カナリアボックス

文字数 1,072文字

あなたに会えてよかった
のフレーズがシンプルに感動できるランクヘッドの
カナリアボックスを聴いていた。
山沢さんが青春時代に聴いた歌らしく、PVに次長課長が出てたらしい。

キーGの明るいメロディで鳴り響くその歌を聴いてる時に事件は起きた。
笑可からLINEで『ごめん、やっぱり消えちゃいたい。何のために笑うんだろう……学校にはやっぱり行けないし、生きている意味がわからなくなってきちゃった』
そう彼女が想いをぶつけてきた。
ボクはこんな時聴いてほしくてYouTubeのカナリアボックスのURLを貼った。

それでも既読がつかず、彼女のいそうな場所を探しに走った。
どうにか彼女を見つけ出さないと。
手遅れになったら終わりだ。

3つ目の彼女がいそうなプルケリマ公園に彼女はいた。
ベンチに1人座って、真冬なのに寒そうにもしないでマフラー巻いて泣き続けている。

そんなとこにいたって、心のキズはふさがらないよ。
ボクは慌てて笑可の元まで走った。

そして、スマホの音量をフルボリュームにしてカナリアボックスを流し始めた。

僕らは独りで強くなる必要なんかないんだよ
この目と手と声と耳で
あなたに繋がっている
あなたに会えてよかった

笑可は歌詞の意味を理解しながら、ただやっぱり泣いていた。
でも、最後のサビにさしかかると彼女は穏やかな笑みを浮かべて「いい曲だね。誰の何て曲?」と聴いてきた。

「LUNKHEADって00年代に勢いがスゴかったバンドだよ。まだしっかり活動続けてるバンドで、山沢さんも色んなミュージシャンやバンドが活動を止めていく中で彼らが続いててよかったって言ってたよ」

ボクは寒さに震え始めた笑可の身体を抱きしめた。
「いつも心配ばかりかけてごめんね。つい最近までは豹馬が私を振り回す側だったのに。
授業中にお前に食わせるタンメンはねえ!のギャグを友達にしつこく12分以上はして、先生に怒られてたのはどこのどなただったっけ」

「それは言わない約束じゃないか。笑可のいない教室じゃふざける気力も湧かないんだよ」
腕の中で静かにまた泣き始めて笑可は言った。

「ただそばにいてほしい。男性は怖いけど、でも豹馬のことは怖くないんだ。
山沢さんみたいな面白い人紹介してくれるし」

彼女の心音は4分の4拍子のBPM110のゆったりしたドラムみたいに鳴ってる。

笑可の心音をヘビメタ並に高鳴らせたい。
喜びの感情で塗り替えてしまいたい。
壊してしまいたい。

笑可の人生を後悔や悲しみで終わらせない。
楽器は弾けないけど、エモい熱さで彼女を変えてしまいたい。
心の傷なんて全部ぶっ飛ばしたい。

満月がミラーボールみたいだった。
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登場人物紹介

豹馬。

17歳。

高校生で、幼なじみの笑可が性被害に遭ったことを知り彼女の力になりたいと思う。

どこまでも笑可のことが気がかり。

自傷癖ができた彼女を心配している。

笑可。

16歳の早生まれ。

夜12時にコンビニへジュースを買いに

行こうとしたところ、性的暴行の被害に遭う。

唯一心を開ける幼なじみの豹馬に少しずつ心を開いていく。

ある邦ロックバンドのカナリアボックスを愛聴し始める。

山沢さん。

本名は山沢 正之。

シングルマザーや毒親育ち、性被害に遭った女性に対してシリアスなメッセージソングを

作ることを生きがいにしている。

さだまさしに強く憧れている。

作者がモデル。

高崎玖蘭。

24歳。19歳の頃に予備校の帰りに

ヘルメットをかぶった男にスタンガンで襲われ、性的暴行を受ける。

2年ひきこもった後、幼少期の夢であったミュージシャンになるべく過去をさらけ出し、ストリートミュージシャンからプロになった女性SSWから音楽理論を学び、無事プロになる。


笑可の音楽的パートナーへと関係が変わっていく。

彩風。

29歳のシングルマザー。

2、3歳くらいの娘を持つ。

山沢さんの人間性に惚れ、彼のパートナーになる。

性被害に遭った過去を持つ。

バンドではキーボードを知り合いなどと交代でやったりする。

沙璃奈(20)。

豹馬のバイト先の先輩でベースが上手すぎる。

尊敬するベーシストは亀田誠治と

田淵智也。

ルミ。

初期から笑可のファンでいる女の子。

15歳、性被害を受けたばかりな時に笑可に会いたいとXで彼女のアカウントにリプを飛ばし笑可が豹馬に付き添われつつ会う。


再会した時に思わぬ出来事が……

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