第75話
文字数 555文字
道明寺交響曲の全体稽古が終わり道明寺会館に設けられている女性陣の控室で着替えを終えた樹里は、足首に痛み止めの湿布を貼り入念にテーピングを施しながらそう感じていた。
(衣装を着けると違うとは聞いていたけど。打掛を羽織ると、やっぱ、キツイなぁ。
特に打掛の裾の捌きはただでさえ大変や。足首には相当負担になるな・・)
そんな不安を抱えつつも。この若干十七歳の聡明な女子高生は周囲にその不安を悟られまいとして表情だけはいつもの様に平静さを装っている。
そもそも樹里が演じる千姫とは、徳川家康の孫娘にて徳川幕府第二代将軍の娘。そして、豊臣秀吉の命令で秀吉の息子・豊臣秀頼の妻となった女性である。当然、着る物も豪華絢爛な衣装となる。
当時の身分の高い武将の妻や娘たちは、一般的な女性たちより質の高い生地の小袖の上に、これまた豪華な生地で誂えられた打掛を羽織るのが常識とされていた。そしてそれらの打掛の裾には、ふきと呼ばれる線が有って厚みを出すために綿などが詰められている。
そう、ハンパない重量となるのだ。
そんな代物を羽織ってのパフォーマンスなのだから万全な体調だったとしても充分重労働であり、負担を軽減されたパフォーマンスだったとしても足首を捻挫している樹里には過酷と言えた。