来訪 (2)

文字数 1,077文字

 一見集中しているようだが、レイの手はさっきから、何を作っているのかわからない。
 回るろくろの上で濡れた粘土がゆっくりと鉢の形になり、壺になり、また鉢に、深皿に戻っていく。
 終わりがない。

 声をかけたものかどうか迷っていたら、向こうがこちらに気づいた。
「もうお昼?」と言う。
「まだですけど、疲れませんか? 何かひと口飲みますか、塩湯とか」
「ああ。いいね」
「持ってきます」
「いや、わたしが行く。ありがとう」

 良い形にととのいかけていた粘土が、惜しげもなくくしゃりとつぶされた。

 片手でもう片手の泥を、こそげるようにぬぐいとっている。交互に。
 指先にたまったそれを、手首を振ってぴっと振り落とした。
(あ)
 とたんに心拍数がはね上がり、自分でも動揺するアイシャだ。
 この頃、レイの何でもないしぐさに、とくに手の見せるしなやかな動きに、どうしようもなく心がかき乱されてしまう。前はここまでではなかったのに。

 どきどきしながら、そなえつけの水差しから洗面器に水をそそいで持っていくと、「ありがとう」と言ってすなおに手を洗いはじめた。レイ自身は何も気づいていないらしい。
「そこ、まだ、ついてます」小さな声で言ってみる。
「うん?」
「ひじの後ろ。――ううん、そっちじゃなくて」
 腕をとって水にひたし、粘土を洗い落としてあげた。
 落ちつこうと思うのに、幸せで息がつまりそうになって、思わず目をつぶる。さすがに気づかれたらしく、向こうの緊張と体熱も伝わってくる。
 こんなことで夏明けまで持つんだろうか、わたしの心臓。
 持たないかもしれない。

「何を作ってたんですか?」わざとそっけなく訊いてみる。
「ああ、うん」レイははにかんだ笑みを浮かべた。「何でもない。考えていただけ」
「巨人族のこと?」
「えっ」
「シミュレートしようとしてたんじゃないんですか? かれらの取ったプロセスを」

「どうしてわかるの」
 レイの目が大きく見開かれている。
「いやだな。どうしてそう、何もかも」

 だって、あなたが、わかりやすいからですよ。
 アイシャが微笑んで口を開こうとしたとき、

 音がした。

 どーん……と、遠くで。
 続けて、同じ響きが、二回。
 大地をつたう振動。

 顔を見あわせ、次の瞬間、二人とも走りだしていた。最上階まで一気に駆けあがる。
 扉を開け地表に出て音の聞こえた西南西の方角を目視する。おぼつかないが、地平のかなた、黒煙がひとすじ上がっているようにも見える。

 近隣の村どうしの取り決めで、緊急時には雷管を引いて合図することになっている。
 一度の爆発はゲイラを意味する。
 だが二度は。

 ギメイだ。
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