デジタルスープ

文字数 1,096文字

「2回めの配信ライブも私だけで良かったの?」
メガネからコンタクトに変え、髪を外ハネボブにしている弓歌が笑可に尋ねる。
「なんか、2枚目のシングルを作るとなった時に何曲か作ったけど自信なくて。弓歌ちゃんの前なら全部見せてもいいって思えて」

ステージで用意しているボクら楽器隊は笑可が心を許せる親友と話すのを黙って見守る。

「笑可ちゃんに最初に歌って欲しい歌があるんだ」
山沢さんがノートパソコンから繋いだスピーカーに音源を流し始める。
「2週間前に送ってきたユニコーンのデジタルスープのカラオケ音源ですね」
「私は笑可ちゃんをコーラスで支えようかな」
彩風さんはにっこり微笑んで言った。

朗らかに空気は過ぎていく。
笑可の歌にサビで彩風さんのコーラスが重なる。
「ところで、なんで弓歌ちゃんメガネやめたの?」
「……好きな人がメガネ女子あんまり好きじゃない人なの」
「振り向いてもらえるといいね」
「なんか前より好きな人も含めて、視線感じるよ」

「豹馬くんとはどうなの?」
「え、え、え特に何も進んでないよ」
「笑可ちゃんだけをしっかり見ておいてよ、豹馬くん」
「わかった」

2ndシングルの候補曲としての『想いでロストナイト』『列車(LOST IN TIMEのカバー)』『近距離恋愛(GO!GO!7188のカバー)』『夕焼けに沈む』の4曲を弓歌ちゃんと画面の向こうのオマエに伝えた。

もう自分自身に嘘をつくことに
疲れ果ててしまったんだ
(中略)
あの頃はよかったなんて
言いたくはなかったのにな

「家族の詩とか明るいオリジナル曲を作った影響か、暗かったり切ない歌書きたくなった。山沢さんが最近LOST IN TIMEとか音速ライン教えてくるからかな」
「オレのせいにするのかよw」

「あの頃はよかったなんて言いたくはなかったのにな……って思う時はあるけど、このバンドメンバーで進んでいきたい」
そして最後に笑可がカナリアボックスを歌い始める。
「あなたに会えてよかった」
「あなたに会えてよかった」
この曲だけは動画配信してしまいたいと思って、事前に笑可に許可を取ってたので急いでツイキャスを立ち上げる。

さっきまでボクらの有料配信ライブを見ていたリスナーの女性二人が1人はボクのキャスを開いて笑可の歌声を流しながら、もう片割れがそのサビの魔法の言葉を口ずさむ。

「ありがとう、歌ってくれて」
ボクのスマホをのぞき込み、そのリスナーの子に声をかける。
「わー! 笑可さんだ!」
喜ぶ画面の向こうの彼女。

「それじゃ2ndシングルの収録頑張るからみんな待ってて。元北風奏団のゆりあさんと先輩の玖蘭さんと3人で作った歌も入るよ」

ボクらは笑顔でステージを後にした。
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登場人物紹介

豹馬。

17歳。

高校生で、幼なじみの笑可が性被害に遭ったことを知り彼女の力になりたいと思う。

どこまでも笑可のことが気がかり。

自傷癖ができた彼女を心配している。

笑可。

16歳の早生まれ。

夜12時にコンビニへジュースを買いに

行こうとしたところ、性的暴行の被害に遭う。

唯一心を開ける幼なじみの豹馬に少しずつ心を開いていく。

ある邦ロックバンドのカナリアボックスを愛聴し始める。

山沢さん。

本名は山沢 正之。

シングルマザーや毒親育ち、性被害に遭った女性に対してシリアスなメッセージソングを

作ることを生きがいにしている。

さだまさしに強く憧れている。

作者がモデル。

高崎玖蘭。

24歳。19歳の頃に予備校の帰りに

ヘルメットをかぶった男にスタンガンで襲われ、性的暴行を受ける。

2年ひきこもった後、幼少期の夢であったミュージシャンになるべく過去をさらけ出し、ストリートミュージシャンからプロになった女性SSWから音楽理論を学び、無事プロになる。


笑可の音楽的パートナーへと関係が変わっていく。

彩風。

29歳のシングルマザー。

2、3歳くらいの娘を持つ。

山沢さんの人間性に惚れ、彼のパートナーになる。

性被害に遭った過去を持つ。

バンドではキーボードを知り合いなどと交代でやったりする。

沙璃奈(20)。

豹馬のバイト先の先輩でベースが上手すぎる。

尊敬するベーシストは亀田誠治と

田淵智也。

ルミ。

初期から笑可のファンでいる女の子。

15歳、性被害を受けたばかりな時に笑可に会いたいとXで彼女のアカウントにリプを飛ばし笑可が豹馬に付き添われつつ会う。


再会した時に思わぬ出来事が……

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