スモールワールド

文字数 832文字

今日は笑可のリハビリとして外に出る訓練だ。
ボクは彼女の化粧道具を借りて女装している。
銀髪ロングのウィッグをかぶり、ヒラヒラした紫のスカートを履いて、駅前まで歩いたところで過呼吸を起こした笑可を心配した通行人の女性が助けてくれる。

この人になら、彼女の状況を話してもいいか。
笑可が性被害に遭ったことを包み隠さず話した。
「カノジョさん、大変かもしれないけど愛してあげてね」
黙って女性は時折辛かったよねと声をかけつつ、彼女の背中をさする。
去り際に上記の台詞を残して、女性は去っていった。

「どこまでいっても、私って全然立ち上がれない」
弱音をこぼす笑可の身体を抱きしめて「オレは君が完全に治るまでそばにいるから」聴いていたサブスクからはランクヘッドのスモールワールドが流れていた。

フジファブリックのsmall worldが流れ始める。
どこまでいっても世界は小さい。
そんな小さな世界で大きな悲劇が起きている。
命が燃える音が笑可からしている。

彼女の髪をなでる時にビクッとされた。
手を引っ込めようか悩んだけどそのまま続けた。
イヤホンからはランクヘッドの体温が流れていた。
ちょうど笑可にその片方のイヤホンを着けてもらったからおだかのシリアスな歌詞が届いてるだろう。

ランクヘッドのボーカルの小高さんのブログで関係を持った女性に性被害の過去があって男として許せないと記事に書かれていた。
そんな時、このバンドを山沢さんから知り本当に良かったと思った。
比較的負担の多いドラムス以外が辞めない理由がわかった気がする。

閃光が流れる。
エモいアップテンポなチューンだ。
ギターに少しだけ挑戦したことはあるけど、コードチェンジ(押さえる手の動き)が激しい歌は弾ける気がしない。

彼女の心にきらりいろを灯したい。
そうしたらもっと長く外に出れるだろうか。
帰り道、「意外と女装似合ってるよ」と言ってくる彼女によくわからない照れを感じた。

小さな手を握りたいと思いつつ、一緒にいてくれるだけで幸せだと思うことにした。
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登場人物紹介

豹馬。

17歳。

高校生で、幼なじみの笑可が性被害に遭ったことを知り彼女の力になりたいと思う。

どこまでも笑可のことが気がかり。

自傷癖ができた彼女を心配している。

笑可。

16歳の早生まれ。

夜12時にコンビニへジュースを買いに

行こうとしたところ、性的暴行の被害に遭う。

唯一心を開ける幼なじみの豹馬に少しずつ心を開いていく。

ある邦ロックバンドのカナリアボックスを愛聴し始める。

山沢さん。

本名は山沢 正之。

シングルマザーや毒親育ち、性被害に遭った女性に対してシリアスなメッセージソングを

作ることを生きがいにしている。

さだまさしに強く憧れている。

作者がモデル。

高崎玖蘭。

24歳。19歳の頃に予備校の帰りに

ヘルメットをかぶった男にスタンガンで襲われ、性的暴行を受ける。

2年ひきこもった後、幼少期の夢であったミュージシャンになるべく過去をさらけ出し、ストリートミュージシャンからプロになった女性SSWから音楽理論を学び、無事プロになる。


笑可の音楽的パートナーへと関係が変わっていく。

彩風。

29歳のシングルマザー。

2、3歳くらいの娘を持つ。

山沢さんの人間性に惚れ、彼のパートナーになる。

性被害に遭った過去を持つ。

バンドではキーボードを知り合いなどと交代でやったりする。

沙璃奈(20)。

豹馬のバイト先の先輩でベースが上手すぎる。

尊敬するベーシストは亀田誠治と

田淵智也。

ルミ。

初期から笑可のファンでいる女の子。

15歳、性被害を受けたばかりな時に笑可に会いたいとXで彼女のアカウントにリプを飛ばし笑可が豹馬に付き添われつつ会う。


再会した時に思わぬ出来事が……

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