その7 不死の薬
文字数 2,129文字
今日のひとふり:
「おとこのこが/いえで/おひめさまを/おいかけました」
いまはむかし、ひとりのおじいさんがありました。器用な人で、野山に入っては竹を取って、いろいろな物を作りました。家や、犬小屋、それにベビーカーなどです。
でも、せっかくベビーカーを作っても、あかちゃんがいませんでしたので、おじいさんはおばあさんと二人で、あかちゃんがいたらいいのになあとなげきました。
ある日、おじいさんは、根もとが光っている竹を見つけました。そうっと切ってみると、中に、とってもかわいいあかちゃんが入っていました。
おじいさんとおばあさんは喜んで、竹を切って作ったぐいのみで乾杯しました。そして、そのあかちゃんを竹のベビーカーに入れて、大切に育てました。あかちゃんは、女の子でした。
その後はしばらく、とくに変わったことはありませんでした。竹の中から小判が出るとかは。
おじいさんが作った竹のいろんなグッズがそこそこ売れて、いい感じにお金がもうかっただけです。それだけでも、じゅうぶん奇跡じゃないでしょうか。
とくに、おじいさんは、すのこやテレビ台などの家具を作るのが得意でしたので、女の子は、家具屋 ひめと名づけられました。
うそです。
かぐや姫はすくすく育って、それはそれは美しい子になりました。
顔かたちはかぎりなく清らかで、家のすみずみまで、光が満ちました。
こんなに素敵なかぐや姫でしたのに、男運が悪くて、へんな男が五人も言い寄ってきました。
かぐや姫は、困って、
「いいお友だちでいましょうね」
と言ったのですが、のぼせあがった男たちには通じませんでした。
かぐや姫は困りはててしまって、男たちにそれぞれ難しいクイズを出しました。せめて彼らがクイズを解いているあいだ、時間をかせごうと思ったのです。
地上でのタイムリミットが、せまっていました。
そんなこととはつゆ知らず、帝が、かぐや姫に興味を持ちました。
この帝は、まだ少年でした。
竹の家に住んでいる、美人で面白い女の子がいると聞いて、帝は、ぜひとも、彼女とお友だちになりたいと思いました。
「宮中へ遊びにいらっしゃい」と使いを出したのですが、返事をくれません。
そこで、帝は、自分から遊びに行くことにしました。
宮廷も竹取のお家も大騒ぎになってしまいましたが、帝は平気で、ずんずん入って行き、かぐや姫の白くて小さな手をとりました。
その瞬間、かぐや姫は、消えてしまいました。
帝はびっくりしました。いまのいままで、姫は目の前に座っていたのです。
あわてて見まわすと、数歩はなれたところに、すっと姫のすがたが現れました。
帝が駆け寄ると、また、姫は消えました。
このあたりは、この「だれがどすた」バージョンです。
どんなに追いかけても、姫はいつも、ほんの少し先にいて、どうしても手がとどきません。
帝はとうとう、息が切れてしまいました。
腰を下ろすと、目の前に、すっとかぐや姫が現れました。
ぽろぽろ、涙をこぼしています。
「ごめんなさい」と、姫は言いました。
姫はしばらく帝と文通をしていましたが、とうとう月からお迎えの人々が来ました。
昼のように光り輝く月夜でした。
お迎えの人々は、地上から五尺(約1メートル50センチ)のところに、ふんわり浮いていました。これはほんとです。ちゃんと『竹取物語』に書いてあります。
姫はずっと泣いていましたが、
「さあ、行きましょうね」
と羽衣を着せられたとたん、ふわっと何もかも忘れてしまいました。
大切に育ててくれたおじいさんとおばあさんのことも、なかよしの帝のことも。
おじいさんとおばあさんは、息が絶えてしまうほどなげき悲しみましたが、帝は若くて、そして男の子でしたので、ぽろぽろ涙をこぼしながらも、じっとがまんしました。
そして、最後に見たかぐや姫の顔が、笑顔で、よかったな、と思いました。
かぐや姫は、置き手紙を二通、残していきました。
一通は、おじいさんとおばあさんあてでした。
「いままで育ててくださってありがとうございました。親孝行をしないで月に帰ってしまって本当にごめんなさい」とありました。これもほんとです。ちゃんと『竹取物語』に書いてあります。
もう一通は、帝あてでした。
「羽衣を着る前の、最後の瞬間に、あなたのことを想いました」
そして、プレゼントとして、なめると不死になれる薬の入った壺が、そえてありました。
「もう、姫に逢えないのに、不死になんてなりたくない」
帝はそう思って、日本一高い山の上で、その薬を壺ごと焼いてしまいました。
それが、富士(不死)山です。これもほんとにほんとです。本当に『竹取物語』に書いてあります。
古今東西、不死になりたくてじたばたする人の話はいくらでもありますが、
せっかく不死になれるのに、それを断ってしまうなんて。
この帝、私は、すごく素敵だと思います。
帝は、大人になって、とても良い帝になりました。
そして、長生きをして、たいそう年を取ってから、亡くなりました。
亡くなるときに、天井を見上げて、ふっと微笑まれ、
「これでかぐや姫に逢える」
と、つぶやかれたそうです。
このあたりは、この「だれがどすた」バージョンです。
「おとこのこが/いえで/おひめさまを/おいかけました」
いまはむかし、ひとりのおじいさんがありました。器用な人で、野山に入っては竹を取って、いろいろな物を作りました。家や、犬小屋、それにベビーカーなどです。
でも、せっかくベビーカーを作っても、あかちゃんがいませんでしたので、おじいさんはおばあさんと二人で、あかちゃんがいたらいいのになあとなげきました。
ある日、おじいさんは、根もとが光っている竹を見つけました。そうっと切ってみると、中に、とってもかわいいあかちゃんが入っていました。
おじいさんとおばあさんは喜んで、竹を切って作ったぐいのみで乾杯しました。そして、そのあかちゃんを竹のベビーカーに入れて、大切に育てました。あかちゃんは、女の子でした。
その後はしばらく、とくに変わったことはありませんでした。竹の中から小判が出るとかは。
おじいさんが作った竹のいろんなグッズがそこそこ売れて、いい感じにお金がもうかっただけです。それだけでも、じゅうぶん奇跡じゃないでしょうか。
とくに、おじいさんは、すのこやテレビ台などの家具を作るのが得意でしたので、女の子は、
うそです。
かぐや姫はすくすく育って、それはそれは美しい子になりました。
顔かたちはかぎりなく清らかで、家のすみずみまで、光が満ちました。
こんなに素敵なかぐや姫でしたのに、男運が悪くて、へんな男が五人も言い寄ってきました。
かぐや姫は、困って、
「いいお友だちでいましょうね」
と言ったのですが、のぼせあがった男たちには通じませんでした。
かぐや姫は困りはててしまって、男たちにそれぞれ難しいクイズを出しました。せめて彼らがクイズを解いているあいだ、時間をかせごうと思ったのです。
地上でのタイムリミットが、せまっていました。
そんなこととはつゆ知らず、帝が、かぐや姫に興味を持ちました。
この帝は、まだ少年でした。
竹の家に住んでいる、美人で面白い女の子がいると聞いて、帝は、ぜひとも、彼女とお友だちになりたいと思いました。
「宮中へ遊びにいらっしゃい」と使いを出したのですが、返事をくれません。
そこで、帝は、自分から遊びに行くことにしました。
宮廷も竹取のお家も大騒ぎになってしまいましたが、帝は平気で、ずんずん入って行き、かぐや姫の白くて小さな手をとりました。
その瞬間、かぐや姫は、消えてしまいました。
帝はびっくりしました。いまのいままで、姫は目の前に座っていたのです。
あわてて見まわすと、数歩はなれたところに、すっと姫のすがたが現れました。
帝が駆け寄ると、また、姫は消えました。
このあたりは、この「だれがどすた」バージョンです。
どんなに追いかけても、姫はいつも、ほんの少し先にいて、どうしても手がとどきません。
帝はとうとう、息が切れてしまいました。
腰を下ろすと、目の前に、すっとかぐや姫が現れました。
ぽろぽろ、涙をこぼしています。
「ごめんなさい」と、姫は言いました。
姫はしばらく帝と文通をしていましたが、とうとう月からお迎えの人々が来ました。
昼のように光り輝く月夜でした。
お迎えの人々は、地上から五尺(約1メートル50センチ)のところに、ふんわり浮いていました。これはほんとです。ちゃんと『竹取物語』に書いてあります。
姫はずっと泣いていましたが、
「さあ、行きましょうね」
と羽衣を着せられたとたん、ふわっと何もかも忘れてしまいました。
大切に育ててくれたおじいさんとおばあさんのことも、なかよしの帝のことも。
おじいさんとおばあさんは、息が絶えてしまうほどなげき悲しみましたが、帝は若くて、そして男の子でしたので、ぽろぽろ涙をこぼしながらも、じっとがまんしました。
そして、最後に見たかぐや姫の顔が、笑顔で、よかったな、と思いました。
かぐや姫は、置き手紙を二通、残していきました。
一通は、おじいさんとおばあさんあてでした。
「いままで育ててくださってありがとうございました。親孝行をしないで月に帰ってしまって本当にごめんなさい」とありました。これもほんとです。ちゃんと『竹取物語』に書いてあります。
もう一通は、帝あてでした。
「羽衣を着る前の、最後の瞬間に、あなたのことを想いました」
そして、プレゼントとして、なめると不死になれる薬の入った壺が、そえてありました。
「もう、姫に逢えないのに、不死になんてなりたくない」
帝はそう思って、日本一高い山の上で、その薬を壺ごと焼いてしまいました。
それが、富士(不死)山です。これもほんとにほんとです。本当に『竹取物語』に書いてあります。
古今東西、不死になりたくてじたばたする人の話はいくらでもありますが、
せっかく不死になれるのに、それを断ってしまうなんて。
この帝、私は、すごく素敵だと思います。
帝は、大人になって、とても良い帝になりました。
そして、長生きをして、たいそう年を取ってから、亡くなりました。
亡くなるときに、天井を見上げて、ふっと微笑まれ、
「これでかぐや姫に逢える」
と、つぶやかれたそうです。
このあたりは、この「だれがどすた」バージョンです。