第65話
文字数 699文字
順子は野本真弓姐さんが経営するスタジオ・モッズに竹原が運転する車で向かっていた。
その表情はあの時とは打って変わって強張った表情となっている。
同じく不安げな表情の竹原が、「樹里ちゃんが怪我をしたって言う話でしたけど。本番まであと4日。大丈夫なんでしょうか」。
順子は真正面を向いたままで、「電話では姐さんも相当慌ててた様子だったから詳しい状況は行ってみないと解らないわね」。
余りにぶっきら棒な順子の返事に竹原は、「そうですね」とだけ言って運転に集中するしかなかった。
本番日まであと4日というこのタイミングで、道明寺交響曲のメイン出演者である野本樹里が交通事故に遭い足を怪我したと云う連絡を受け。急ぎ竹原と共にスタジオ・モッズに向かっているのだが。その車中は重い空気で覆われている。
そんな状況の中でも順子の頭の中では高速回転中の電子回路の様に思考がフル回転していた。
(迂闊だった・・やはりWキャストを考えるべきだった。こう云う状況は想定出来た筈だったのに。私の手落ちだ・・)
物事はそうそう上手くは運ばない。
そんな事は百も承知し理解出来ていた筈だった。特にイベントともなれば多くの人が関わる分だけトラブルが発生する確率が高くなることは順子なら十分想定出来ていて。それ相応の対策を講じるものだ。
現に、これまでの現場では万全のバックアップを講じて来ていた。それなのに・・・。
徐々に自己嫌悪に陥る気持ちと闘いながら、それでも最悪の事態に対処する最善の策を巡らせ始めてもいる。と同時に、樹里の怪我の具合も気になり順子の頭の中は混乱気味といった感じだった。