その13 森のくまさん ★ちょ怖注意

文字数 424文字

今日のひとふり:
「おばけが/みちで/おんなのこを/おいかけました」


 私がまだ若かったときの話です。
 暗い、雨の日でした。傘をさして信号待ちをしていたら、ふいに、声がしました。
「お逃げなさい」

 見ると、隣に人が立っています。

 傘に隠れて顔は見えません。男の人だとはわかるのですが、知らない人です。

 私は走りました。
 走って、走って、次の交差点まで来て、信号が赤だったので、立ち止まりました。息をはずませながら、これくらい逃げれば大丈夫かな、と思った瞬間です。
 首の後ろで、声がしました。

「追いついちゃった」

 その後の記憶がありません。
 まちがいなく私は悲鳴をあげたのだろうし、さらに走って逃げたのだろうし、だからいまこうして無事にここにいるわけですが、

 もしもあのとき「落とし物」と言って、白い貝殻の小さなイヤリングか何かを差し出されたとして、
「あらありがとう。お礼に歌いましょう」
とは、とても言えなかったです。

 これは、最初から最後まで、実話です。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み