ユダの場合
文字数 1,205文字
それでも救いはあるものです。ある日、資産家が莫大な献金を携えてやってきました。私は内心で手を叩いて喜んでいました。本当のところ、エルサレム入城してからこちら、何かと物入りで少し財布が苦しかったのです。
でもあの献金があれば、かなり凌ぐことができます。先生に新しい着物を買ってあげることもできますし、少しは上等の食事をとることもできます。私はお金を必要としていました。
そこにみすぼらしいやもめがやって来ました。彼女は取るに足らない額を握り締めていました。薄汚れた着物はあちこちほころびていましたし、髪もボサボサ、顔の血色も悪く酷く貧しい暮らしをしていることが分かりました。
いくら困っていても、あれ程貧しい者から献金など受け取ることはできません。どうしても献げたいというのなら、受け取ったことにして返すから、パンか果物でも買いなさい、と言うべきだと思いました。
ところが信じられないことに先生は、真っ先にやもめの元にいき献げ物を受け取りました。そして祝福されたのです。
放ったらかしにされた資産家は面白くないでしょう。何しろやもめの献金はたった銅貨二枚。それに対して資産家の手にした袋は丸々膨らんでいたのですから。
先生は薄汚れた二枚の銅貨をかざし、会衆に向かって言われました。
「この貧しいやもめは、誰よりもたくさん献げたのだ。金持達は皆、有り余る中から献金している。しかしこの人は生活費の全部をここに持ってきた。乏しい中から、持っているものを全て献げようとした。価値がある、このやもめは最も多くを献げた人だ」
私は気が遠くなりました。感激でむせび泣くやもめの横を、資産家が金銀の詰まった袋を持ったまま通り過ぎて行ったからです。手に入ったであろう献金が、あっけなく消えていったのです。
あの男の無神経で浅はかで独り善がりで、恰好つけのどうしようもない説教のお陰で、です。
私は直感的に「あの資産家はいい」と思ったのです。うまく取り入れば、エルサレムでのスポンサーになってくれるかもしれないと。けれど、もはや全てが無になりました。ご立派な説教をして、悦に入っているあの男の横顔を睨みつけました。
あなたの自己満足に振りまわされるのはもうまっぴらだ。いったいこれからどうしろと言うのだと、叫び出したい心境でした。
私は本当に金策に疲れ果てていたのです。
あの男は何も分かっていない。博愛を気取っているが、こんな身近にいる、しかも自分の為に最も働いた弟子の心の声にすら気づかない。ずっと神のお子様だと信じてきたけれど、それも分からなくなってきました。
本当のところ何者なのでしょう。私はこのまま従っていていいのでしょうか。
私の心は不安と疑いでいっぱいになっていきました。悲しかったのは、あの人が私の思いに全く気づいてくれなかったことです。気づかないどころか、踏みにじったことです。
でもあの献金があれば、かなり凌ぐことができます。先生に新しい着物を買ってあげることもできますし、少しは上等の食事をとることもできます。私はお金を必要としていました。
そこにみすぼらしいやもめがやって来ました。彼女は取るに足らない額を握り締めていました。薄汚れた着物はあちこちほころびていましたし、髪もボサボサ、顔の血色も悪く酷く貧しい暮らしをしていることが分かりました。
いくら困っていても、あれ程貧しい者から献金など受け取ることはできません。どうしても献げたいというのなら、受け取ったことにして返すから、パンか果物でも買いなさい、と言うべきだと思いました。
ところが信じられないことに先生は、真っ先にやもめの元にいき献げ物を受け取りました。そして祝福されたのです。
放ったらかしにされた資産家は面白くないでしょう。何しろやもめの献金はたった銅貨二枚。それに対して資産家の手にした袋は丸々膨らんでいたのですから。
先生は薄汚れた二枚の銅貨をかざし、会衆に向かって言われました。
「この貧しいやもめは、誰よりもたくさん献げたのだ。金持達は皆、有り余る中から献金している。しかしこの人は生活費の全部をここに持ってきた。乏しい中から、持っているものを全て献げようとした。価値がある、このやもめは最も多くを献げた人だ」
私は気が遠くなりました。感激でむせび泣くやもめの横を、資産家が金銀の詰まった袋を持ったまま通り過ぎて行ったからです。手に入ったであろう献金が、あっけなく消えていったのです。
あの男の無神経で浅はかで独り善がりで、恰好つけのどうしようもない説教のお陰で、です。
私は直感的に「あの資産家はいい」と思ったのです。うまく取り入れば、エルサレムでのスポンサーになってくれるかもしれないと。けれど、もはや全てが無になりました。ご立派な説教をして、悦に入っているあの男の横顔を睨みつけました。
あなたの自己満足に振りまわされるのはもうまっぴらだ。いったいこれからどうしろと言うのだと、叫び出したい心境でした。
私は本当に金策に疲れ果てていたのです。
あの男は何も分かっていない。博愛を気取っているが、こんな身近にいる、しかも自分の為に最も働いた弟子の心の声にすら気づかない。ずっと神のお子様だと信じてきたけれど、それも分からなくなってきました。
本当のところ何者なのでしょう。私はこのまま従っていていいのでしょうか。
私の心は不安と疑いでいっぱいになっていきました。悲しかったのは、あの人が私の思いに全く気づいてくれなかったことです。気づかないどころか、踏みにじったことです。