第1話
文字数 1,102文字
ここは大阪府藤井寺市道明寺町。
最寄りの駅から東を望めば大和川水系の一つで、一級河川の石川が在り。西に目を向ければ菅原道真公を祀る道明寺天満宮と、古代にこの地を治めた土師(はじ)氏の氏寺として7世紀頃に建立され、この町の地名の起源となった道明寺が、‘デ~ン’と佇んでいる。
しかし、大阪の中心部とは趣が随分と違い。
その街並みや流れる空気は至って長閑で、どこまでも穏やか。そしてどこか緩くて懐かしい昭和の匂いを今でもプンプンと漂わせている町・道明寺・・。
そんな平穏な道明寺を。これから掻き乱すことになる人物の一人、駅前でコンビニ店を経営する傍ら。一年ほど前に道明寺まちづくり協議会を立ち上げて会長を務めている、林田武史(はやしだ たけし=49歳)が、石川に架かる玉手橋を河原に佇んで眺めている。
そんな彼に同じく道明寺まちづくり協議会の立ち上げに参加し事務局長を務めている竹田忠司(たけだ ちゅうじ=47歳)が近づいて来た。
「林田さん。どうしたんすか急にこんな所に呼び出して」
一瞬、竹田に振り向いて微笑む林田だったが、また直ぐに玉手橋に目を向けてしまう。
そんな林田を訝しつつ同じ様に玉手橋に目を向ける竹田、「橋になんかあるんですか」。
そんな竹田の問いかけにも無言のまま橋を眺め続ける林田・・。
そんな林田を竹田は橋と交互に見詰めながら思った。
(この人はいつもこうだ・・)
二つ年上で高校の先輩。
それだけでも頭が上がらない存在なのだが、何といっても、いつもこんな感じで掴みどころが無くて困る。そう、いつも周囲の者がその真意を推し量って行動を起こすしかない。
(特に俺なんかはそうだ・・いつも推し量って忖度して、具体的な指示がなくても先んじて動いては正解だったのかどうかで悩んでまう。なんせ結果に対して。いつも何も言わず全て自分が引き受けるというか責任を取ってしまいはる。良いとか悪いとか・・なんかあるやろ、と思うんやけど。先輩、言いはりませんよねぇ・・・)などと、思い巡らせていると不意に、「なあ竹ちゃん・・俺たち、このままでエエんやろか・・」。
核心を突かれたのか。それとも正しい言葉が見つからないのか。愕然とした表情で竹田は固まってしまった。
「このままで、エエんかなぁ・・」
と再び今度は独り言のように林田が呟いたが、やはり竹田は無言のまま立ち尽くしていた。
そのあとも、二人は無言のままで玉手橋を見続けていた。奇妙なオッサン二人の姿なのだが。
この町には何故か溶け込んでいる。