五十六 練習
文字数 2,620文字
うがちゃんが、とても、気持ちの良さそうな顔をすると、上目遣いに町中一の目を見つめて来て、それから、ほわわわわ~んと、とっても幸せそうな笑みを顔に浮かべた。
「今度は、あっちに手出してる」
「わえ達もやっちゃう?」
「うがちゃん。それじゃ、この一番上の、この、端っこの文字から、書いてみようか。うがちゃんは、こういう、物を書く道具を使うのは初めてだと思うから、焦ったり、上手にできない事で、自分を責めたりしなくって良いんだ。必ずできるようになるから、じっくりと、ゆっくりと、自分のペースでやって行くんだよ」
町中一は咳払いを一つして、スライム親子を牽制してから、うがちゃんに向かって優しく言う。
「一しゃん優しいうが」
うがちゃんが、今度は、うっとりとしたような顔になって、町中一の目を見つめた。
「むぅぅ~? チーちゃんも書く~?」
「そうだな。うがちゃんの手伝いをお願いしたとはいえ、チーちゃんも一緒にやった方が良いもんな。うがちゃん。これからチーちゃんの面倒を見るけど、何か困った事があったら、すぐに言ってな」
「はい、うが」
うがちゃんが元気良く返事をして、両方の熊さんお手手で、挟むようにして持った、鉛筆を動かし始めた。
「鉛筆は~?」
「そっか。チーちゃん用の鉛筆がなかったか」
町中一は、魔法を使って、チーちゃん用の小さな鉛筆を出したが、その小ささを見て、この鉛筆で、書いた文字って、凄く読み難いんじゃないのか? と思った。
「うん。これは、やっぱり、小さいな。今の俺だったら読めるけど、昔の、前世の俺だったら、老眼で読めなかっただろうな。でも、これは、どうしよっか。今は良いとしても、チーちゃんが、小説を書いたとして、このままだと、読み難いもんな」
町中一は、うがちゃんが見ている手本の紙を、うがちゃんと一緒に見ながら、うがちゃんの書き取り用の紙の端っこに、一生懸命に文字を書いているチーちゃんを見つめつつ、独り言ちる。
「小説が書けたら、魔法で、文字を大きくすれば良いと思うんだわん」
柴犬が、町中一の傍に来て、町中一の片方の足に、両前足をトントンと乗せて、体を上げてから、町中一の顔に、自分の顔を近付けるようにして言った。
「それだな。そうするか」
柴犬の顔に目線を送り、柴犬の頭を一撫でして、柴犬の気持ちの良さそうな顔を見て、うんうん。かわいい。と思ってから、町中一は、チーちゃんの書いている文字の方に目線を戻す。
「でも、あれか。俺がいつも傍にいられれば良いけど、俺がいない時に、書いた小説を皆で読もうとかってなったら、ちょっと大変か。それに、毎回毎回、チーちゃんが何かを書く度に、文字を大きくするっていうのも、なんというか、効率が悪いか」
町中一は、チーちゃんの書いた文字が増えて、何やらごちゃごちゃとして来ているのを見ると、自身の顎の辺りに、片方の手を当てた。
「それなら、チーちゃんを大きくしたら?」
スラ恵が、言ったので、町中一は、スラ恵の方に目を向けてから、スラ恵とお母さんスライムの書いている文字を見てみようと、二人の机の方に近付く。
「スラ恵。それは良いアイディアかも。お。二人とも、器用だな。綺麗に書けているじゃないか」
「ふん。当たり前じゃない。指先が器用じゃないと、良いエッチはできないでしょ」
「スラ恵の言う通りだわ。これは、指先の訓練にも良さそうね」
お母さんスライムが、スラ恵の言葉を聞いて、何か思うところがあったのか、とても、妖しい目をスラ恵の方に向けてそう言った。
「はいはい。エッチは、自室に帰ってからにしてくれ。ここは今は神聖な学び舎になっているからな。勉強中はエッチな事は、会話を含めて全部禁止な」
「ちょっと。段々、禁止事項が増えてるじゃない。そんなのやり過ぎだと思うけど」
「ふーん。自室ならやり放題って事で良いのかしら?」
お母さんスライムが、何やら含みのありそうな目を、町中一に向けて来る。
「部屋の方は、防音とかを魔法でちゃんとしとく。あんまり我慢させても悪いからな。それで、手を打ってくれ」
「スラ恵。勉強が終わったら、思い切りエッチができるわよ」
「もう。お母さんがそう言うんだったらそれで良いけど。一しゃん。この仕返しは絶対するからね」
「仕返しって。そりゃどう考えても逆恨みだぞ」
「チーちゃんは~? 小さい字は~?」
「おお。そうだったそうだった。でも、どうするかな」
町中一は、柴犬の方に、チラ、チラっとわざとらしく、視線を、柴犬が気が付くまで送ってみた。
「主様ったらわん。まったく困ったもんなんだわん。折角、これが言った意見に納得してくれなくってわん。それなのに、そんなふうに、また、これを頼ってわん。主様は、本当に、これがいないと駄目なんだわんね。もう。本当にしょうがない主様なんだわん」
柴犬が、全身で喜びを表現しつつ、懸命に、冷たい態度を装いながらそう言う。
「柴犬。お前の言う通りだ。それと、さっきの柴犬の案を否定するつもりはないんだぞ。良かったとは思う。けど、俺としては、スラ恵のアイディアも良さそうだなと思う。柴犬はどう思う?」
「そのアイディアはこれも考えてたんだわん。けど、ちょっとした危険性を孕んでると思ったんだわん。だから敢えて言ってなかったんだわん」
「危険性?」
「そうだなんだわん。主様。ちょっと耳を貸すんだわん」
「なんだ? あんまり人前では言えないような事なのか?」
「取り敢えず、そう言う事にしておくんだわん」
「分かった。じゃあ、抱っこするぞ」
「はわはわはわはわわん。そっとなんだわん。こんなふうに抱っこされると、それだけで、漏れちゃうんだわん」
「なんだよそれ。なんだか、かわいいけど、色々、大変そうだな。抱っこはしない方が良いか?」
「して。絶対にして。今して。すぐして」
柴犬が物凄く勢い良く早口に言う。
「え? 柴犬、語尾?」
「何を言ってるんだわん? ちゃんと、わんって語尾を付けてたわん」
「いや、今の明らかに」
「明らかになんだわん?」
柴犬が、何を訴えかけているかのような、ウルルとした目を、町中一に向けて来た。
「いや、なんか、ごめん。じゃあ、抱っこするからな」
語尾、わざとだったのか? キャラ付けか? それとも、なんか別の意味があるのか? 後で、もう一回聞いてみようかな? でも、今の雰囲気だと、もう、この事には、触れない方が良いのかな? と町中一は思いながら、柴犬を抱き上げた。
「今度は、あっちに手出してる」
「わえ達もやっちゃう?」
「うがちゃん。それじゃ、この一番上の、この、端っこの文字から、書いてみようか。うがちゃんは、こういう、物を書く道具を使うのは初めてだと思うから、焦ったり、上手にできない事で、自分を責めたりしなくって良いんだ。必ずできるようになるから、じっくりと、ゆっくりと、自分のペースでやって行くんだよ」
町中一は咳払いを一つして、スライム親子を牽制してから、うがちゃんに向かって優しく言う。
「一しゃん優しいうが」
うがちゃんが、今度は、うっとりとしたような顔になって、町中一の目を見つめた。
「むぅぅ~? チーちゃんも書く~?」
「そうだな。うがちゃんの手伝いをお願いしたとはいえ、チーちゃんも一緒にやった方が良いもんな。うがちゃん。これからチーちゃんの面倒を見るけど、何か困った事があったら、すぐに言ってな」
「はい、うが」
うがちゃんが元気良く返事をして、両方の熊さんお手手で、挟むようにして持った、鉛筆を動かし始めた。
「鉛筆は~?」
「そっか。チーちゃん用の鉛筆がなかったか」
町中一は、魔法を使って、チーちゃん用の小さな鉛筆を出したが、その小ささを見て、この鉛筆で、書いた文字って、凄く読み難いんじゃないのか? と思った。
「うん。これは、やっぱり、小さいな。今の俺だったら読めるけど、昔の、前世の俺だったら、老眼で読めなかっただろうな。でも、これは、どうしよっか。今は良いとしても、チーちゃんが、小説を書いたとして、このままだと、読み難いもんな」
町中一は、うがちゃんが見ている手本の紙を、うがちゃんと一緒に見ながら、うがちゃんの書き取り用の紙の端っこに、一生懸命に文字を書いているチーちゃんを見つめつつ、独り言ちる。
「小説が書けたら、魔法で、文字を大きくすれば良いと思うんだわん」
柴犬が、町中一の傍に来て、町中一の片方の足に、両前足をトントンと乗せて、体を上げてから、町中一の顔に、自分の顔を近付けるようにして言った。
「それだな。そうするか」
柴犬の顔に目線を送り、柴犬の頭を一撫でして、柴犬の気持ちの良さそうな顔を見て、うんうん。かわいい。と思ってから、町中一は、チーちゃんの書いている文字の方に目線を戻す。
「でも、あれか。俺がいつも傍にいられれば良いけど、俺がいない時に、書いた小説を皆で読もうとかってなったら、ちょっと大変か。それに、毎回毎回、チーちゃんが何かを書く度に、文字を大きくするっていうのも、なんというか、効率が悪いか」
町中一は、チーちゃんの書いた文字が増えて、何やらごちゃごちゃとして来ているのを見ると、自身の顎の辺りに、片方の手を当てた。
「それなら、チーちゃんを大きくしたら?」
スラ恵が、言ったので、町中一は、スラ恵の方に目を向けてから、スラ恵とお母さんスライムの書いている文字を見てみようと、二人の机の方に近付く。
「スラ恵。それは良いアイディアかも。お。二人とも、器用だな。綺麗に書けているじゃないか」
「ふん。当たり前じゃない。指先が器用じゃないと、良いエッチはできないでしょ」
「スラ恵の言う通りだわ。これは、指先の訓練にも良さそうね」
お母さんスライムが、スラ恵の言葉を聞いて、何か思うところがあったのか、とても、妖しい目をスラ恵の方に向けてそう言った。
「はいはい。エッチは、自室に帰ってからにしてくれ。ここは今は神聖な学び舎になっているからな。勉強中はエッチな事は、会話を含めて全部禁止な」
「ちょっと。段々、禁止事項が増えてるじゃない。そんなのやり過ぎだと思うけど」
「ふーん。自室ならやり放題って事で良いのかしら?」
お母さんスライムが、何やら含みのありそうな目を、町中一に向けて来る。
「部屋の方は、防音とかを魔法でちゃんとしとく。あんまり我慢させても悪いからな。それで、手を打ってくれ」
「スラ恵。勉強が終わったら、思い切りエッチができるわよ」
「もう。お母さんがそう言うんだったらそれで良いけど。一しゃん。この仕返しは絶対するからね」
「仕返しって。そりゃどう考えても逆恨みだぞ」
「チーちゃんは~? 小さい字は~?」
「おお。そうだったそうだった。でも、どうするかな」
町中一は、柴犬の方に、チラ、チラっとわざとらしく、視線を、柴犬が気が付くまで送ってみた。
「主様ったらわん。まったく困ったもんなんだわん。折角、これが言った意見に納得してくれなくってわん。それなのに、そんなふうに、また、これを頼ってわん。主様は、本当に、これがいないと駄目なんだわんね。もう。本当にしょうがない主様なんだわん」
柴犬が、全身で喜びを表現しつつ、懸命に、冷たい態度を装いながらそう言う。
「柴犬。お前の言う通りだ。それと、さっきの柴犬の案を否定するつもりはないんだぞ。良かったとは思う。けど、俺としては、スラ恵のアイディアも良さそうだなと思う。柴犬はどう思う?」
「そのアイディアはこれも考えてたんだわん。けど、ちょっとした危険性を孕んでると思ったんだわん。だから敢えて言ってなかったんだわん」
「危険性?」
「そうだなんだわん。主様。ちょっと耳を貸すんだわん」
「なんだ? あんまり人前では言えないような事なのか?」
「取り敢えず、そう言う事にしておくんだわん」
「分かった。じゃあ、抱っこするぞ」
「はわはわはわはわわん。そっとなんだわん。こんなふうに抱っこされると、それだけで、漏れちゃうんだわん」
「なんだよそれ。なんだか、かわいいけど、色々、大変そうだな。抱っこはしない方が良いか?」
「して。絶対にして。今して。すぐして」
柴犬が物凄く勢い良く早口に言う。
「え? 柴犬、語尾?」
「何を言ってるんだわん? ちゃんと、わんって語尾を付けてたわん」
「いや、今の明らかに」
「明らかになんだわん?」
柴犬が、何を訴えかけているかのような、ウルルとした目を、町中一に向けて来た。
「いや、なんか、ごめん。じゃあ、抱っこするからな」
語尾、わざとだったのか? キャラ付けか? それとも、なんか別の意味があるのか? 後で、もう一回聞いてみようかな? でも、今の雰囲気だと、もう、この事には、触れない方が良いのかな? と町中一は思いながら、柴犬を抱き上げた。