その8 めがねをかけた猫

文字数 1,162文字

今日のひとふり:
「ねこが/いえで/てんぐを/たべました」


 ひとりの男が死んで、むすこが三人、残されました。
 上の兄は家を、中の兄は馬をもらいましたが、末の弟は、ねこを一匹もらっただけでした。

 え、これ、

お話でしょ? って、
 まあ、最後までお聞きください。

 ねこなんてつまらない、と、末の弟は思いました。
 すると、きゅうに、ねこが後ろ足で立ち上がって、口をききました。
「わたしだってお役に立ってみせますよ、ご主人さま。
 どうかわたしに、素敵な、一対の――」

 ほら、やっぱり

お話でしょ? って、
 まあそう言わずに、最後までお聞きください。

「どうかわたしに、素敵な、一対の、めがねを作ってくださいませんか」

「おまえ、目が悪かったんだ?」弟は驚いて、たずねました。
「悪くないですよ」
「じゃ、なんでめがねが必要なの?」

「なんとなく」

 末の弟は、財布をはたいて、ねこに素敵なめがねを作ってやりました。
 意味わからない、と首をひねりながら。

 めがねをかけたら、ねこは、いきなり、ひじょうに素敵なねこになりました。
 そして、殿さまに気に入られ、お姫さまにも気に入られ、
 なんかこのあたりいろいろあった気もしますけど、ちょっと記憶がわやわやなので、とばします。

 めがねをかけたねこは、単身、天狗の館に乗りこんでいきます。
 そして、天狗と、知恵くらべをします。
「天狗さま、あなたさまは、どんな大きなものにも化けることができるんですってね」
 おだてられた天狗は気をよくして、獅子に化け、がおーと吼えました。

「うわあ、怖い、怖い」ねこの演技は完璧です。
「でも、まあ、あれですよね、大きいものに化けるのって意外に簡単なんですよねー」

 天狗は、かちんときました。
「たわけ。小さいものにだって化けられるわ」
 そして、うっかりねずみに化け、ねこにぱくりと食べられてしまいました。

 ねこは前足で口をぬぐって、ひげをととのえ、めがねをかけなおして、意気ようようとご主人さまである末の弟を迎えに行きました。
 殿さまはすっかりだまされて、その館を末の弟のものだと思いこみました。
 お姫さまはどうかと言うと、末の弟にもう夢中だったので、誰の館だとかそういう細かいことは、このさいどうでもいいわと思いました。

 末の弟は、話の展開の速さにびっくりしましたが、
 いままで苦労してきただけあって、思いこみのはげしい人たちには逆らわないほうがいいということをしっかり心得ていましたので、喜んでお姫さまと結婚しました。

 そこで、ねこはめがねをはずして、ふつうのねこにもどりました。

 ……

 すごい。
 どこまで行けるだろうと思ってどきどきしながら書いてきたんですけど、
 なんと最後まで、ぜんぜん破綻しませんでした。
 つまり、このお話、べつに長靴である必要はなかったんですね!

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