第2話
文字数 977文字
「さぁ~てと、どうしたものかねぇ。桜田順子プロデューサー」
(また・・フルネームで・・)
「にしても、僕らの世代には、‘キュン’とくる名前だよね」
「親がつけた名前ですから」
(この野郎・・いつも名前を弄ってきやがる)
「まあ、それはそれとして。クライアント様は、相当、お怒りのようだね。下っ端のスタッフのミスとは言え。このままでは済みそうにないよね・・困ったねぇ・・」
と言いつつも。日下の表情は一向に困ってはいない。寧ろ、この状況を楽しんでいる風だ。
(この人とは、もともと馬が合わなかったんだ。と言うより。私が事業部に配属された当初から何かと反りが合わなかった。とにかく私がやることなすことすべてが気に入らないらしい・・)
「どうしようかねぇ・・桜田順子プロデューサー殿」
「(被せ気味に)親がつけた名前ですから」
その後は二人とも無言となり、互いに目力で斬り合っている。でも、表情だけは大人の対応だったりするから余計に迫力が増すというか緊張感が部屋中を覆っている。
暫くして部屋から出てきた順子は、心配して待っていた順子の部下である竹原仁(たけはら ひとし=43歳)を見向きもせずに毅然と歩き出した。
慌てて後を追う竹原が、「順子さん」というや否や、立ち止まって竹原に振り向いた順子が、「スパっと退社願をぶん投げてきた」。
「ええぇ・・」。
それだけ言うと再び歩き始める順子。
呆然としていた竹原も再び後を追いつつ、「部長に謝りましょう。今ならまだ間に合いますから。ねぇ順子さん。そうしましょう」。
すると順子は再び立ち止まり静かに竹原に振り向くと、「ぶん投げた退職願が・・奴の顔に張り付いちゃったし・・」。「あちゃ~」と、絶望の声を上げる竹原を尻目に晴れやかな表情を見せて再び歩き出す順子。
(これでいいの。ここでは将来が見通せなかった事は薄々解っていたんだし。それに、私の力が十分に生かせないことも確かなんだ。
女32歳・・ここが人生の分岐点なのかもしれない。そう、正念場だわ。私の人生は、
私のモノ。だったら勝負してやろうじゃないの・・)
そんなことを考えながら颯爽と歩く順子。そんな彼女を呆然と見送る竹原だった。