第45話
文字数 695文字
(なんでやねん・・)
先日、稽古終わりにいつもの様に立ち寄った石川の河川敷で、野本樹里が最後に言った言葉だった。
それ以来、健人はこの言葉が頭の中で駆け巡って葛藤との戦いに埋没し以前にも増してまつりへのモチベーションがダダ下がりとなっている。
当然、そんな健人の姿勢に対してとっくに気が付いていた大人たちが健人の処遇問題で激しく口論を闘わせていることなど健人自身は知る由もない。
只、樹里には健人のそんなまつりへの姿勢については指摘され、それが距離を置かれた大きな原因であることだけは認知出来ていた。
それでも、(自分で望んでやってるワケやないし)という想いが未だに勝っている。
周囲は本番日が近づくにつれ徐々に昂揚感などが上昇して来ていることは流石に健人も感じてはいる。
もしかしたら樹里との間に波風さえ立っていなければ、それなりに健人も気分が上がっていたのかもしれないが、そうは問屋が卸さない。結果、只でさえ低いモチベーションは落下の一途を辿り今にも全てをぶん投げるかもしれない精神状態=ヤケクソ気味だったりする。
が、ある意味、山西健人は気の毒な存在とも言え無くもない。
そもそも彼はやる気が無いのではなく、町の文化や歴史、それに後藤又兵衛に興味が無いだけの事で大人たちとの熱量のギャップに翻弄されているに過ぎない。
最も、21歳のダンサー思考の若者としてはそれらに興味を持てないのは至極もっともな話なのだが、この町のまつりはそれを許してはくれない。
そうなると当然、
(早くまつり終わってくれへんかなぁ)と云う想いだけが心の中を支配し出す。