七十七 心
文字数 2,127文字
スライム親子とななさんが、何をどう弁解しても、鼻水はない。と強硬に主張して来て、町中一は、なんだか、寂しくなった。
「主様。これは分かるんだわん。鼻水とか出ちゃう時ってあるんだわん」
「だよなだよな」
町中一は、唇を尖らせて言いながら、柴犬の頭を、わしゃわしゃする。
「あんたん。もう鼻水の話はいらないのよぉん。そんなお馬鹿な話の事より、うがちゃんをどうするのよぉん?」
「くっ。ななさんの当たりが強い」
町中一は、思わず、そんな言葉を口にしてから、画面の中のうがちゃんの顔を見つめた。
「すぐに助けに行って、あのふざけた両親を、魔物達の餌にでもしちゃえば良いんだ」
スラ恵が、露骨に怒りを露わにする。
「そうね。何かしらの酷い目にあってもらった方が、良いとは、思うわ」
お母さんスライムも、口調こそ、普段と変わらなかったが、その顔には、怒っている事が容易に感じ取れる、表情が浮かんでいた。
「これは、うがちゃんが領主の所まで行くのを待った方が、良いと思うんだわん。それで領主とあの両親が揃ったところで、一緒に、やっつけてしまえば良いんだわん」
柴犬が、言い終えてから、とても悪そうな顔をする。
「一緒にやっつけるか。そうだな。確かに、それは、気持ち良さそうだが」
「だったら魔法を使って、今すぐに領主をうがちゃんの家の方に呼んじゃえば良いじゃない。それで早くうがちゃんを助けてあげてよ」
「そうね。それで、一刻も早くやっつけて、うがちゃんをここに戻してあげて」
スライム親子が、先程とは打って変わって、今度は、とてもうがちゃんの事を、気遣っているような表情を見せた。
「そうだな。じゃあ、領主とやらには恨みはないが、ここはうがちゃんの為に」
「うが。悪いんだが今すぐに一緒に領主様の所へ行ってくれないか? もたもたしてると、この場所にも借金取りが来てしまうかも知れない。すぐにでもお金が欲しいんだ」
「お父しゃん。お母しゃん。すぐに行くうが」
「うが。本当に良い子ね」
「お母しゃん。お母しゃんが、こんなふうにうがの事を抱き締めてくれたのは初めてうが。うがはとても嬉しいうが。お父しゃんとお母しゃんの為に、お金をもらううが」
町中一は、画面の中から聞こえて来た、両親とうがちゃんとの会話を聞いて、言葉を途中で切って、魔法を使うのをやめた。
「あんたん? どうしたのよぉん? 急に黙っちゃってぇん」
「うがちゃんを、このまま行かせよう」
「何言ってんの? お馬鹿なの?」
スラ恵が冷たく言い放つ。
「一しゃん。どうしたの? 何か気になる事でもあるの?」
お母さんスライムが、優しく聞いて来た。
「うがちゃんの、心を、気持ちを、大切にしてやりたい。ここで、魔法を使って、領主をやっつけたら、うがちゃんの親を思う気持ちが、無駄になっちまう。取り敢えず、うがちゃんが領主の所へ行って、お金が支払われてから、どう退治するか考えよう」
「ちょっと。そんな事言ってて、うがちゃんに何かあったらどうするの?」
「一しゃんの気持ちも分かるけど、スラ恵の言う通りだと思うわ。何かあってからじゃ、うがちゃんがかわいそうだわ」
「大丈夫だわん。ここでこうやってリアルタイムで見守ってるんだわん。何かあっても、すぐに主様の魔法で、対応できるんだわん」
「柴犬。本当にそんなふうに、この男が対応できると思う? だって、この男、お馬鹿よ?」
スラ恵が、至極冷たい視線を、町中一に向けて来る。
「おおーい。言い過ぎ。お馬鹿お馬鹿言い過ぎ」
町中一は、思わずむきになって、大きな声を、上げてしまった。
「言い過ぎじゃないじゃない。だって、本当にお馬鹿じゃない。すぐにアヘアへするし」
「アヘアへって。お前、適当な事言うな。俺がいつアへったて言うんだよ。それに、今は、そういう話をしているんじゃなくってだな」
「いっつも、あのおっぱい妖精とイチャイチャして、アへアへしてるじゃない」
「二人とも。うがちゃん達が家を出るわ」
「もういい。アヘアへの話はやめだ。うがちゃんに集中しよう」
町中一は、スラ恵の方に向けていた顔を、画面の方に向け、うがちゃんの姿を見つめる。
「うがちゃんは、ツイてないんだわん。両親の住んでる家が、移動してて、この家の近くにあったなんてわん。そんな事になってなければ、こんな事にはなってないんだわん」
「本当よ。あの子ったら。かわいそうに。きっとあんなふうにしてるけど、傷付いてるはず」
町中一は、家を出て、森の中を歩き出した、うがちゃんと両親の姿から、視線を外した。
「あの子は、傷付いてるかも知れないけど、それでも、今、幸せなんじゃないかな」
町中一は、なんともやるせない気持ちになったので、その気持ちを吐露するように、言葉をこぼす。
「そうね。あのうがちゃんの顔は、幸せを感じてるような顔だわ」
「そうなると。どうしたもんかな。あの両親に酷い事ができくなっちまう」
「そんなの、簡単じゃない。うがちゃんが見てない所でやっちゃえば良い。スラ恵は許す気ないから。うがちゃんが、そんなふうに、喜んでるなら、尚更じゃない。絶対に許せない」
スラ恵が、凍り付いているような、冷え切った、鋭い目で、画面の中にいる、うがちゃんの両親を見た。
「主様。これは分かるんだわん。鼻水とか出ちゃう時ってあるんだわん」
「だよなだよな」
町中一は、唇を尖らせて言いながら、柴犬の頭を、わしゃわしゃする。
「あんたん。もう鼻水の話はいらないのよぉん。そんなお馬鹿な話の事より、うがちゃんをどうするのよぉん?」
「くっ。ななさんの当たりが強い」
町中一は、思わず、そんな言葉を口にしてから、画面の中のうがちゃんの顔を見つめた。
「すぐに助けに行って、あのふざけた両親を、魔物達の餌にでもしちゃえば良いんだ」
スラ恵が、露骨に怒りを露わにする。
「そうね。何かしらの酷い目にあってもらった方が、良いとは、思うわ」
お母さんスライムも、口調こそ、普段と変わらなかったが、その顔には、怒っている事が容易に感じ取れる、表情が浮かんでいた。
「これは、うがちゃんが領主の所まで行くのを待った方が、良いと思うんだわん。それで領主とあの両親が揃ったところで、一緒に、やっつけてしまえば良いんだわん」
柴犬が、言い終えてから、とても悪そうな顔をする。
「一緒にやっつけるか。そうだな。確かに、それは、気持ち良さそうだが」
「だったら魔法を使って、今すぐに領主をうがちゃんの家の方に呼んじゃえば良いじゃない。それで早くうがちゃんを助けてあげてよ」
「そうね。それで、一刻も早くやっつけて、うがちゃんをここに戻してあげて」
スライム親子が、先程とは打って変わって、今度は、とてもうがちゃんの事を、気遣っているような表情を見せた。
「そうだな。じゃあ、領主とやらには恨みはないが、ここはうがちゃんの為に」
「うが。悪いんだが今すぐに一緒に領主様の所へ行ってくれないか? もたもたしてると、この場所にも借金取りが来てしまうかも知れない。すぐにでもお金が欲しいんだ」
「お父しゃん。お母しゃん。すぐに行くうが」
「うが。本当に良い子ね」
「お母しゃん。お母しゃんが、こんなふうにうがの事を抱き締めてくれたのは初めてうが。うがはとても嬉しいうが。お父しゃんとお母しゃんの為に、お金をもらううが」
町中一は、画面の中から聞こえて来た、両親とうがちゃんとの会話を聞いて、言葉を途中で切って、魔法を使うのをやめた。
「あんたん? どうしたのよぉん? 急に黙っちゃってぇん」
「うがちゃんを、このまま行かせよう」
「何言ってんの? お馬鹿なの?」
スラ恵が冷たく言い放つ。
「一しゃん。どうしたの? 何か気になる事でもあるの?」
お母さんスライムが、優しく聞いて来た。
「うがちゃんの、心を、気持ちを、大切にしてやりたい。ここで、魔法を使って、領主をやっつけたら、うがちゃんの親を思う気持ちが、無駄になっちまう。取り敢えず、うがちゃんが領主の所へ行って、お金が支払われてから、どう退治するか考えよう」
「ちょっと。そんな事言ってて、うがちゃんに何かあったらどうするの?」
「一しゃんの気持ちも分かるけど、スラ恵の言う通りだと思うわ。何かあってからじゃ、うがちゃんがかわいそうだわ」
「大丈夫だわん。ここでこうやってリアルタイムで見守ってるんだわん。何かあっても、すぐに主様の魔法で、対応できるんだわん」
「柴犬。本当にそんなふうに、この男が対応できると思う? だって、この男、お馬鹿よ?」
スラ恵が、至極冷たい視線を、町中一に向けて来る。
「おおーい。言い過ぎ。お馬鹿お馬鹿言い過ぎ」
町中一は、思わずむきになって、大きな声を、上げてしまった。
「言い過ぎじゃないじゃない。だって、本当にお馬鹿じゃない。すぐにアヘアへするし」
「アヘアへって。お前、適当な事言うな。俺がいつアへったて言うんだよ。それに、今は、そういう話をしているんじゃなくってだな」
「いっつも、あのおっぱい妖精とイチャイチャして、アへアへしてるじゃない」
「二人とも。うがちゃん達が家を出るわ」
「もういい。アヘアへの話はやめだ。うがちゃんに集中しよう」
町中一は、スラ恵の方に向けていた顔を、画面の方に向け、うがちゃんの姿を見つめる。
「うがちゃんは、ツイてないんだわん。両親の住んでる家が、移動してて、この家の近くにあったなんてわん。そんな事になってなければ、こんな事にはなってないんだわん」
「本当よ。あの子ったら。かわいそうに。きっとあんなふうにしてるけど、傷付いてるはず」
町中一は、家を出て、森の中を歩き出した、うがちゃんと両親の姿から、視線を外した。
「あの子は、傷付いてるかも知れないけど、それでも、今、幸せなんじゃないかな」
町中一は、なんともやるせない気持ちになったので、その気持ちを吐露するように、言葉をこぼす。
「そうね。あのうがちゃんの顔は、幸せを感じてるような顔だわ」
「そうなると。どうしたもんかな。あの両親に酷い事ができくなっちまう」
「そんなの、簡単じゃない。うがちゃんが見てない所でやっちゃえば良い。スラ恵は許す気ないから。うがちゃんが、そんなふうに、喜んでるなら、尚更じゃない。絶対に許せない」
スラ恵が、凍り付いているような、冷え切った、鋭い目で、画面の中にいる、うがちゃんの両親を見た。