第64話

文字数 898文字

レコーディングスタジオで玖蘭さんは言った。
「笑可ちゃんと君とでミニアルバム作ろうよ」
ボクは少しポカンとしてしまった。
「ボクでいいんですか?」

「笑可ちゃんをここまで引っ張ってきたご褒美よ」
玖蘭さんが全楽器を担当する歌が2曲、一緒に演奏する歌2曲、玖蘭さんがギターを弾いて笑可が歌うパターン、その逆の6曲で行くつもりらしい。

ミニアルバムのテーマは『大切なものを喪失した少女が動いてしゃべるクマのぬいぐるみ(ルナ)と猫のぬいぐるみ(シー)と一緒に旅をして、宝物を見つけるけれどぬいぐるみたちは動かなくなっていた』という独特な玖蘭さんのものだった。
性被害直後、そんなテーマで7万字の小説を書いたらしい。

LUNASEAのI for Youを聴きながら夢中で執筆したらしい。

ふぉおおおおおぅ!
っぅふぅふううううー!

玖蘭さんの普段の歌とは違い、セリフがふんだんに用意されているのが特徴でルナ役を玖蘭さんがシー役を笑可がやることが決まった。

エレキでクリーントーンを弾く笑可にトレモロのギターで合わせていく玖蘭さん。
さっそく1曲目にふさわしいインストを作ろうとしてるみたいだった。
この頃になると相手の弾く和音に対して次に来る和音を予想してベースが弾けるくらいに成長してた自分は彼女たちに合わせて、ベースラインを弾いた。

2人のコーラスが美しく合わさる。
それを女性エンジニアが録音している。
3曲まで録って、一休憩することに。

「私があげたピック無くしてなかったんだね」
「うん」
「ありがとう」
「玖蘭さんからもらったピック無くせる訳ないじゃないか」

4曲目に玖蘭さんがピアノを弾いて笑可がミュート気味なカッティングのギターを弾いた歌を、5曲目に8分を超える長尺なプログレ気味なぬいぐるみたちとの別れを歌った切ない歌を、6曲目には最初笑可ソロのハミング、続いて玖蘭さんのハミング、そして両者のハモリの後に彼女たちがぬいぐるみになりきって、『私らはいつもいるよ』と言い残すエモい終わらせ方でミニアルバムの音源は完成した。

玖蘭さんが「どこまで2人の恋が進んだか聞かせてもらおうじゃないか」と言った。
どうやら打ち上げへ発展するようだ。
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登場人物紹介

豹馬。

17歳。

高校生で、幼なじみの笑可が性被害に遭ったことを知り彼女の力になりたいと思う。

どこまでも笑可のことが気がかり。

自傷癖ができた彼女を心配している。

笑可。

16歳の早生まれ。

夜12時にコンビニへジュースを買いに

行こうとしたところ、性的暴行の被害に遭う。

唯一心を開ける幼なじみの豹馬に少しずつ心を開いていく。

ある邦ロックバンドのカナリアボックスを愛聴し始める。

山沢さん。

本名は山沢 正之。

シングルマザーや毒親育ち、性被害に遭った女性に対してシリアスなメッセージソングを

作ることを生きがいにしている。

さだまさしに強く憧れている。

作者がモデル。

高崎玖蘭。

24歳。19歳の頃に予備校の帰りに

ヘルメットをかぶった男にスタンガンで襲われ、性的暴行を受ける。

2年ひきこもった後、幼少期の夢であったミュージシャンになるべく過去をさらけ出し、ストリートミュージシャンからプロになった女性SSWから音楽理論を学び、無事プロになる。


笑可の音楽的パートナーへと関係が変わっていく。

彩風。

29歳のシングルマザー。

2、3歳くらいの娘を持つ。

山沢さんの人間性に惚れ、彼のパートナーになる。

性被害に遭った過去を持つ。

バンドではキーボードを知り合いなどと交代でやったりする。

沙璃奈(20)。

豹馬のバイト先の先輩でベースが上手すぎる。

尊敬するベーシストは亀田誠治と

田淵智也。

ルミ。

初期から笑可のファンでいる女の子。

15歳、性被害を受けたばかりな時に笑可に会いたいとXで彼女のアカウントにリプを飛ばし笑可が豹馬に付き添われつつ会う。


再会した時に思わぬ出来事が……

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