第25話
文字数 726文字
そう言葉を発しつつ桜田まさここと桜田順子は戸惑っている自身の気持ちを悟られまいと必死に平静を装っていた。
この日、三回目となる全体稽古も終わって深大寺創建たちを見送ったばかりの順子に、芳本か
ら、「このペースで道明寺交響曲・・間に合うんですか?」と問われて咄嗟に答えた言葉だった。
黙ってはいるが芳本の隣に居た林田も同じ不安を感じ始めているのだろうと順子は察していたし、何より順子自身が一番不安を感じているといえる。しかし立場上、そんな不安を口にすることはもちろん、表情にみせるわけもいかない。あくまで毅然とした表情と振る舞いをしなければ、この不安はたちまち拡がっていってしまう。
それだけは避けなければならないと順子は強く思い定めている。
折角、大川さんの乱を竹原のファインプレーで治めることが出来たばかりなのに、次は自身が提案したメインプログラムである“道明寺交響曲”の尻に火が付きだすのは順子にとっては許し難い事案だと云えた。
しかし、芳本が口に出した不安は既に誰もが抱いていることも事実なのだ。
三日前に、深大寺創建が主宰する和太鼓集団“風馬”の演奏によるデモ音源が届いたのは良いが。今日の稽古では各場面の振付と動きを付ける内容に終始し、後はその場面に出演する団体への個別指導とそれぞれの場面を担当する指導者やリーダーへのレクチャーだけで終わってしまい。結局、全体での稽古や合わせなどまでは辿り着けなかったのだった。
全体稽古は、あと二回・・。と、前々日と前日のリハだけ・・不安になるなと云う方が無理である。
まして出演者は風馬のメンバー以外は全て一般市民の皆さんときている。何処をどう考えても不安しかない。