書き鳴らせ、ギター!
文字数 2,948文字
山沢さんのライブが10年ぶりにあるらしい。
秋葉原のクラブグッドマンの12/25の3番目の順番に入ってる。
迎えた当日。
ステージに立った山沢さんは「シングルマザーとか毒親育ちとか性被害に遭った子に歌描きたくなって、色々曲書いてる中でとても感銘を受けた歌カバーさせてもらいます!」
そう言ってLUNKHEADのカナリアボックスを演奏し始めた。
DTMerな彼には珍しくギターを持ってる。
こだかには到底及ばない歌唱力で歌いきると、「お前に食わせるタンメンはねぇ!」のギャグを放ち、おっさん客だけ笑った。
「次に歌うこの歌はフジファブリック志村への僕なりの歌です。東京中野高円寺」
Gのキーで演奏される暖かいけど切ないコード進行。
「音楽はどうしようもない人間に届く力があるって信じてる。もう2007年からパソコンで音楽作り始めたのがスタートだけど一応09年からってことにしといでください。
来年がボクの音楽人生15周年です。
いつか野音や武道館立ちてえ!」
そう山沢さんがロックミュージシャンばりに服を脱いで上半身裸になり、3曲目を演奏し始めた。
しかし、曲の途中で「ハンパなく、寒い! やっぱ服着ますわ!」と叫ぶとオーディエンスは大爆笑。
もちろん彼を見守ってたボクや笑可も思わず笑っていた。
「なあ、今日はボクがライブやるだけじゃないんだ。見てる親せきとそのカノジョ上げていいよな?」
ボクらを呼んでる山沢さん。
「どうする?」
「ステージ登るしかないでしょ」
ゆっくりステージへ向かうとライブハウスのスタッフが近寄ってくるので「山沢さんの親せきはボクらです」と言うとどうぞどうぞのジェスチャー。
ステージに上がった笑可の近くに寄り、山沢さんは彼女に自身のギターを持たせた。
「弾いてみ? コイツから君がギターの練習動画ばかり見てるってのは聴いてる」
笑可は山沢さんからフジファブリックのフジフジ富士Qの観客へ配布されたピックをもらうと、意を決した表情でGとCのコードを弾いてDで勢いをつけていった。
初めてギターを弾くとは思えないほど、しっかりしたものだった。
「私、学校行けない事情あるんですけど......山沢さんから教えてもらったゆらゆら帝国とかLUNKHEADとかで音楽の楽しみ知りました。
どうやって歌おう?」
山沢さんは彼女の足元に持って行ったエフェクターを踏み、ギターサウンドに変化をもたらす。
すると、エコーとディレイがかかる。
「笑可ちゃん、これならアタックから減衰する音が遅くなるから演奏不慣れでもどうにかなるよ」
幻想的なサウンドに乗せて、笑可がゆっくりギター弾いて歌い始める。
私がまだ見えてないもの
これからつかみたいもの
スローに立ち上がりつつ
目指せたらいいな
折れちゃいそうな心だけど
Hello いつかは言いたいから
白を響かせて雪の中で
確かめたんだLIFE
物凄くしっかり、歌になってる。
空気を読んだライブハウスのPAが彼女のボーカルに淡いディレイをかけ、儚げな歌声がワンワン響いていく。
ライブ終了後。
対バンの方からは「いいもん見せてもらった」「いきなり乱入してきた女の子、うちのボーカルに欲しい」とかとにかく好反応だった。
山沢さんとボクら3人でラーメン屋に行く。
山沢さんは昔話を始めた。
「音楽を始めた当初、2009年にここで初ライブやった時についてきてくれた友達いたんだ。
そいつからフジファブ教えてもらって、でも全然大切にできなかった。
ある日、誰でも絶縁するような言葉を言ってそいつはmixiから消えていった。
人との繋がりが当たり前じゃないってことに気付いたよ」
「そうだったんですね。でもその人もきっと山沢さんがフジ好きでい続けてるの知ったら喜ぶんじゃないかな?」
「そいつの元カノが映画の専門学校で講師からレイプ被害の話をメールでしてきた時、ボクは真正のチキンだったから彼女をなぜか責めてしまってた。
性被害に遭った女の子を徹底的に攻撃したような、生きてる価値もないドクズなんだ」
「......!? そ、それでも気が動転したから仕方ないんじゃないですか? 山沢さん、あなたには密かに歌を作るやり方とか教えてもらってたので伝えますが......私も一ヶ月前に男に襲われました。
でも豹馬くんや山沢さんみたいな男性のおかげで、LUNKHEADの小高さんのような方とかの影響でこの世にまともな男性もいることを知れました」
そして笑可はランクヘッドのこだかのブログを何気なく読んでいて、関係を持った女性が性被害の過去を持っていたことに対して同じ男として許せない的なブログを書いてたことを知ったと伝えてきた。
山沢さんは「......だから小高は最高なんだよな。高校生の頃の音楽とか今の時代の色んな曲聴くのに夢中になりすぎて忘れてたけど、その頃の音楽聴いてるもん。
ランクヘッドも10何年ぶりに聴いたけど、ボクもそのブログ読んだから彼らを応援したくてたまらない。
何気ないこだか自身の曲解説のブログの記事もすきだけどね」
山沢さんはポツリとバンド組みてえなとつぶやいた。
「ラーメン、おいしいよね。豹馬はトンコツで私と山沢さんは塩だけど」
「この歳になってくると塩でいいかなってなるんだ。
ホルモンばりに麺かたコッテリに拘ってた頃もあったけど」
切ないことを言う山沢さん。
「にしても、いつの間に笑可は山沢さんから歌詞の書き方とか教わってたんだ?」
「んーとね、カナリアボックス聴いてるうちに自分でも音楽作りたくなって曲なんてのは4〜6つのコードの繰り返しでもできるし、3コードや2つでもできるからやってみ? ととにかく説得されて感動できる名曲にはGのキーが多いし押さえやすいコードも多いからって、G Cの繰り返しであとはDをひたすら鳴らせ! ってアドバイスされて実践したの」
なるほど、山沢さんはボクより女のコにものを教えるのが上手いようだ。
さすがに36年も生きてるだけはある。
「あー、ギター買うのに志村と同じギターにしたかったから買ったけどパソコンでも曲作りたくなったから消費者金融の金で両方買ったら返せる見通し無いわ。
まあなんとかなるか」
山沢さんはそこそこヤバいことを口走り始めた。
「マグロ漁船デビューしたら、歌にしたらいいと思いますよ」
ボクは山沢さんをいじめる。
「ひぃい、マグロ漁船怖いよぉ」
そんなボクらの様子を見て、ライブをしたハイさからなのかケタケタ笑う笑可ちゃん。
彼女を連れてきて良かった。
今日、このライブに行かせるためにひたすら彼女と外出の練習をしてトラウマから来る過呼吸と戦ってきた甲斐があった。
「そういえば、豹馬くんから笑可ちゃんはある事情で外出ができにくくなってるって聞いたけど今日ここまで無理して来てくれてありがとう。
笑可ちゃん、めっちゃえらい!!」
そう山沢さんが店内なのを憚らず叫ぶと笑可は泣き出した。
「とにかく大変でした。今日までは何度も過呼吸に襲われるし。でも山沢さんがどんなライブをするのか、10年ぶりっていうしそれを楽しみにしてたら今日はなぜかなんとかなりました」
「本当に、本当にありがとう」
志村正彦に天国へカンパーイと言いながら、山沢さんはハイボールを飲み始めた。
ボクらもジュースを飲む。
楽しい宴になった。
秋葉原のクラブグッドマンの12/25の3番目の順番に入ってる。
迎えた当日。
ステージに立った山沢さんは「シングルマザーとか毒親育ちとか性被害に遭った子に歌描きたくなって、色々曲書いてる中でとても感銘を受けた歌カバーさせてもらいます!」
そう言ってLUNKHEADのカナリアボックスを演奏し始めた。
DTMerな彼には珍しくギターを持ってる。
こだかには到底及ばない歌唱力で歌いきると、「お前に食わせるタンメンはねぇ!」のギャグを放ち、おっさん客だけ笑った。
「次に歌うこの歌はフジファブリック志村への僕なりの歌です。東京中野高円寺」
Gのキーで演奏される暖かいけど切ないコード進行。
「音楽はどうしようもない人間に届く力があるって信じてる。もう2007年からパソコンで音楽作り始めたのがスタートだけど一応09年からってことにしといでください。
来年がボクの音楽人生15周年です。
いつか野音や武道館立ちてえ!」
そう山沢さんがロックミュージシャンばりに服を脱いで上半身裸になり、3曲目を演奏し始めた。
しかし、曲の途中で「ハンパなく、寒い! やっぱ服着ますわ!」と叫ぶとオーディエンスは大爆笑。
もちろん彼を見守ってたボクや笑可も思わず笑っていた。
「なあ、今日はボクがライブやるだけじゃないんだ。見てる親せきとそのカノジョ上げていいよな?」
ボクらを呼んでる山沢さん。
「どうする?」
「ステージ登るしかないでしょ」
ゆっくりステージへ向かうとライブハウスのスタッフが近寄ってくるので「山沢さんの親せきはボクらです」と言うとどうぞどうぞのジェスチャー。
ステージに上がった笑可の近くに寄り、山沢さんは彼女に自身のギターを持たせた。
「弾いてみ? コイツから君がギターの練習動画ばかり見てるってのは聴いてる」
笑可は山沢さんからフジファブリックのフジフジ富士Qの観客へ配布されたピックをもらうと、意を決した表情でGとCのコードを弾いてDで勢いをつけていった。
初めてギターを弾くとは思えないほど、しっかりしたものだった。
「私、学校行けない事情あるんですけど......山沢さんから教えてもらったゆらゆら帝国とかLUNKHEADとかで音楽の楽しみ知りました。
どうやって歌おう?」
山沢さんは彼女の足元に持って行ったエフェクターを踏み、ギターサウンドに変化をもたらす。
すると、エコーとディレイがかかる。
「笑可ちゃん、これならアタックから減衰する音が遅くなるから演奏不慣れでもどうにかなるよ」
幻想的なサウンドに乗せて、笑可がゆっくりギター弾いて歌い始める。
私がまだ見えてないもの
これからつかみたいもの
スローに立ち上がりつつ
目指せたらいいな
折れちゃいそうな心だけど
Hello いつかは言いたいから
白を響かせて雪の中で
確かめたんだLIFE
物凄くしっかり、歌になってる。
空気を読んだライブハウスのPAが彼女のボーカルに淡いディレイをかけ、儚げな歌声がワンワン響いていく。
ライブ終了後。
対バンの方からは「いいもん見せてもらった」「いきなり乱入してきた女の子、うちのボーカルに欲しい」とかとにかく好反応だった。
山沢さんとボクら3人でラーメン屋に行く。
山沢さんは昔話を始めた。
「音楽を始めた当初、2009年にここで初ライブやった時についてきてくれた友達いたんだ。
そいつからフジファブ教えてもらって、でも全然大切にできなかった。
ある日、誰でも絶縁するような言葉を言ってそいつはmixiから消えていった。
人との繋がりが当たり前じゃないってことに気付いたよ」
「そうだったんですね。でもその人もきっと山沢さんがフジ好きでい続けてるの知ったら喜ぶんじゃないかな?」
「そいつの元カノが映画の専門学校で講師からレイプ被害の話をメールでしてきた時、ボクは真正のチキンだったから彼女をなぜか責めてしまってた。
性被害に遭った女の子を徹底的に攻撃したような、生きてる価値もないドクズなんだ」
「......!? そ、それでも気が動転したから仕方ないんじゃないですか? 山沢さん、あなたには密かに歌を作るやり方とか教えてもらってたので伝えますが......私も一ヶ月前に男に襲われました。
でも豹馬くんや山沢さんみたいな男性のおかげで、LUNKHEADの小高さんのような方とかの影響でこの世にまともな男性もいることを知れました」
そして笑可はランクヘッドのこだかのブログを何気なく読んでいて、関係を持った女性が性被害の過去を持っていたことに対して同じ男として許せない的なブログを書いてたことを知ったと伝えてきた。
山沢さんは「......だから小高は最高なんだよな。高校生の頃の音楽とか今の時代の色んな曲聴くのに夢中になりすぎて忘れてたけど、その頃の音楽聴いてるもん。
ランクヘッドも10何年ぶりに聴いたけど、ボクもそのブログ読んだから彼らを応援したくてたまらない。
何気ないこだか自身の曲解説のブログの記事もすきだけどね」
山沢さんはポツリとバンド組みてえなとつぶやいた。
「ラーメン、おいしいよね。豹馬はトンコツで私と山沢さんは塩だけど」
「この歳になってくると塩でいいかなってなるんだ。
ホルモンばりに麺かたコッテリに拘ってた頃もあったけど」
切ないことを言う山沢さん。
「にしても、いつの間に笑可は山沢さんから歌詞の書き方とか教わってたんだ?」
「んーとね、カナリアボックス聴いてるうちに自分でも音楽作りたくなって曲なんてのは4〜6つのコードの繰り返しでもできるし、3コードや2つでもできるからやってみ? ととにかく説得されて感動できる名曲にはGのキーが多いし押さえやすいコードも多いからって、G Cの繰り返しであとはDをひたすら鳴らせ! ってアドバイスされて実践したの」
なるほど、山沢さんはボクより女のコにものを教えるのが上手いようだ。
さすがに36年も生きてるだけはある。
「あー、ギター買うのに志村と同じギターにしたかったから買ったけどパソコンでも曲作りたくなったから消費者金融の金で両方買ったら返せる見通し無いわ。
まあなんとかなるか」
山沢さんはそこそこヤバいことを口走り始めた。
「マグロ漁船デビューしたら、歌にしたらいいと思いますよ」
ボクは山沢さんをいじめる。
「ひぃい、マグロ漁船怖いよぉ」
そんなボクらの様子を見て、ライブをしたハイさからなのかケタケタ笑う笑可ちゃん。
彼女を連れてきて良かった。
今日、このライブに行かせるためにひたすら彼女と外出の練習をしてトラウマから来る過呼吸と戦ってきた甲斐があった。
「そういえば、豹馬くんから笑可ちゃんはある事情で外出ができにくくなってるって聞いたけど今日ここまで無理して来てくれてありがとう。
笑可ちゃん、めっちゃえらい!!」
そう山沢さんが店内なのを憚らず叫ぶと笑可は泣き出した。
「とにかく大変でした。今日までは何度も過呼吸に襲われるし。でも山沢さんがどんなライブをするのか、10年ぶりっていうしそれを楽しみにしてたら今日はなぜかなんとかなりました」
「本当に、本当にありがとう」
志村正彦に天国へカンパーイと言いながら、山沢さんはハイボールを飲み始めた。
ボクらもジュースを飲む。
楽しい宴になった。