ドラえもん
文字数 1,244文字
どこでもドアが使えたら笑可の病室にいつでも行けるのに。
もしもボックスがあれば、彼女が大量服薬するのを止められるのに。
タイムマシンがあれば性被害に遭いそうな彼女をすんでのところで助けてやれるのに。
現実にドラえもんはいない。
それが悔しくって、くやしくって。
悲しくてやりきれない。
季節は9月。
当初の予定通り、笑可の2枚目のシングルリリースは果たすことになっている。
正直発売日なんて、どうでもいい精神状態だった。
それくらい笑可が心配だった。
ライブツアーを中止しようとしたら、玖蘭さんから私を代わりのボーカルに起用してくれないか? と
申し出があり応えることにした。
ツアーを2本やって、次の開催日は3日後だから慌てて笑可の病院に行った。
「ナタリーで見たけど、私の代替ボーカルを玖蘭さんがしてくれてるんだってね。
いくら同じ事務所の間柄とはいえ、申し訳ないよ。私の歌を完璧に覚えて披露してくれてるのはありがたいけど」
「玖蘭さんの歌は上手いけど、笑可じゃなきゃダメだよ。
お前が戻ってくるまでオホーツク三姉妹で盛り上げるから」
「ありがとう。みんな優しくてどうしたらいいかわからないよ。私なんかに…私なんかに…」
そう言ってぽろぽろと涙をこぼし始める笑可。
ボクは彼女のか細い体を抱きしめる。
「ルミちゃんの墓、退院したら行きたい。でも本当は生きてて欲しかった。
何で自殺なんかしちゃったんだろ」
「彼女にとっては死ぬことが楽だったのかもしれない。元々実の父から〇されて、それ以上に他人から性加害されてどこまでもツイてない人生に思える」
笑可は決心した目で言った。
「ルミちゃんに捧げる歌を作るためにも生きるよ。私どうかしてた。でもあの時は悲しみで頭がいっぱいになっちゃって、涙色で」
ちょうど笑可のスマホからYouTubeの河村隆一さんの公式チャンネルの涙色が流れ出していた。
うぉおおおん、ほおおおん!
君ぃを知ったァァ、あの場所からぁぁん!
そう、BEATの歌詞をモノマネで熱唱すると「たむちゅーぶ、意識してるよね」と涙声でツッコミを入れる笑可。
「たむちゅーぶの見すぎで河村隆一さんの歌を聴いてるとモノマネしたくなるようになってしまった」
「ライブでは封印してよ?」
笑可が手を差し出してきた。
たまらず握る。
「温かいよ、笑可の手。いいか、オレより先に死ぬな。しわくちゃのおばあちゃんになるまで生きろ」
「………ありがとう」
「将来、どんな人と結婚するかは知らないけどさ」
「目の前にいるじゃない」
「何が?」
「豹馬は人気者になってもファンの女の子とか食わないでよね」
「ったりめーだろが」
涙色を幼い時に聴いた時は酒井法子さんへの提供曲とは知らなかったと山沢さんが言ってたっけか。
加速するスピード。
笑可との面会時間を終え、去り際にボクは彼女の顔を掴みキスをしてみた。
最悪、バンドをクビになってもいいと思いつつ。
彼女は顔を赤らめてずっと黙った後、ぽつりと言った。
「もっと早くキスしてほしかったよ」
病室を去るボクに笑可は手を振ってくれていた。
もしもボックスがあれば、彼女が大量服薬するのを止められるのに。
タイムマシンがあれば性被害に遭いそうな彼女をすんでのところで助けてやれるのに。
現実にドラえもんはいない。
それが悔しくって、くやしくって。
悲しくてやりきれない。
季節は9月。
当初の予定通り、笑可の2枚目のシングルリリースは果たすことになっている。
正直発売日なんて、どうでもいい精神状態だった。
それくらい笑可が心配だった。
ライブツアーを中止しようとしたら、玖蘭さんから私を代わりのボーカルに起用してくれないか? と
申し出があり応えることにした。
ツアーを2本やって、次の開催日は3日後だから慌てて笑可の病院に行った。
「ナタリーで見たけど、私の代替ボーカルを玖蘭さんがしてくれてるんだってね。
いくら同じ事務所の間柄とはいえ、申し訳ないよ。私の歌を完璧に覚えて披露してくれてるのはありがたいけど」
「玖蘭さんの歌は上手いけど、笑可じゃなきゃダメだよ。
お前が戻ってくるまでオホーツク三姉妹で盛り上げるから」
「ありがとう。みんな優しくてどうしたらいいかわからないよ。私なんかに…私なんかに…」
そう言ってぽろぽろと涙をこぼし始める笑可。
ボクは彼女のか細い体を抱きしめる。
「ルミちゃんの墓、退院したら行きたい。でも本当は生きてて欲しかった。
何で自殺なんかしちゃったんだろ」
「彼女にとっては死ぬことが楽だったのかもしれない。元々実の父から〇されて、それ以上に他人から性加害されてどこまでもツイてない人生に思える」
笑可は決心した目で言った。
「ルミちゃんに捧げる歌を作るためにも生きるよ。私どうかしてた。でもあの時は悲しみで頭がいっぱいになっちゃって、涙色で」
ちょうど笑可のスマホからYouTubeの河村隆一さんの公式チャンネルの涙色が流れ出していた。
うぉおおおん、ほおおおん!
君ぃを知ったァァ、あの場所からぁぁん!
そう、BEATの歌詞をモノマネで熱唱すると「たむちゅーぶ、意識してるよね」と涙声でツッコミを入れる笑可。
「たむちゅーぶの見すぎで河村隆一さんの歌を聴いてるとモノマネしたくなるようになってしまった」
「ライブでは封印してよ?」
笑可が手を差し出してきた。
たまらず握る。
「温かいよ、笑可の手。いいか、オレより先に死ぬな。しわくちゃのおばあちゃんになるまで生きろ」
「………ありがとう」
「将来、どんな人と結婚するかは知らないけどさ」
「目の前にいるじゃない」
「何が?」
「豹馬は人気者になってもファンの女の子とか食わないでよね」
「ったりめーだろが」
涙色を幼い時に聴いた時は酒井法子さんへの提供曲とは知らなかったと山沢さんが言ってたっけか。
加速するスピード。
笑可との面会時間を終え、去り際にボクは彼女の顔を掴みキスをしてみた。
最悪、バンドをクビになってもいいと思いつつ。
彼女は顔を赤らめてずっと黙った後、ぽつりと言った。
「もっと早くキスしてほしかったよ」
病室を去るボクに笑可は手を振ってくれていた。