第77話
文字数 703文字
そんな小百合は相変わらず微笑んだ表情で、「そうやろな。私でも打掛を羽織ってのパフォーマンスはキツイと感じたんやから。樹里はもっとやろな。でも、自分で決めたんやから明日はエライやろうけど、がんばり。ここまでがんばって来たんやから大丈夫。樹里ならやり切れる」
「さゆ姉」
樹里の鼻の先が赤らみた。
(ここで泣いたら・・アカンやろ)
と踏ん張る十七歳。
小百合はそんな樹里の胸中を十分察しながら、「さ、肩貸したるから。ゆっくりと階段降りよか」と樹里の手を取り自分の肩に乗せ、二人はゆっくりと階段を降りだした。
既に樹里の目は充血し鼻からは水が滴り落ちている。
「泣くのんわ。明日、本番が無事終わってからやで。それまでは何も(なんも)かんも堪えとき」。
樹里は左手でその目からの水滴を拭うと、「うん、わかってる」とだけ答えた。
そんな樹里の様子を窺っていた小百合が言葉を続ける。
「明日は何も心配せんと役に集中しぃや。もし、樹里が途中で倒れたら・・その時は私が、
淀君の役のまま起こしたるから。だから決して役から離れたらアカンよ」
その言葉を聞いた樹里は頷きながら、「ありがとう」とだけ自分に言い聞かせる様に答えた。
この二人の関係性は昨日今日のものではない。それ故、会話はとてもぶっきら棒で短いが充分だったりする。
そんな二人が階段を降り切り会館を出ると。
今度は健人が樹里を待って居た。