滝の様に流れる涙
文字数 969文字
モチモチしたクレープに特製クリームを塗って、ソレを何層にも重ねたケーキ。
ソレはすずとランカ渾身の一皿。
ヤドクガエルのミルクレープがガーゴイルの前に置かれています。
一見フルーツの酸味を想像させる鮮やかな赤紫色は、恐らく毒の成分そのもの。
勿論2人は味見無しで作っています。
ガーゴイルはジッとお皿の上のケーキを見つめながら言いました。
コレまでの様に話も聞かずペロリとはいきません。
彼からは明らかな疲れと焦りの色が見てとれます。
ずっと見張りの仕事を放り出しておくわけにもいきません。
記憶に間違いが無ければ、コレが最後の材料。
もし効果が無ければ…。
悪い予感を拭う様に、気丈に振る舞うガーゴイル。
長い舌でケーキを掴むとやはり一口で、しかし頬張ってゆっくり味わいます。
ラズベリーとブルーベリーの酸味を生かした爽やかなクリーム。
程よい弾力のあるクレープは全体の食感を損なわない程度に噛み心地を主張します。
ソレはどこにヤドクガエルを使ったのか分からない程美味しいミルクレープでした。
そして頭もまぶたも重いまま。
残念ですが最後の料理には全く効果が見られません。
ガーゴイルは大きく落胆しました。
恐らく彼はお役御免。
物言わず動かない普通の石像に戻されてしまうかも知れないのですから。
でもソレとは別に2人への申し訳ない気持ちと感謝が溢れてきます。
瞳からは大粒の涙。
そもそも生徒と接する事を禁じられていたガーゴイル。
護っていた相手がこんなにも優しく素直で、しかも自分の為に懸命に動いてくれた事が嬉しかったのです。
彼は音も無く泣き始めました。
ソレを見ていたすずとランカは…
ただ涙は枯れる事を知らず、むしろ滝の様に流れ続けました。