事――ということにしておこう。
「分かった、分かった。落ち着け、これをやるから」
僕はポケットから飴玉を取り出すと、戌亥に渡した。
「くれるんなら、もらっておくけど。なんで飴なんて持ってるの?」
「ああ、それなんだけど……」
言い終わらないうちに、戌亥は飴玉の包みを剥くと口に飴を放り込んだ。
「しょっぱい!」
そりゃ、塩飴だからな。
「もう、何これ」
熱中症対策で、塩分補給用に持っていたものだ。
夏場だし。
汗をかきすぎると危ないからね。
備えはしておかないと。
「変な物を食べさせないでよ」
悪い。
でも、話を聞かずに食べたのは戌亥だからね。
それから学校に向かいつつ、僕は戌亥をなだめることになった。
戌亥はぷうと膨れたが、本気で怒っているわけではないことは分かる。
付き合いが長いからな。
だから、唐突に戌亥が真面目な顔になっても驚かなかった。
「昨日は、ありがとね」
「ああ、気にするな。戌亥には世話になっているから」
お互い無言になる。
慣れない沈黙が続くが、悪い気はしない。
昨日は目まぐるしかったからな。
たまには、こういう時間があっても、いいじゃないか。
僕が黙っていると、なぜか戌亥がもじもじし始めた。
心なしか、戌亥の大きな瞳に不安の色が見える。
「もしかすると叔父さんのことで、これから一杯迷惑をかけることになるかもしれないけど、そのときはごめんね」
そんなことを気にしていたのか。
自分のせいじゃないのに、戌亥も大変だ。
僕の答えは決まっている。
「おう、まかせとけ。巻き込まれるのは、慣れっこだ」
とんでも神主が何をするか分からないけど――僕達は僕達だ。
これ以上、学校生活を壊されてなるものか。
「僕で良ければ力になるよ」
「ふふ、頼りにしてるわ」
隣を見ると、戌亥がほっとしたような顔をしている。
「じゃ、これからもよろしく!」
背中をバシッと叩かれた。
痛い。
だが、いつもの戌亥だ。
「じゃあね」
照れくさいのか、戌亥はそのまま学校の方に走って行った。
やれやれ、これで一安心だ。
僕も戌亥に遅れて学校に着く。
おや?
正門をくぐって直ぐに、違和感を感じた。
なぜか周囲の様子がおかしい。
登校している生徒達がヒソヒソと話している。
昇降口から校舎に入って廊下を歩いていると、職員室の方をチラチラと見ている者が何人もいた。
僕も釣られて職員室の入り口を見てしまう。
何だ?
また良くないことが起こったのか。
いや多分、これから起こるんだろうな――と思っていたら、職員室の扉が開いて大河内先生が出てきた。
「おはようござい……」
挨拶をしようとした僕の口が、途中で止まった。
大河内先生に続いて、もう一人出てきたが、なぜかお坊さんだったからだ。
そうお坊さんだ。
黒い着物に山吹色の袈裟、手には黒光りする念珠。
身長は、ヒグマのような大河内先生より少し上だ。
年齢は六十から七十歳といったところか。
皺の刻まれた丸顔、ギョロッとした目には仁王様のような目力があり、ぶっとい眉毛がそれを強調している。
髪の毛が一本も無い頭を見て、佐藤と一緒に車に乗っていた人だと気付いた。
これからお葬式にでも行くのだろうか?
いや、ここは学校だ。
何だろう、この人を見ていると全身に緊張が走る。
がっしりとした体格は服越しにも分かるし、周囲に気合というか気迫のようなものを振り撒いているからだ。
見た目の存在感で、あの大河内先生が完全に負けている。
呆然としている僕を残して、大河内先生と謎のお坊さんは、職員室の隣にある応接室へと入って行った。
何なんだ。
大河内先生はヤクザの親分のような見た目だが、さっきの人からは虎やライオンを前にしたようなプレッシャーをビンビン感じる。
と言うより、野生の猛獣を素手で倒してしまいそうだ。
それぐらいの迫力がある。
心なしか、大河内先生も額に汗をかいていたし。
関わり合いになっちゃいけない人がまた一人、学校に来たというわけか。
恐らく関係者である佐藤を探して事情を聞こう。
僕が佐藤の姿を探していると、応接室から大河内先生の焦った声が聞こえた。
「何、考えているんですか。こんな物、受け取れるはずがないでしょう!」
気になって応接室の前まで来ると、老僧の落ち着いた声が扉越しに聞こえる。
「受け取ってもらえませんか」
決して大きくないのに、よく通る声だ。
読経で鍛えているんだな。
「当たり前です!」
余裕がないのか、大河内先生は大音量だ。
「どうやら誠意が足りないようですな」
何かをドカッとテーブルに置いたような音がする。
「私は、そんな物が欲しいんじゃない!」
大河内先生はほとんど絶叫しているが、対する老僧に変化は感じられない。
「まだ足りませんか」
ドカッ、ドカッ。
え、もしかして。
心なしかお金の気配がする。
時代劇だと、越後屋がお代官様に山吹色のお饅頭を渡していたりするんだろうが、ひょっとすると、扉の向こう側ではそんなことが行われているのか?
「……いい加減にしろ!」
大河内先生、今、心が揺れましたね。
声が震えてましたよ。
それから包み紙と思しき物を破る音が聞こえ、部屋は静かになった。
買収されちゃった?
どうしよう、とんでもない現場に居合わせたかもしれない。
心臓がどきどきしているのが自分でも分かる。
に、逃げた方がいいよな……。
「それでは、今日のところはこのへんで」
うわ、出てくる。
慌てて僕が扉から離れると、中から怪僧が出てきた。
平然とした顔で、のしのしと歩いていく。
一瞬目が合いそうになったが、慌てて逸らした。
人間を陥れる妖怪変化の類に思えたからだ。
ああ、雰囲気に呑まれてるな。
今の僕は挙動不審だが、幸い、何も無かった。
妖怪のような老僧が歩く度に、廊下を歩いている人間がサッと道を開ける。
そこにいた生徒も教師も目に見えない力に押されているようだ。
マリアが授業で言っていたモーセみたい。
確か、モーセの前で海が割れたんだか? 神の奇跡によって。
対する老僧は自力で人の群れを割ったわけだ。
しかし目の前の光景はなんか禍々しい。
まさに歩く怪異現象。
台風のような僧侶が視界から完全に消えるのを確認して、僕は息を吐いた。
あら、応接室の扉が閉まりきっていない。
隙間から中の様子を覗くと、ぐったりした大河内先生が椅子の上で伸びていた。
大河内先生の前に置かれたテーブルの上には、白いレンガのような物がドン! と並び、異様な存在感を放っている。
レンガの側には、包装紙だったと思われる、破れた紙が散乱していた。
もしかして札束?
あの大きさだと何千万もあるんじゃ……。
ゴクリと唾を飲み込んで目を凝らすと、レンガの上に『銘菓どら屋』と書かれたラベルが貼られているのに気が付いた。
疑惑の物体の正体は――白い羊羹(ようかん)でした。
あ、あれ。
だが間違いない。
……なーんだ。
一気に体から力が抜けた。
ははは、はぁ。
えーい、紛らわしいこと、してんじゃねぇ!
早朝に小雨が降ったせいか、ジメジメした湿気が無い。
空気も雨で洗われて、くっきりとした青空だ。
時折聞こえる小鳥の囀(さえず)りが、耳に心地よい。
学校へ向かいながら、僕は平和を噛みしめていた。
いつもの通学路も、今日は新鮮に感じる。
穏やかな時間が、こんなにも貴重だとは今まで思いもしなかった。
昨日の出来事で、疲弊していた神経が癒されていく。
このまま何事も無く一日が終わればいい――が、黒塗りのベンツが僕の横を通り過ぎるのを見て、嫌な予感がした。
後部座席に座っていたのは、佐藤?
佐藤の隣に恰幅の良いお年寄りか座っている。
見事なまでのハゲ頭が、キラッと光った。
極道のドン?
いやいや、それはない。
しかし車の窓越しにも貫禄のある人だった。
遠ざかるベンツを見つつ、また何かが起こるが気がして、げんなりとした。
「おはよー、仁。辛気臭い顔しているわね」
あ、戌亥だ。
今日は普通に通学か。
制服姿もピシッと決まっているし、眼に力がある。
思っていたよりも元気そうだな。
「おはよー。戌亥はいつも通りに見えるけど、大丈夫か?」
何気なく言った一言に、戌亥が犬のように噛みついてきた。
「聞いて、あれから大変だったんだから! 家に帰ったら、頭にたんこぶを作った叔父さんがいて……」
がぁーっと不平不満をぶちまける。
戌亥には悪いんだけど、僕より小柄な戌亥が騒いでいる様は、子犬がじゃれ付いてくるように感じた。
よく動く表情に、身体全体を使った大きな身振り。
頭の両脇でまとめた髪が揺れているのは、犬の耳が動いているみたいだし。
「本当、信じられない! 学校まで来て何やってるのと言ったら、産土神へ崇敬(すうけい)の念を集める活動だって答えて、あぁ、もう理解できない!」
それに聞くに堪えない罵詈雑言が続いて、戌亥は口を閉じた。
はぁはぁと肩で息をしている。
うん、これなら大丈夫。
「幸い、私が水筒をぶつけたことには気づいていないみたいだから、黙っておいたわ。バレると何を言われるか分からないし……」
戌亥は悪の道に入ったようだ。
とはいえ、あの神主に弱味を見せると嵩(かさ)に懸かってくるだろうしな。
ぶっ飛んだ身内を持って充分苦労しているんだから、戌亥を責めるのは酷だろう。
生きていくためには、秘密を持つことも大事――ということにしておこう。
「分かった、分かった。落ち着け、これをやるから」
僕はポケットから飴玉を取り出すと、戌亥に渡した。
「くれるんなら、もらっておくけど。なんで飴なんて持ってるの?」
「ああ、それなんだけど……」
言い終わらないうちに、戌亥は飴玉の包みを剥くと口に飴を放り込んだ。
「しょっぱい!」
そりゃ、塩飴だからな。
「もう、何これ」
熱中症対策で、塩分補給用に持っていたものだ。
夏場だし。
汗をかきすぎると危ないからね。
備えはしておかないと。
「変な物を食べさせないでよ」
悪い。
でも、話を聞かずに食べたのは戌亥だからね。
それから学校に向かいつつ、僕は戌亥をなだめることになった。
戌亥はぷうと膨れたが、本気で怒っているわけではないことは分かる。
付き合いが長いからな。
だから、唐突に戌亥が真面目な顔になっても驚かなかった。
「昨日は、ありがとね」
「ああ、気にするな。戌亥には世話になっているから」
お互い無言になる。
慣れない沈黙が続くが、悪い気はしない。
昨日は目まぐるしかったからな。
たまには、こういう時間があっても、いいじゃないか。
僕が黙っていると、なぜか戌亥がもじもじし始めた。
心なしか、戌亥の大きな瞳に不安の色が見える。
「もしかすると叔父さんのことで、これから一杯迷惑をかけることになるかもしれないけど、そのときはごめんね」
そんなことを気にしていたのか。
自分のせいじゃないのに、戌亥も大変だ。
僕の答えは決まっている。
「おう、まかせとけ。巻き込まれるのは、慣れっこだ」
とんでも神主が何をするか分からないけど――僕達は僕達だ。
これ以上、学校生活を壊されてなるものか。
「僕で良ければ力になるよ」
「ふふ、頼りにしてるわ」
隣を見ると、戌亥がほっとしたような顔をしている。
「じゃ、これからもよろしく!」
背中をバシッと叩かれた。
痛い。
だが、いつもの戌亥だ。
「じゃあね」
照れくさいのか、戌亥はそのまま学校の方に走って行った。
やれやれ、これで一安心だ。
僕も戌亥に遅れて学校に着く。
おや?
正門をくぐって直ぐに、違和感を感じた。
なぜか周囲の様子がおかしい。
登校している生徒達がヒソヒソと話している。
昇降口から校舎に入って廊下を歩いていると、職員室の方をチラチラと見ている者が何人もいた。
僕も釣られて職員室の入り口を見てしまう。
何だ?
また良くないことが起こったのか。
いや多分、これから起こるんだろうな――と思っていたら、職員室の扉が開いて大河内先生が出てきた。
「おはようござい……」
挨拶をしようとした僕の口が、途中で止まった。
大河内先生に続いて、もう一人出てきたが、なぜかお坊さんだったからだ。
そうお坊さんだ。
黒い着物に山吹色の袈裟、手には黒光りする念珠。
身長は、ヒグマのような大河内先生より少し上だ。
年齢は六十から七十歳といったところか。
皺の刻まれた丸顔、ギョロッとした目には仁王様のような目力があり、ぶっとい眉毛がそれを強調している。
髪の毛が一本も無い頭を見て、佐藤と一緒に車に乗っていた人だと気付いた。
これからお葬式にでも行くのだろうか?
いや、ここは学校だ。
何だろう、この人を見ていると全身に緊張が走る。
がっしりとした体格は服越しにも分かるし、周囲に気合というか気迫のようなものを振り撒いているからだ。
見た目の存在感で、あの大河内先生が完全に負けている。
呆然としている僕を残して、大河内先生と謎のお坊さんは、職員室の隣にある応接室へと入って行った。
何なんだ。
大河内先生はヤクザの親分のような見た目だが、さっきの人からは虎やライオンを前にしたようなプレッシャーをビンビン感じる。
と言うより、野生の猛獣を素手で倒してしまいそうだ。
それぐらいの迫力がある。
心なしか、大河内先生も額に汗をかいていたし。
関わり合いになっちゃいけない人がまた一人、学校に来たというわけか。
恐らく関係者である佐藤を探して事情を聞こう。
僕が佐藤の姿を探していると、応接室から大河内先生の焦った声が聞こえた。
「何、考えているんですか。こんな物、受け取れるはずがないでしょう!」
気になって応接室の前まで来ると、老僧の落ち着いた声が扉越しに聞こえる。
「受け取ってもらえませんか」
決して大きくないのに、よく通る声だ。
読経で鍛えているんだな。
「当たり前です!」
余裕がないのか、大河内先生は大音量だ。
「どうやら誠意が足りないようですな」
何かをドカッとテーブルに置いたような音がする。
「私は、そんな物が欲しいんじゃない!」
大河内先生はほとんど絶叫しているが、対する老僧に変化は感じられない。
「まだ足りませんか」
ドカッ、ドカッ。
え、もしかして。
心なしかお金の気配がする。
時代劇だと、越後屋がお代官様に山吹色のお饅頭を渡していたりするんだろうが、ひょっとすると、扉の向こう側ではそんなことが行われているのか?
「……いい加減にしろ!」
大河内先生、今、心が揺れましたね。
声が震えてましたよ。
それから包み紙と思しき物を破る音が聞こえ、部屋は静かになった。
買収されちゃった?
どうしよう、とんでもない現場に居合わせたかもしれない。
心臓がどきどきしているのが自分でも分かる。
に、逃げた方がいいよな……。
「それでは、今日のところはこのへんで」
うわ、出てくる。
慌てて僕が扉から離れると、中から怪僧が出てきた。
平然とした顔で、のしのしと歩いていく。
一瞬目が合いそうになったが、慌てて逸らした。
人間を陥れる妖怪変化の類に思えたからだ。
ああ、雰囲気に呑まれてるな。
今の僕は挙動不審だが、幸い、何も無かった。
妖怪のような老僧が歩く度に、廊下を歩いている人間がサッと道を開ける。
そこにいた生徒も教師も目に見えない力に押されているようだ。
マリアが授業で言っていたモーセみたい。
確か、モーセの前で海が割れたんだか? 神の奇跡によって。
対する老僧は自力で人の群れを割ったわけだ。
しかし目の前の光景はなんか禍々しい。
まさに歩く怪異現象。
台風のような僧侶が視界から完全に消えるのを確認して、僕は息を吐いた。
あら、応接室の扉が閉まりきっていない。
隙間から中の様子を覗くと、ぐったりした大河内先生が椅子の上で伸びていた。
大河内先生の前に置かれたテーブルの上には、白いレンガのような物がドン! と並び、異様な存在感を放っている。
レンガの側には、包装紙だったと思われる、破れた紙が散乱していた。
もしかして札束?
あの大きさだと何千万もあるんじゃ……。
ゴクリと唾を飲み込んで目を凝らすと、レンガの上に『銘菓どら屋』と書かれたラベルが貼られているのに気が付いた。
疑惑の物体の正体は――白い羊羹(ようかん)でした。
あ、あれ。
だが間違いない。
……なーんだ。
一気に体から力が抜けた。
ははは、はぁ。
えーい、紛らわしいこと、してんじゃねぇ!