ペトロの場合

文字数 476文字

 俺は裏切り者だ。大事な大事なかけがえの無いお方を裏切ってしまった。
 先生、ごめんなさい。先生、俺は一体どうしたらいいですか。俺はもう自分を打ち滅ぼしてしまいたいです。
 初めて会った時、あなたはこの俺に「ペトロ(岩)」とあだ名をつけてくれました。弟のアンデレが笑ったよ。「兄さんが『岩』だなんて」ってな。俺はあいつの頭を小突いたけれど、内心では同じことを思っていた。
 魚を捕ることしか能の無い俺が「岩」だなんて。でも先生はまるで俺の心を見透かすように言った。
 「シモン、お前はいつか岩のような人になるんだよ」
 優しい眼差しだった。おやじよりもお袋よりも、温かくて大きくて、本当に涙が出ちまうくらいに、それは特別な眼差しだったんだ。
 先生、ごめんよ。俺は先生の期待を裏切ってしまった。敵の手に落ちていくあなたの姿を、震えながら眺めるだけで精一杯だった。きっともの凄くがっかりなさったのだろう。先生、俺だって自分で自分が情けないです。
 どうぞ俺を罰して下さい。俺を罰して下さい。
 先生、今あなたはどこでどうしていますか。先生、どこですか。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み