五十四 駄ラケット吠える
文字数 2,331文字
町中一は、柴犬の顔を見つめると、ああ。きっと、柴犬は、今、褒めて欲しいんだな。うーむ。まったく。あの顔。あの尻尾の動き。実に実に、かわいい奴め。と思い、柴犬を呼んだ。
「なんだわん?」
柴犬が、町中一になど興味がないというような感じで、返事をしてから、涼しい表情を装って、町中一の傍に来たが、尻尾は先ほどよりも激しく、ブンブンと唸るほどに振られていて、呼吸もハッハッハッと激しくなっていて、もう、早く、褒めてーと、柴犬の意志とは裏腹に、体は正直に、アピールしまくってしまっていた。
「おー。良し良し良し。かわいいかわいい」
「やめろわん。そんな事されたくないんだわん。これは、全然嬉しくなんかないんだからわんね」
柴犬がツンデレ特有の決め台詞らしき物を言いつつ、これまた、そんな言葉とは裏腹に、町中一とじゃれ始める。
「ちぇー? なんか~? チーちゃん~? 最近~? 影薄い~?」
町中一の頭の上に座っているチーちゃんが、酷くギャルっぽいような話し方で言った。
「ちょっと。そんな事より書く練習は?」
スラ恵が至極不安そうな声を上げる。
「そうよぉん。そうよぉん。練習よぉん。あたくしだって、鉛筆を持ちたいわぁん」
「え? ななさん、書くの? そんな事言っていたっけ?」
「あんたん。酷いじゃないぃん。何よぉん。この流れなのよぉん。言おうが言わまいが、やるに決まってるじゃないぃん」
ななさんが、プリプリプリリと怒っているかのように、ラケットの体を左右に激しく振った。
「じゃあ、ななさんは、どっかその辺で適当にやっていて。俺と柴犬は、スラ恵とお母さんスライムとうがちゃんを教えるから」
「何よぉん。なんでそんな態度なのよぉん」
「だって。ななさん、絶対に俺の事ネタにする気なんだもん」
ななさんには、俺の過去の、特に思春期の、あれやこれやをすべて知られているからな。と思い、町中一は、冷酷ともいえるような目をななさんに向ける。
「そんな事しないわぁん」
「嘘だね。だって、ななさん、他にネタになりそうな物なんて、持ってないからな」
「もう、主様。そんな駄ラケットは相手にしなくて良いんだわん。もっと、これを、撫で、おあ、わしゃしゃって、あ、ちが、あ、あれだわん。これは、まずは、早くうがちゃんの鉛筆を、変えてあげた方が良いと思うんだわん」
柴犬が、ななさんに話しかけられた事で止まってしまっていた、町中一の手を、物欲しそうな目付きで見つめながら言った。
「そうだ。そうだった。じゃあ先にそっちを」
町中一は、柴犬の頭をそっと優しく数回撫で撫でしてから、うっとりとした目付きになってしまっている柴犬から離れ、うがちゃんの傍に行って、魔法を使う。
「どうだ? これで、持てそうか?」
「うん、うが。一しゃんありがとううが。柴犬さん。こうで、良いうが?」
うがちゃんが、太く長くなった鉛筆を、かわいい熊さんお手手両手で、挟むようにして持った。
「そうだわん。どうわん? 書けそうわん?」
柴犬が町中一の足元に来たので、町中一は、柴犬を抱き上げて、机に向かう、うがちゃんの姿を見えるようにする。
「きゃはあ。だ、駄目なんだわん。抱っこなんて、なんか、恥ずかしいんだわん」
柴犬が、とっても嬉しそうな、とってもかわいい笑顔になっているような顔になりつつ、身を捩りながら声を上げた。
「本当にそうか? かわいい奴め。体は嫌がってはいないようだぞ? げへげへげへげへ」
町中一は、ちょっとノリノリになって、おかしな芝居を始めてしまう。
「むぅ~? なんか~? チーちゃんは~? 面白くない~?」
町中一の頭の上に座っていたチーちゃんが、ブオンッと羽音を鳴らして、町中一の顔の前に飛んで来て、頬を膨らませ、怒ったような顔をして、町中一を睨んだ。
「チーちゃん。俺の事より、うがちゃんだ。チーちゃんもうがちゃんを手伝ってやってくれ」
「手伝う~?」
「うん。うがちゃんが困っていたら、助けてあげて欲しい。チーちゃんとうがちゃんは仲良しだからな」
「分かった~? ちぇー? でも~? 子供騙し的な~? 発言~?」
「え? チーちゃん? 今、なんて?」
「なんでもない~?」
チーちゃんが、うがちゃんの机の上に舞い降りると、うがちゃんに、チーちゃん~? 手伝う~? と声をかけた。
「ちょっとぉん。あたくしはぁん?」
「ななさん。まだ、いたんだ?」
「何よぉん。そんな、しどぃん。あたくし、あたくし、家出してやるわぁん」
ななさんが、部屋のドアの所まで、素早く飛んで行って、ドアの所で止まった。
「ななさん?」
「なんですぐに止めないのよぉん」
「ななさん。分かったよ。俺が悪かった。じゃあ、ななさんの為に、自動筆記マシンでも、出しちゃおっか?」
「ちょっとぉん。何よそれぇん? そんなのあるんだったら、最初から出しなさいよぉん」
ななさんが、素早く戻って来ると、町中一の口の辺りに、打面を押し付ける。
「ななさん? 何をやっているの?」
「喜びのキッスよぉん」
「うげぇ。キッスって。ラバーの味がしたんだけど」
町中一は、なんだか、悲しくって切なくって不快な気分になって、そう言った。
「何よぉん。ラバーの味ってぇん。もっと、何か、気の利いた事を言いなさいよぉん」
「そんな事より。自動筆記マシン。出してみるから」
町中一は、音声入力式の、ななさんでも扱える、自動筆記マシンって、唱えれば、なんとかなるかな? と、思いつつ、小さな声で、魔法の言葉を唱えてみる。
「何よぉん。これぇぇっぇっぇぇん」
ななさんが、突然、悲鳴のような声を上げた。
「なんだわん?」
柴犬が、町中一になど興味がないというような感じで、返事をしてから、涼しい表情を装って、町中一の傍に来たが、尻尾は先ほどよりも激しく、ブンブンと唸るほどに振られていて、呼吸もハッハッハッと激しくなっていて、もう、早く、褒めてーと、柴犬の意志とは裏腹に、体は正直に、アピールしまくってしまっていた。
「おー。良し良し良し。かわいいかわいい」
「やめろわん。そんな事されたくないんだわん。これは、全然嬉しくなんかないんだからわんね」
柴犬がツンデレ特有の決め台詞らしき物を言いつつ、これまた、そんな言葉とは裏腹に、町中一とじゃれ始める。
「ちぇー? なんか~? チーちゃん~? 最近~? 影薄い~?」
町中一の頭の上に座っているチーちゃんが、酷くギャルっぽいような話し方で言った。
「ちょっと。そんな事より書く練習は?」
スラ恵が至極不安そうな声を上げる。
「そうよぉん。そうよぉん。練習よぉん。あたくしだって、鉛筆を持ちたいわぁん」
「え? ななさん、書くの? そんな事言っていたっけ?」
「あんたん。酷いじゃないぃん。何よぉん。この流れなのよぉん。言おうが言わまいが、やるに決まってるじゃないぃん」
ななさんが、プリプリプリリと怒っているかのように、ラケットの体を左右に激しく振った。
「じゃあ、ななさんは、どっかその辺で適当にやっていて。俺と柴犬は、スラ恵とお母さんスライムとうがちゃんを教えるから」
「何よぉん。なんでそんな態度なのよぉん」
「だって。ななさん、絶対に俺の事ネタにする気なんだもん」
ななさんには、俺の過去の、特に思春期の、あれやこれやをすべて知られているからな。と思い、町中一は、冷酷ともいえるような目をななさんに向ける。
「そんな事しないわぁん」
「嘘だね。だって、ななさん、他にネタになりそうな物なんて、持ってないからな」
「もう、主様。そんな駄ラケットは相手にしなくて良いんだわん。もっと、これを、撫で、おあ、わしゃしゃって、あ、ちが、あ、あれだわん。これは、まずは、早くうがちゃんの鉛筆を、変えてあげた方が良いと思うんだわん」
柴犬が、ななさんに話しかけられた事で止まってしまっていた、町中一の手を、物欲しそうな目付きで見つめながら言った。
「そうだ。そうだった。じゃあ先にそっちを」
町中一は、柴犬の頭をそっと優しく数回撫で撫でしてから、うっとりとした目付きになってしまっている柴犬から離れ、うがちゃんの傍に行って、魔法を使う。
「どうだ? これで、持てそうか?」
「うん、うが。一しゃんありがとううが。柴犬さん。こうで、良いうが?」
うがちゃんが、太く長くなった鉛筆を、かわいい熊さんお手手両手で、挟むようにして持った。
「そうだわん。どうわん? 書けそうわん?」
柴犬が町中一の足元に来たので、町中一は、柴犬を抱き上げて、机に向かう、うがちゃんの姿を見えるようにする。
「きゃはあ。だ、駄目なんだわん。抱っこなんて、なんか、恥ずかしいんだわん」
柴犬が、とっても嬉しそうな、とってもかわいい笑顔になっているような顔になりつつ、身を捩りながら声を上げた。
「本当にそうか? かわいい奴め。体は嫌がってはいないようだぞ? げへげへげへげへ」
町中一は、ちょっとノリノリになって、おかしな芝居を始めてしまう。
「むぅ~? なんか~? チーちゃんは~? 面白くない~?」
町中一の頭の上に座っていたチーちゃんが、ブオンッと羽音を鳴らして、町中一の顔の前に飛んで来て、頬を膨らませ、怒ったような顔をして、町中一を睨んだ。
「チーちゃん。俺の事より、うがちゃんだ。チーちゃんもうがちゃんを手伝ってやってくれ」
「手伝う~?」
「うん。うがちゃんが困っていたら、助けてあげて欲しい。チーちゃんとうがちゃんは仲良しだからな」
「分かった~? ちぇー? でも~? 子供騙し的な~? 発言~?」
「え? チーちゃん? 今、なんて?」
「なんでもない~?」
チーちゃんが、うがちゃんの机の上に舞い降りると、うがちゃんに、チーちゃん~? 手伝う~? と声をかけた。
「ちょっとぉん。あたくしはぁん?」
「ななさん。まだ、いたんだ?」
「何よぉん。そんな、しどぃん。あたくし、あたくし、家出してやるわぁん」
ななさんが、部屋のドアの所まで、素早く飛んで行って、ドアの所で止まった。
「ななさん?」
「なんですぐに止めないのよぉん」
「ななさん。分かったよ。俺が悪かった。じゃあ、ななさんの為に、自動筆記マシンでも、出しちゃおっか?」
「ちょっとぉん。何よそれぇん? そんなのあるんだったら、最初から出しなさいよぉん」
ななさんが、素早く戻って来ると、町中一の口の辺りに、打面を押し付ける。
「ななさん? 何をやっているの?」
「喜びのキッスよぉん」
「うげぇ。キッスって。ラバーの味がしたんだけど」
町中一は、なんだか、悲しくって切なくって不快な気分になって、そう言った。
「何よぉん。ラバーの味ってぇん。もっと、何か、気の利いた事を言いなさいよぉん」
「そんな事より。自動筆記マシン。出してみるから」
町中一は、音声入力式の、ななさんでも扱える、自動筆記マシンって、唱えれば、なんとかなるかな? と、思いつつ、小さな声で、魔法の言葉を唱えてみる。
「何よぉん。これぇぇっぇっぇぇん」
ななさんが、突然、悲鳴のような声を上げた。