その1 桃から生まれた

文字数 1,385文字

今日のひとふり:
「あかちゃんが/おにがしまで/さかなを/たすけました」


 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがありました。
 おばあさんが川へ洗濯に行くと(おじいさんは省略)、大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
 おばあさんがその桃を、家へ持って帰ると、
 桃はひとりでに割れて、中から、ぽん、と、素敵なあかちゃんが出てきました。

 おばあさんがびっくりしている間に、あかちゃんは元気よくはいはいして、
 家のしきいを、じょうずにまたいで、
 冒険に出かけました。

 そして、鬼ヶ島に着きました。(はや!)
 鬼ヶ島に着いたのですが、鬼が、ひとりもいません。
 みんな、漁に出ていたのです。

「おーい、おーい」

 鬼たちは、びっくりぎょうてん。
 だって、あかちゃんが、にこにこしながら、
 海の上をはいはいしてくるのです。

 はいはいしてくるあかちゃんのまわりを、銀や、金や、珊瑚や真珠色のさかなたちが、これもまたびっくりして、みんな口をまあるくぽかんと開けて、たくさんたくさんくっついて泳いでくるのでした。

 鬼たちは、あんまりびっくりしてしまったので、漁をやめました。
 そして、浜辺にもどってたき火をして、おいしい焼きおむすびをたくさん作りました。ごはんも釜炊きで、おむすびをあぶるのも炭火の直火焼きだからおいしいのです。
 みんなで、おいしいおいしいと食べました。
 あかちゃんも、下の歯が二本はえてきていて、もうおむすびがひとりで食べられたので、おいしいおいしいと食べました。ほんとに素敵なあかちゃんです。
 鬼たちは、さかなたちにも、焼きおむすびをちぎってあげました。さかなたちも大喜びでした。さかなたちは焼きおむすびなんて、初体験だったのでした。
 お味噌の、ちょっと焦げたところがおいしい、という点で、鬼たちとあかちゃんとさかなたちの意見は一致しました。

 鬼たちは、心の中で、
(さかなにも味噌を塗って焼くと、うまいんだけどなあ)
と思ったのですが、素敵なあかちゃんの手前、それはとても口に出せませんでした。

 あかちゃんは、おみやげに焼きおむすびをたくさん持って、おうちに帰りました。
 帰りもはいはいしていこうとしたら、さかなたちがスクラムを組んで背中に乗せてくれたので、帰りはとっても楽ちんでした。
 海から川をさかのぼって、お家のすぐそばまでつれていってくれたのです。すごいね。

 さかなたちの背中から降りて、バイバイして、お家の、薄暗い土間に、いばってはいはいしながら入っていったら、おばあさんとおじいさんが、とてもびっくりしました。
 とくにおじいさんは、お昼寝から起きてきたばかりだったので、すごくびっくりしました。
 鬼たちがおみやげにくれたおむすびは、ちゃんとおじいさんおばあさん用に、塩分ひかえめのお味噌を塗ってありました。

「とっても楽しかったよ」と、あかちゃんは言いました。

 そうして、親子三人で、おいしいおいしいと焼きおむすびを食べて、

 それから、割れたまま台所のまな板の上でほったらかされていてちょっと乾きかけていた桃を、デザートに食べました。まだ、じゅうぶん、甘くておいしかったです。

 おしまい。

 え、このあかちゃん、男の子か女の子か、どっち、ですって?
 どっちでもよくないですか?
 さかなたちも、男の子でも女の子でも、どっちでもいいですしね。^^

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