第97話
文字数 1,402文字
しかし、一年前の光景とは少し違っていて、
その集団には竹田の愛妻・ジュンちゃん、野本真弓、そして北畠宮司らの姿もあり、皆、笑顔で談笑して居る。
そんな輪の中から少しだけ離れた所に竹田は立って掌に握られているあるモノを見詰めていた。
(ふん、味な事してくれたがな)
自然と笑みがこぼれている。その様子はちょっと不気味だ。
すると、一年前と同じ様に芳本が、「あっ、来はりましたよ」と雷門の方を指さした。
「だから指さすなて。ホンマ、悪い癖やのぉ」と竹田が言うのだが、以前とは違って、皆、笑みを浮かべて芳本が指さした方を見入って居る。
そんな皆の目線の先には、紺ブレにジーンズ、インナーは薄いピンクのブラウスと云った以前とは少しだけ雰囲気が違い。そして随分と穏やかで柔らかな表情をした順子と、その後ろから必死について歩いて、やはり満面笑みを浮かべた竹原の姿が在った。
一年前の、「未知との遭遇」ではなく。
それはまるで旧知の人々の再会と云えた。
そんな二人を嬉しそうに眺めていた真弓は、「ホンマ相変わらず、華の都・大東京って感じやなぁ・ワクワクするわ」と言うや順子たちに向かって歩き出した。
「ホンマやわ」とジュンちゃんも微笑みながら歩き出す。
そんな二人につられる様に林田や芳本、そして北畠宮司も順子たちに向かって歩き出して行った。
そんな光景を見守る様に佇んで見詰めている竹田は、(さぁ始まるでぇ。今回も色々あるんやろうけど。何もかも楽しみじゃい。
頼んまっせ、華の都・大東京を背負った名プロヂューサーさん。しかぁ~し、今回はちょっとだけ俺の方がマウント取れてまっせ。
桜田まさみ・・否、桜田順子さん・・♬ヨォ~こそここへ、クックククック♬私の青いト・・
もとい、金の鳥・・・グフ・グフフフ・・・)
そう、バレている。
そんなことを巡らせている竹田をよそに再会を悦び合う一同。
そんな光景を満面の笑みを浮かべた表情で見守って居る竹田の掌に握られている純金製のうそどりが一瞬、キラリと光った様な・・。
そんなこと、ないか・・www。
兎にも角にも、本日も此処道明寺は、
とても穏やかな風が吹き、
長閑な空気に包まれております。
お わ り
【あとがき】
「道明寺交響曲」を最後までご愛読・お付合い頂き誠にありがとうございました。
大阪府藤井寺市道明寺、この町で起きた騒動を題材にしたこの作品にはカリスマ性のあるヒーローも特筆した能力を有したヒーローも登場しません。
ごく普通の生活を営む人々のちょっとした非日常の有様を描いた物語でした。
そんなささやかな物語ではあるのですが、登場する人々のそれぞれの価値観や、その思考から巻き起こる人間模様を描かせて頂いたつもりです。
どこにでも存在する出来事だけれども、それぞれの登場人物が真剣に物事に向かっているが故にちょっぴり滑稽でいてそれでいて懐かしく、そして、「なんとなく、わかるなぁ~」と思って頂けたなら幸いです。
最後になりましたが、改めてお付き合い頂きまして誠にありがとうございました。
また、どこかで・・・
中川靖章